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Kismet -9-
リチャード皇太子は王女の世話をしていたふたりを国へ帰す事にした。
男数人がかりで乱暴されたのだと思うと心の傷はいかばかりかと…
早く帰国したい兵を募り、彼らにふたりの護衛をさせて、先に国へ帰す…
彼は少々女顔の兵に彼女の世話をさせることにした。
強面のいかにも無骨な男だと怖がるかもと配慮しての事。
「姫、すまないがキリーとチルカは傷を負ったので
先に国へ帰した。」
「え?」
「女兵士がいないので…
この者たちに世話をさせる。
少々不便だろうが…」
申し訳なさそうな顔をして彼は王女に告げる。
「いいえ。
自分のことは自分で出来ます。
随分、あのふたりには世話になりましたし…
おかげで旅にも慣れる事が出来ましたもの。
養生するようにお伝えくださいな。」
「あぁ、解った。
伝えよう…
明日までここに逗留することになった。
十分、休んでくれ、姫。」
「はい。」
*
皇太子はその日の夕方に調査兵の報告を受ける。
「今回はさすがにアイリス、カトラスのようには行かないようだな。」
「えぇ、殿下。」
ドメス将軍は眉間にしわを寄せている。
「エリエス国は今までの二国と違い、軍事力を持っています。
このビスマルク大陸 西部地方での睨みを利かせていると言っても
過言ではない。」
「ドメス将軍の言うとおりだな。
この調査結果からしても。」
「俺達のルートを予想して待ち構えているようだな。」
「あぁ。」
首脳陣は城下の地図と城内の兵士の配置図を見つめている。
「ふむ…
城の守りを固め、城下はほったらかしか。
狡いことを。。。
とりあえず、城の要所要所のものを買収せよ。」
「「はッ!!」」
進児とビルは彼の命を受け、動き出す。
「兵士たちには鋭気を養うように伝えろ。
今回の作戦には100名ほどを投入する。
東から私が、西から進児大佐、南からビル大佐が突入しよう。
ドメス将軍は本陣を守ってくれ。」
「「「了解しました!!」」」
3人は敬礼する。
「それでは作戦開始時刻は明日、深夜3時に。」
「「「はッ!!」」」
皇太子は調査兵が持ち帰ったものを手に王女の天幕へと向かう。
「姫、少し邪魔するぞ。」
「…殿下。
軍議はどうなりましたの?
エリエス国王は機知に長けた方と聞き及んでおります。」
彼は切れ長の目を細める。
「…そなたも知っていると言う事は相当な人物のようだな。
だが大丈夫だ。 私はいつも相手に勝ってきた。」
「…。」
(私の父のことも…そんな風に思っていらっしゃるのね…)
黙ってしまった王女の目の前に兵が持ち帰った物を見せる。
「あ…!?」
「久しぶりだろう? 新鮮な果物は。」
「えぇ。」
「王女にと持って帰ってきてくれた兵がいてな…
早速持ってきた。
食べてくれ。」
「…ありがとうございます。」
銀器に盛られた果物に手を伸ばす。
りんごにイチゴ、オレンジなどが載っていた。
甘い香りが鼻腔をくすぐる。
口に運ぶと甘酸っぱいがそれも新鮮だからなのだと解る。
「美味か?」
「えぇ、とても。」
彼は一切 手をつけず、王女が食べるのを見ているだけ。
銀器の果物を半分近く食べた時点で手を止める王女。
「もう十分か?」
「えぇ。ごちそうさまでした。
その兵にありがとうとお伝えくださいな。」
「あぁ。
残りはここに置いておく。
また明日に食べるといい。」
「…はい。」
***
―夜
昨夜あんな事があったせいもあって、眠れない王女。
兵士たちは少し距離を置いて守りについていた。
夜空の星を見上げていると、人の近づく気配を感じて振り返ると彼…
黒の甲冑に身を固め、濃臙のマント姿。
「…殿下?」
「こんな時間にどうした?
眠れないのか?」
「少し…」
「あまり夜の冷たい空気の中にいると身体が冷える。
早く戻ったほうがいい。」
「は…い。」
彼に肩を抱かれて歩き出す。
何故かそこから火照るような熱さを感じていた。
「…。」
天幕に王女を連れて行くと入り口で去ろうとする。
「じゃ、早くお休み。」
「あの…」
「ん? 何だ?」
「…何でもないですわ。
おやすみなさい。」
入り口のカーテンをくぐって入ろうとすると声を掛けてきた。
「…姫。」
「はい?」
「私は深夜に作戦に出る。
そなたが起きる頃にはカタがついていることだろう。」
「!?」
少し困惑しながらも王女は口にする。
「無事のご帰還を…お待ちしています…」
「あぁ。全力を尽くしてくるよ。」
天幕に王女を入らせると彼は軍議用の天幕へ。。。
少し険しい顔をしながらも内心は王女の言葉に嬉しさを覚えていた。
一方、王女は…
自分の心の反応に驚いていた。
(万が一…戦死なさったら…どうなるの?
私は…? この兵たちは…?
私はあの方を失うのを恐れているの??
あの方にとって私は父との和平の印。
そしてアイリスのための…
あの時の父との言葉を守るために私を助けた。
そして…私みたいな子供っぽい小娘をもう抱く気さえ起きない…
私…私… やっぱり… あの方が好きなの…?? 愛してるの?)
昨夜、彼はベッドで自分を抱きしめて眠った。
しかも肌にくちづけてきたけれど、それ以上は何もしてこなかった。
(私、さっき あの方に肩を抱かれた時…
身体が熱くなった…私、私は…!!)
王女は声を殺して泣き崩れた。
(…あの方を求めてる。 恋しているのだわ!!)
国いた頃、読んだ恋物語の本の内容を思い出す。
自分にこんな感情があることを初めて知った―――
(リチャード殿下… お願い。 無事に帰ってきて…
私、素直になるわ。 だから…)
胸を切なく振るわせる乙女に誰も気づかない…
***
皇太子は午前3時の作戦開始と同時に兵を連れて出発する。
エリエス国の城下町まで小1時間、馬を飛ばさなければならない。
騎士の顔をした彼は夜明け前の空の下を駆けていく。
真っ黒の甲冑姿の彼はまさに「黒の皇太子」…
闇に乗じてリチャード皇太子、進児大佐、ビル大佐が率いる兵士たちが城下町を駆け抜け
王城に辿り着く。
下馬し、3方に別れ城内へ突入―
夜明けに来ると思って油断していた兵たちは、すぐに押さえつけられ縛り上げられる。
何人かが歯向かって来るが殺すことなく倒していく。
運悪く負傷してしまう兵士がいた。
皇太子に刃を向け、突進してくるものがいた。
ヒラリとかわすが、刃は彼の頬を掠めた。
「!?」
それでも相手を殺さないようにと
壁に叩き付け、昏倒させた。
彼は城内の敵兵士を部下に任せ、
王の寝室へと進んでいく。
途中、進児とビルと合流する。
「行くぞ!!」
「「はッ!!」」
王の寝室の場所は下調べの時点で判明している。
部屋に突入すると部屋の片隅でガタガタと震えている情けない姿の国王―
「あなたがエリエス国国王だな。」
真っ黒の甲冑の青年…皇太子に問われうんうんとうなずく。
「命だけは!! 命だけはお助けを!!」
「命は取らん。
国も取るつもりはもない。
この約定書にサインが欲しいだけだ。」
「…は?そのようなことで??」
「私は無益な殺生はしたくないのだ。」
「わ、わかりました。しばしお待ちを。」
「うむ。」
国王は差し出された約定書に目を通してみる。
「!? これは…!!
あなたの国への忠誠を誓うものではないのか!?」
「…違う。
このビスマルク大陸での不可侵の約定を取り付けたいだけだ。
他国に侵される事もなく、侵すこともない…平和な世界を望んで。」
「!?」
「今は…この大陸はまとまりのない小国家の集まりだ。
どこかの国がリーダーとなってまとまって行かなければならない。
わが国と周辺国が約定書で持ってお互いの国を守ろうと始めた事。
ビスマルク大陸全体へと広げる為に私が各国を廻っているだけだ。
たま貴殿のように反抗する国もあるがな。」
「は…は…そうか。」
噂では侵略を受けた国は、あまたの血を流した結果、
ラーン国の属国となたと聞いた。
間違いだったとすぐに気づく。
「サインしたか?」
「は!! 今すぐ!!」
サインした書と自分の国の国王の名のサインが入ったものを交換する。
「では、もう用はないぞ。」
部屋を出て行こうとする皇太子を呼び止める。
「しばしお待ちを!!」
「何だ?」
「お渡ししたいものがございます。
どうかお受け取りを…
さ、こちらに。」
「ふむ…ま、いいか。」
進児とビルに顔を向けるとウィンクされた。
3人が国王に連れられ、廊下を歩く。
ある扉の前に着くと国王が告げる。
「しばしお待ちを。」
「…解った。」
3人は10分ほど待たされる。
「さ、お待たせしましたどうぞ。」
3人が室内に入ると、3人の乙女の姿。
「「「!?」」」
「私の娘達です。どうかお受け取りを。
さ、ジュリア、殿下にご挨拶を。」
夜着姿の王の娘が頭を下げる。
「王の娘のアリシアです。」
彼は無関心そうに王女を見つめる。
「…私には必要ないのでご辞退しよう。しかも何故3人なのだ?」
「私の娘はふたりだけですが…あとのひとりは娘の侍女。
そちらの将校様に…」
「俺も必要ないな。」
進児も憮然とした顔で告げる。
「せっかくなんだぜ~!?
俺、こっちの金髪の美人がいいな♪」
「「ビル!!」」
ビルだけは嬉々とした笑顔。
「君…名前は?」
「ジョーンと申します。」
「君も王の娘?」
「いえ、残念ながら。」
「でも…いいや。俺のタイプだし。」
「お前なぁ…」
ビルは鼻の下を伸ばしてジョーンの肩を抱く。
彼女もまんざらではないらしく、頬を染めていた。
「殿下…、私の何処が不満なのです?
お教えくださいませ!!」
アリシア王女は彼に問いかける。
「私にはもう心に決めた乙女がいる。
だから必要ないのだ。」
「!? いやです!! 私をお連れ下さいませ!!」
さっき父にラーン王国の皇太子の元に行けと言われた時は反抗したが、
今はハンサムな彼を見てどうしてもついて行きたいと思った。
王女は彼にしがみつく。
その様子を見てビルは少々、羨ましげにしていた。
「残念だが… 私はもう彼女しか愛せないのだ。
許せ。」
王女の肩を掴み、己の身から離す。
しかし諦めずに抱きつく。
「イヤ!! 私を…」
「私はあなたを傷つけたくはないのだが…
あなたを抱きたいとは思わない。」
「そんな…」
胸の谷間が見えている薄物の夜着姿の自分を見てそう言われ
王女のプライドは傷ついていた。
「すまんな… エリエス国王、それに王女よ。さらばだ。」
進児大佐と皇太子リチャードは踵を返して部屋を後にする。
ビルだけは少々名残惜しそうにしていた。
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(2006/1/25)
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