Kismet -10-
3人が軍議用天幕に戻る―
「守備ご苦労だった、ドメス将軍。」
「いえ、お三方こそ、ご苦労様でした。
で、戦果は?」
「あぁ、ここに。
進児大佐、こちらとあちらの被害状況は?」
手元にある書類から報告する。
「…こちらは軽症者が89名中、12名。
向こうは200名中、死者2名、重傷者、1名、軽症者が38名ほど…」
「死なせてしまったものがいたのか…」
残念そうな顔をする皇太子。
「あ、それ、俺んところ。」
「ビルの?」
「あぁ。 階段から転げ落ちてしまったやつがいて打ち所が悪かったんだ。
そいつに巻き込まれたのが2人。」
「そうか…
それではここで1日休んでから国へと帰る。」
「「「はッ!!」」」
彼は天幕を出ると王女の元へ―――
「姫。もう起きているか…?」
王女の天幕へ入るとベッドに肘を突き、祈るような姿。
「殿下!! やっとお戻りに?」
「あぁ、すまない。
心配してくれていたのか?」
「…少し。」
彼女はそう言うが、相当心配してくれていたのだと顔を見れば解る。
王女のそばに近づいていく。
「殿下、城に…攻撃にいらしたのでしたわね?」
「あぁ、そうだが? 何か?」
確かに頬にうっすらとした紅い傷跡があるが
女物の香水の香りがする。
「…何処かで女性をお抱きになってきたのでしょう?」
「は?」
「だって…女性の残り香がする…
いくら私が子供でも解るわ。
私が幼くて抱けないからって… あてつけてらっしゃるのね!!」
「姫?!」
突然の言葉に驚く王子。
自分の身に漂う香水の香りにやっと気づく。
「いいの…
どうせ私は父とあなたの間の和平の印…
私の心なんて関係のないことですものね!!
あの時、私を助けに来たのも男のプライドを…
皇太子としてのプライドを守りたかっただけなのだわ!!」
彼女が突然感情をむき出しにして来たので、面食らい戸惑う…。。。
「どうせ私なんて…まだ子供で色気も何もないもの…」
自分で自分を抱き、目元には涙が滲んでいた王女。
「何を言う!? 姫… 私はあなたが欲しい。
だから…ここまで連れてきた。
国に戻れば、正妃にするとあなたの父と約束した。」
「そうよ…父との約束で私と約束したわけではないわ!!」
「!? あ…」
「あなたにとって私は…田舎者の小娘。
その上、子供。
伽の相手にすらならないのね…」
「姫…私はそなたを愛している…」
「口ではなんとでも言えるわ。
子供相手でだから口だけで済ませたいのでしょう?
どうせネンネの私なんて面倒なだけなのでしょう?」
「!?!? 違うぞ、それは。」
「どう違うの? この数日、そばにいてキスだけ?
いくらでも機会はあったのに…」
「…!!」
その言葉で彼女の想いが自分に向き始めていたことに気づく。
そして今、嫉妬と不安で混乱している事を理解した。
「…姫、よく聞いてくれ。
私は…一目惚れした。
そなたの清楚な美しさに。
天幕に連れ帰って… そなたがまだ17になって間もない少女なのだとチルカに言われて…
"今の状況で混乱なさっている。"のだと…
だから少し距離を置いて、時間をかけようとしていた。」
「え?」
「ずっとそばにいて… 毎夜、抱きたいと、私のものにしたいと想う気持ちを抑えてきた。
私は出会ったときから、恋焦がれ、愛したいと願ってきた。。。
ファリア姫、今、私のことをどう思っている?
まだ…怖いか?嫌いか?」
王女はふるふると首を横に振る。
「私…私は… あなたをお慕いしております。
愛しています…」
「姫… そうか…」
彼は笑顔を見せる。
その前で王女は頬を染めた…
「ご、ごめんなさい…私、子供で何も知らなくて気づかなくて…」
「もういい。よく解ったから…
アイリス国王女ファリア姫…改めて申し込もう。
私と結婚してくれ。
私の正妃になって、いずれ王妃になって欲しい。」
彼は彼女の前にひざまづき、愛を乞う。
ぼろぼろと王女の瞳から涙が溢れる。。。。
「あ… はい。殿下。
私なんかでよければ。」
「…嬉しいよ。
私は自分の理想の妃を…西の果ての国で見つけられた。」
「殿下…」
そっと手の甲にくちづける皇太子―――
「姫。しばらく待ってくれ。」
「…? はい。」
彼は天幕を出て行くと、今までに各地で得てきた宝物の中から指輪を選んでくる。
駆け出して天幕へ戻ると 息が上がっていた。
「待たせたな…」
「何ですの?」
彼は近づき彼女の左手を取り、手の中に握り締めていた指輪を嵌める。
「あ…。」
「今日の…約束の印として指輪を…」
「殿下…」
ぽろぽろと涙が溢れる。
彼が選んできたのはカトラス国の宝物庫にあった…
小ぶりながらも美しい輝きを放つダイヤモンドのリング―
「…これから私達は婚約者同士だ。いいね?」
「は…い。」
「いや、恋人同士と言ったほうがいいかな?」
「殿下…」
照れ臭げに頬を染める王女を見つめる。
「…姫、もう私をそう呼ぶな。リチャードでいい。」
「いいえ。そんな事出来ません。」
「殿下と呼ばれるのもイヤだ。」
「リチャード様…」
「そうだ。それでいい…」
優しくくちづける皇太子の腕は華奢な王女を包むように抱きしめる。
「ファリア…私の愛しい乙女よ。」
「リチャード様…」
2人はお互い、回り道をしてきたのだと理解した。。。。
王女の腕が抱きしめてくれている彼の背に廻る。
胸に顔を埋め、歓喜の涙を流し抱きついていた。
彼の手は優しく黒髪の中に入り、背を髪を撫でていた。
「すまなかった… ずっとそなたは不安なままで…
想いを告げるのは先だと想っていた。」
「いいえ。私のほうこそ…子供で無知でごめんなさい。
…ごめんなさい。。。」
「もう謝るな。
ファリアを愛してる。
そなたしか愛せない。抱きたくないのだ。」
「リチャード様…」
王女が胸から顔を上げてみると、熱い想いを湛えたエメラルドの瞳。
「あ…」
しかも抱きしめてくれている彼が昂ぶり、熱を帯びてきているのが
おへその辺りに当たっている…
王女の頬は一気に真っ赤に染まる。
「ファリア…」
もう迷わないと決めた王女はギュッと抱きつく。
その時、進児大佐とビル大佐が声を掛けながら入ってきた。
「殿下ー!! エリエス国国王から… !? し、失礼しましたッ!!」
ふたりはあわくってしまい、天幕から飛び出して行った。
「ファリア…すまない。
なにやらあったようだ。」
「…そのようですわね。」
「…今夜必ず…。
だから待っていてくれ。」
「はい。」
彼は照れ臭そうに王女の天幕を出て行く。
進児大佐とビル大佐の前に来ると、いつもの皇太子の顔…
「進児大佐、ビル大佐!!
どうした? エリエス国王が何だ?」
頬を染めた進児大佐が返答する。
「その… 正式に我々を城に招待したいと。」
「何?!」
「使者が来てる。」
「そうか。私が返答しなければならんな。
何処に待たせてある?」
「軍議用天幕に… 今ドメス将軍と話してる。」
「解った。行こう。」
3人は連れ立って、天幕へ向かう。
中に入ると鋭い目つきの50そこそこ位の痩せ型の男がいた。
「リチャード殿下でいらっしゃいますな?」
「あぁ。貴殿は?」
「私はエリエス国国王の名代で参りましたノーウッドと申します。
今回の件、当方が誤解をしていたと…詫びたいと。
それと王女の無礼を許していただければと言い付かっております。」
「そうか。
私は気にしてないさ。
それより王女は痛くプライドを傷つけられ、ご立腹ではないのか?」
「あ…それは…」
彼が鋭いトコロをついてきたので変更に困る。
「私の顔など見たくもないはず。
城へのご招待はありがたいが… 辞退しよう。」
「!? 殿下はそれでいいのですか?」
ノーウッドはまさか断ってくるとは思ってなかったので
驚いた顔をしてしまう。
「私は臣下や財を増やしたくて旅しているのではない。」
「それでは言い方を変えます。
国王は今回の一件の事で 色々と考えさせられた礼に城での宴にご招待したい…と。
いかがでしょうかな?リチャード皇太子殿下…?」
「そうか、そういう風に言うか…
宴に招待というのなら応じよう。
何人まで連れて行けるか?」
彼の返答に満足したらしいノーウッドは笑顔で告げる。
「…全員で300名ほどと伺っておりますが?」
「あぁ、今は少し減っているので270名ほどか…」
「かしこまりました。
兵士の方々は城下町の宿屋に分宿となりますが…
30名ほどまでなら城にご宿泊できます。」
「…解った。
今、昼時だな?」
ノーウッドに返事したあと、ドメス将軍に問う。
「はい。殿下。」
「昼食後、天幕をたたむように皆に告げよ。
夕刻にはエリエス城につけるだろう。」
「「「かしこまりました。」」」
彼の毅然とした言葉にノーウッドも感心して見ていた。
「…では私は陛下に伝えに戻ります。」
「解った。国王によろしく伝えおいてくれ。」
「はい。それでは失礼します。」
ノーウッドが天幕をあとにすると彼は思案する。
「ふむ…
私は王女の天幕にいる。
何かあれば来てくれ。」
「…はい。」
「殿下。」
彼に問うように声を掛けたのはビル大佐。
「その…入っていいのですか?」
「何を言いたい?」
「…さっきみたいに 俺達が邪魔しちゃ悪いだろう?」
「…あてつけに見えるか?」
「ま、な。」
ビル大佐はにっと笑いながら応える。
「目のやり場の困るのは確かだな。」
進児大佐がビルと同様に告げるとははは…と笑って天幕を後にする皇太子がいた…
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(2006/1/25)
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