Kismet  -8-





天幕に戻ると しばらくして軍医がきた。


王女を診察するその顔は心配に彩られている。


「おぉ… これは… お可哀相に… 美しいお顔をぶたれたのですな。
なんと酷い事を…」

頬は真っ赤に腫れており、手首にはきつく掴まれた為にうっ血の痕。
胸元にはドレスをナイフで切り裂かれた時のうっすらとした傷跡。


「…チャーリー。
彼女の診察を頼む。
私は軍議用の天幕に行ってくる、」

「はッ!」



王女は彼が離れていく事を少し淋しく感じていた。

   (私… )


あの瞬間に悟った、自分の想い…


リチャード皇太子を好きだと言う感情をやっと受け入れ始めていた。

彼のぬくもりと吐息が恋しいと。。。


「ファリア姫は私にとってアイリス国王から頂いた和平の印でもあるのだ。
頼むぞ。」

「勿論です、殿下。」

彼はマントを翻し、天幕を出て行った。




彼の言葉にずきりとした王女がいた…


  (!? あ… そうだわ… そうなのね… 私は殿下とお父様の間の和平の印… 
   私の愛なんて… 彼は求めてないのよ…   )


ぐっと涙をこらえるが、軍医は気づく。


「さぞかし、痛い目に辛い目に合われた様だ…
お辛いのなら無理せず泣かれよ…」

「いいえ…」


悲痛な王女の顔を見て、軍医は手早く手当てをしていく。



「少し微熱があられるようだな… 
無理もない。

コレを飲んで横になられゆっくりされよ。
あとで滋養のあるものを運ばせます。
…しばらく誰も近寄らせませんぞ。」

「…。」

王女が薬湯を飲むと軍医は天幕を出て行く。



しばらくして瞳から雫があふれ出す。


こらえていたものが一気に堰を切っていた。


「うっ…くぅ…」


  (私の身体と… 父との約束の為に 私を助け出したのだわ。。。
   死なせてしまえば、 父はきっと国民に声を掛けて反旗を翻すわ…
   だから… なのね…)



乙女の涙は苦悩の涙…








   *


薬湯と疲れからいつの間にか眠りに落ちていく王女…



彼が天幕に姿を現した時には完全に寝入っていた。

ベッドに近づき、寝顔を見ると涙の痕…





   (かなり…キツイ体験をしたようだ。
    私のとき以上に… 
    かなり暴力的に扱われたようだしな…
    頬をぶたれたことなんてない姫だったに違いない。 
    その上、ドレスをナイフで切り裂かれ… )


そっと黒髪の頭を撫でると、さらさらとさわり心地のいい髪…



   (すまなかった…。
    これからは私が守るぞ。。。
    あの時… そなたは私に助けを求めていた。

    その心に私は住み始めているのか?)




マントを脱いで、
彼は静かに彼女の隣へと入っていく…



寝入っている王女を見つめていた。。。


首筋から胸元にかけて紅いキスマークが残っている。


   (あの男のつけた痕なのだな。。
    私の姫に…)



突然、怒りと嫉妬が彼の中に生まれた。


そっと指でなぞってみても彼女は目覚めない。


首筋に自分のくちびるでキスマークの上からきつく吸い上げてみる。
それでも彼女は眠ったまま。。。


「姫…私の痕に変えてやる…」


首筋から胸の谷間にかけていくつも残されていた。
1つ1つ丁寧に痕を辿っていく。

デコルテにも4つ… 
さらに下にもあるので、夜着の胸元の紐を緩め、白い肌を肌蹴させた。

真ん中にナイフの背でつけられた蚯蚓腫れがうっすらとある。
その痕に痛々しさを感じた。


優しく赤い痕をくちびるで吸い上げ、色を濃くしていく。


「ん…ッ…?」


ゆっくりと彼女の瞼が開いた。


「え…?」

「目覚めてしまったか…姫。」

「何をなさっているの?」

「あの男のつけた痕を… 私のものに変えている。
あと3つだ。
しばらくの間、おとなしくしていてくれ。」


「え…あ…」


確かに自分の肌であの盗賊の男のくちびるを感じた時は
ただ嫌悪感とおぞましさしか感じなかった。

目の前の男に対しての想いに自覚を持ち始めた彼女は
恥ずかしくて顔を背ける。


彼女の様子を見て彼はゆっくりとした動きでくちびるを近づけ
優しく吸い上げていく。

「…んッ!!」

彼女の身体がびくりと震えた。


「…」


皇太子は彼女の反応に気づく。


「…あとふたつ…」


ちゅう…と音を立てて肌を吸いたてた。


王女は恥ずかしげに頬を染め、瞳を閉じて震えている。


「あとひとつ…」


乳房の下のふもと近くが最後のひとつ。



ちゅ…ッ…


「んッ…」


彼女の閉じた瞼の端から涙が零れた。




「すまなかった…姫。
もうそなたの許可なしに…肌には触れない。
私は行くよ。」


彼はマントを手に取り、離れようとするが王女の手が袖を引いた。


「…姫?」

「行かないで下さい…」

「どうした? ん?」


優しい瞳で彼は問いかける。


「ずっと…チルカとキリーについてもらってから…
誰かにいて欲しいの。
子供っぽいのだと思ってください…」

「私でいいのか?」


こくりとうなずく王女。


「そうか。」


彼は再びベッドの中へと。

ただ何もしないで横たわり抱きしめる。



王女の震える身体を感じて彼は悟る。


   (まだ…男が怖いのだな。
    あんな酷い目に合ったんだ。 無理もない…か。)


彼は優しい想いで腕枕をし、抱きしめていた―――








   *


2時間後―

天幕に進児とビルがやってきた。

2人は中に入ったとたん、ぎょっとする。


皇太子が王女を抱いて眠っている姿…


「す!! すみませんでした!!」


慌てて出て行く二人の声で目覚めた彼。
すぐに進児とビルを追いかける。


「すまなかった… 例の洞窟の探索の結果報告なのだろう?」

「はい。」

「で、何かあったのか?」

神妙な面持ちで彼はふたりに問う。


「あったのかなんでもんじゃ、ありませんでした。
あそこは盗賊の隠れ家だったんです。
で、奥に金貨の詰まった箱が50ほどと金銀財宝が。」

「ふむ…解った。
内容を調べて、書面にし、私に提出してくれ。
兵たちにも分配するが、今回の件で亡くなった4人の兵士の家族への補償と
キリーとチルカへの見舞金。
それから姫への手当て金を用意しよう。」


「「かしこまりました。」」


しばし思案した後、彼は告げた。

「…予定を変更して、ここにあと2,3日逗留する事にする。
その間に次のエリエス国の都に…20名ほどの調査兵を入れさせよ。」

「「はい。」」



進児とビルはそれぞれに仕事を分担して、こなしていく…






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(2006/1/25)

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