Kismet -6-
―夕方
軍議用天幕にカトラスの城下町に行っていた調査兵が戻り、報告が入る。
「…ふむ、やはりそうか。
この国もあまり軍備を整えていないようだな。」
「そのようですな。」
「よし、それでは早速交渉に入ろう。
…今回はドメス将軍が付いてきてくれ。」
「了解しました。」
「進児大佐、ビル大佐。
あとを頼む。」
「「はい。」」
皇太子はドメス将軍だけを伴って王城へ向かう。
名を告げ国王に謁見を申し込むとすぐに通された。
「あなた様がラーン王国のリチャード殿下ですか?」
「あぁ。
私は貴殿が反抗しない限り、軍を進めるつもりはない。
わが国の約定書にサインが欲しいだけだ。」
「…はい。解りました。」
あっさりとした返事に拍子抜けする皇太子と将軍。
「随分、物分りがいいな。」
「アイリス国も…従ったのでございましょう?」
「あぁ。」
「今のアイリス国王はまた従兄弟…。
彼が従ったのなら、それに倣うまで…」
「そうか。
賢明な判断だ。」
彼は理由を聞いて納得する。
「それでは…殿下。
私もあなた様に娘を…
スザンナ…」
「はい。父上…」
玉座のそばにいた少女が彼の前に進む。
彼は目を細めて王女を見つめる。
「年はいくつだ?」
「14歳でございます。」
「…私は少女を愛でる趣味はない。
王女は丁重にお返ししよう。
他に…何かないのか?」
皇太子が断ってくるとは思ってなかったのでうろたえてしまう国王と王女。
「は…はぁ… それでは…宝物庫のものを…」
「それならば…」
国王に連れられ、彼は宝物庫に。
金貨の入った木箱が100ほど詰まれ、首飾りや宝剣などの貴金属が置かれていた。
「ふむ… それでは、金貨の木箱を20箱と…首飾りを頂いていこうか…」
「は…はい。」
彼は兵士を借りて運び出させる。
意気消沈する国王を見て彼は告げた。
「嘆く事はないぞ。
この金は貴殿の元へ戻る事になる。」
「は?」
「この金の大半は私の兵士達に分配する。
2,3日逗留するつもりだ。
兵士達はこの町の宿屋に泊まり、飲み食いし、モノを買うだろう。
つまりこの国の民の生活を支える。
民は裕福になれば国王に感謝するだろう。」
「…あ!!」
彼の言いたい事がやっと理解できた。
「解ったか?私のいっている意味が。
民から信頼や愛が欲しければ、税金を重くするのではなく
まずは民にほどこすことだ。
生活が安定すれば、喜んで税金も納めるだろう。
つまり国が潤うと言う事だ。
貯め込んで置くのではなく、生きた金を使うのだな。」
「!!… は、はい…」
自分より若輩の皇太子に言われ、面食らうが道理は通っている。
「それではサインをした約定書を頂こうか?」
「はい…」
彼は受け取ると、城を出ようとする。
「あの…殿下。」
「何だ?」
「2,3日逗留なさるのなら、我が城に滞在を…」
国王の申し出に目を細める。
「そうか。ありがたい。
私の兵たちも私がいないほうがゆっくりできるからな…」
「では、殿下と将軍が…こちらに?」
「いや。
一度、あっちに戻る。
…こちらへの滞在は…3名だ。」
「はい。かしこまりました。」
皇太子は馬に跨り、一度 天幕へ戻っていく。
金貨の入った木箱20個と共に。
彼の言葉どおり、金貨のたっぷり入った木箱。。
木箱1個につき10万G .
一割…つまり20万を自分の手元に残す。
10万ずつをドメス将軍、輝大佐、ウィルコックス大佐に分け、
アトの150万Gを兵士達に分配する。
兵士それぞれが5000Gほどを手にする。
一般兵も普段より10倍近い収入を一日で得ることに。
兵士達はカトラスの城下町で豪遊する事になる。
気前のいい客に町の商人たちも宿屋の主人たちもほくほく顔…
***
皇太子とファリア王女、ドメス将軍はカトラス王城に滞在。
初日の夜、宴会が催される。
王女はその夜、国王に呼び出された。
「アイリス王女・ファリア様ですな。」
「はい。」
何処か父に似た雰囲気の国王。
父とはまた従兄弟だと聞いた事がある。
「あなたの父上から親書が来た。
これです。」
受け取り、それに目を通す。
"リチャード殿下の申し出を断るな。
彼の目的は侵略ではない。略奪が目的はではない。
ただ…娘は連れて行かれた…"
それを見て王女は涙が溢れた。
「…そしてこれが…もしあなたに会うことが出来たら渡して欲しいと。」
「ありがとうございます。陛下。」
王女は受け取り、紐を解いて羊皮紙の手紙を読む。
「…あ。 !?」
父からの手紙はこのようなもの…
"ファリアへ…
この度は突然、このようなことになって驚いている。
私はお前が幼い頃からその可愛さと美しさを
他人に見せたくなくて城からあまり出させたくなかった。
都以外何処にも行かせたくなかった。
しかし…あの時はああするしかないと思って…殿下にお前を差し出した。
まさか「正妃にする」と言われるとは思っていなかった。
突然、運命が動いておまえ自身が一番驚いている事だろう。
リチャード殿下に大切にされ、幸せな家庭を築けるようにと私は祈っている。
あのお方なら…お前をきっと幸せにしてくださると信じてる。
達者でな。私の娘よ…
アイリス国国王・アーサー"
王女はポロポロと涙が溢れた。
「ファリア姫…」
「はい。」
カトラス国王は涙の落ち着いた彼女に声を掛ける。
「私も娘を差し出したが、あのお方は断られた。
まだ幼い少女を愛でる趣味はないとおっしゃって。
でも…あなたは…」
悲痛な笑顔を彼女に見せる。
「コレが私の運命なのですわ。
殿下と出会い、動き出した私の道…」
「…リチャード殿下は噂と違い、思慮深く良い名君になるお方のようだ。」
「そうなのかしら…?? 私はまだ良くあの方が解らないの。」
「…そのうちに解りますよ。」
「…。」
王女は自分の中に生まれた感情をまだ理解できなかった…
***
城を後にしたのは2日後の朝―
次の国、エリエス国を目指して移動を開始する。
国境まで2日ほど掛かる。
草原と平原を越え、国境近くに川があるあたりで、野営の天幕を張る。
いつもと違い、水がたっぷりあるので食事も少々手の込んだものが出る。
そしてカトラスの都で仕入れたものがまだ新鮮…
夕方前に着いたので、非番の兵士達は川で水浴びをしていた。
少し羨ましげに見つめる王女を見て彼は問いかける。
「ファリア姫…」
「はい?」
「あなたも水に浸かりたいですか?」
「え? えぇ…そうね。気持ち良さそう…」
彼は少し考える。
「…少し上流に行けば、森になっている。
人目につきにくくなるのでそこまで行けばいい。
もちろん、キリーとチルカと一緒に行ってくればいいさ。」
「殿下…いいのでですか?」
「あぁ。」
王女はキリーとチルカと共に川の上流へ…
少し川幅は狭いが水浴びするには十分。
王女はドレスを脱いで、素肌を晒す。
キリーとチルカは見守りながらも周辺に気を配っていた。
しかし目の前の王女の裸身は同性から見ても美しい…
女兵士の監視をかいくぐって 2人の男が3人を見つめていた。
「女だ。しかも若く美しいぞ。」
「あぁ。」
3人の様子を伺っている4つの目。
水から上ると王女はキリーの差し出すタオルで身体を拭く。
「ああ。気持ちよかったわ♪すっきりした。。」
「ようございました。姫様。」
「ありがとう。
あなたたちは入らないの?」
「私どもは…遠慮させていただきます。」
「そうなの??」
心配する王女の顔に笑顔を向けるキリー。
「さ、殿下が心配なさいますから…早く戻りましょう。」
「そうね。」
3人は連れ立って、その場を去る。
2人の男は密かに3人を追いかけていく。
彼女たちが何処へ戻っていくのかじっと見つめていた…
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(2006/1/22)
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