Kismet  -5-



朝食を済ませると、町の入り口手前まで 皇太子が王女を馬に乗せていく。
勿論、キリーとチルカも別の兵に乗せてもらう。

王女には少々小奇麗なマントを羽織わせ、同行する二人も同様にさせた。


「では、頼むぞ。キリー、チルカ。
3時間後にはここに迎えに来る。」

「「はッ!!」」


彼は王女を降ろすとさっさと天幕へと戻っていく。



王女はふたりに連れられ、町の市へ。。。


大勢の人が買い物をしている姿に紛れる。


「"お嬢様" はぐれては危険です。」
「えぇ…そうね…」

キリーとチルカに守ってもらって市を巡る。


衣服を売る商人に声を掛けられた。

「おや…そのドレスは昨夜に売ったもの…
お客さん…そのドレス、誰かにプレゼントされたのでしょう?」

「え? …えぇ…」

まさか皇太子その人が買ったのだとは知らない王女は戸惑う。

「そーかそーか…あなたはあの方のいいヒトなんだね?」

「…どういうことなの?」

「違うのかい?」

"いいヒト"と言われ困惑する乙女を見て
商人は不思議そうな顔をする。

「そういうわけでは…」

「随分、気前のいい人でね、ぽんと代金を払ってくれたんだよ。
そのドレス、絹で着心地いいだろう?」

「え? えぇ…とても。」

「そうかそうか…」

笑顔の商人は満足げな顔を見せる。


「ところでお嬢さんは何を買いに?」

「あの…ドレスやアクセサリーを買いに…」

「そうか。
じゃ少し安くするからウチで買って行ってくんな。」

「は…はい。」


ふたりのやり取りの結果にキリーとチルカは驚く。


王女はたくさん陳列されていたドレスの中から4着を選ぶ。

それを見て商人は微笑む。

「じゃ、2着分の代金でいいよ。」

「でも…」


彼女が選んだものはどれも本物の絹のドレス。
目が肥えている女性にしか、わからないほどのものばかり。

「お客さんみたいに綺麗な乙女に着て貰えるなら
…嬉しいさ。」

「ありがとう…じゃ、コレ…代金。」


袋から金貨を渡すと商人は満面の笑み。


「ヘイ、毎度。
旅の道中、気をつけてな。お嬢様。」

「ありがとう。」

確かに彼女の選んだドレスは飾り立てていないシンプルなもの。
旅に向いているモノを選んでいたので商人にもわかるほどだった。



王女も少々嬉しげな笑顔。


「じゃ、次行きましょうか?」

「「はい。」」


包んでもらったドレスをチルカが持つ。

次の商人からは髪飾りと腕輪を買う。

「ヘイ、毎度。
70Gになります。」

「…少し高くない?」

「そんな事ありませんよ。」

彼女の身なりを見て商人は返事していた。

「…50Gでいいのではなくて?」

「ヘ? そこまで勉強できませんなぁ… 65G。」

少々不本意だったが商人は値を下げてきた。

「… じゃ、55G。」


少々強気で来ていることに気づくと商人は呟く。

「お嬢さん…(汗) 
ま、あんた綺麗だしなぁ… 60Gじゃどうだい?」

「いいわ。じゃ、これ60Gね。」

「へい、どうも。
あんた育ちはよさそうなのに買い物上手だね。」

「そう? いつものコトだわ。」

「こりゃ、してやられたよ。」


ふふっと笑顔を見せた王女を見て
キリーとチルカは驚いた目を見せた。


目の前の王女は上機嫌に見える。

「じゃ、次の商人さんのところへ行きましょ♪」




呆気にとられているふたりを尻目に次の商人へと歩き出す。

次でも髪飾りやブローチを買い込む姿。

同じように交渉している。


値段は下げてくれなかったが、おまけを付けてくれた。


目の前の出来事にふたりは唖然としている。


「"お嬢様"意外…」
「えぇ…」

ふたりの呟きを耳にして王女は話し出す。

「何なの? 普通でしょ?」

「え?」

「私、国の都でね… たいていの民が私に何かくれるの。
お金を払うって言っても、受け取らないのよ。
時々、国外の商人が来て、私が何か買おうとすると
町の商人が今の私みたいに、交渉して値段を下げさせるの。」

「はぁ…なるほど…」

「それを見ていたから、やり方は解るわ。
予算が限られている中でどれだけ買えるのか…
それが結構、楽しいのよ♪」


満面の笑みを二人に向けて話す王女を見て
心の中で思わず呟く…

   (姫様って… 十分、庶民的で…乙女だわ(汗))



そして最後に目に留まったのは楽器屋。

店舗を構えていて、ドアをくぐると琵琶や笛や竪琴、ハープがずらりと並んでいる。


「いらっしゃい…おや? 随分、可愛いお客さんだな。」

店主と思しき男が声を掛けてきた。

「あの… 竪琴が欲しいのだけど…
お金がコレだけしかないの。
買えるのあるかしら?」


彼から渡されていたのは500G。
もう手元には200Gちょっとしかない。

「200Gほどか…
じゃ、これかなぁ…」

勧められたのは少し小ぶりの竪琴。

「大きさはお客さんにいいくらいだと思うけど…
7絃のでいいかい?」

「…国のは大型のハープだったし…
ホントは9絃の方がいいんだけど…予算が…」

彼女の呟きに店主は応える。

「9絃の? あるにはあるが… 400Gなんだよねぇ〜。」

「見せてくださるだけでも…いいかしら?」

「あぁ、なんなら、弾いて見て下さいな。」

「ありがとう。」


店の奥から9絃の竪琴を出してきてくれた。


装飾も美しく、大きさも手ごろ。

「ま、綺麗♪」

「名人が作ったものでね…」


受け取り、ポロン…と指で弾くといい音。

「えぇ…そうね。
いい音色(おんしょく)だわ。
おばあさまの持っていたものに音が似ている気が…」


王女は懐かしく感じ、1曲披露する。


店内に竪琴の音色が響く…


その場にいた、キリーとチルカ、店主と2人の客が聞きほれていた。


音がやむと5人から拍手。


客のひとりが店主に告げる。

「お話はなんとなしに聞いていました。
あとの200Gを私に払わせてください。」

「いや… お嬢さん。
お代は200Gでいいよ。
こいつもあなたのところへ行きたがっているようだ。」

「え?」

「楽器と奏者にも相性ってモンがある。
いい持ち主に出会えたようだしな。」

店主の優しい言葉に涙が溢れそうになる。

「ありがとう。じゃ、コレ。200Gね。」

「へい。ありがとやんした。」


商人はいい商売が出来たと満足げな顔。。。


「お嬢さん?」

「はい?」

さっきアトの200Gを払うと言った男が声を掛ける。

「あなた…笛は?」

「少し。 でも、何故ですの?」

「是非、1本贈らせて下さい。
さっきの演奏のお代代わりに。」

「そんな…受け取れません…」

「いいえ。
あなたの演奏にはあなたの優しい心が入っていた。
私は感動しましたよ。」

そういった男をまじまじと見つめる王女。


亜麻色の長髪を後ろでくくった旅人風の風体。
吟遊詩人のようだと彼女は感じた。
背丈はリチャード皇太子と同じくらい上背がある。


「私…そんな風に言っていただけるなんて…」

「失礼ですが、あなたのおばあさまは名のある奏者では?」

「申し訳ありませんけれど、名前は申せませんわ。」

「そうですか… 何か事情がおありなのですね。」


男は店主に1本の笛を買うと申し出る。
代金を払うと、彼女に渡す。



「あなたのように若く美しい乙女の奏者に会えたとは嬉しい限りだ。
それでは…また何処かで会えた時はよろしく…」


男は自分用の笛の代金も払って、店を出て行った。


王女達3人と店主は呆然としていた。


「あ!! "お嬢様" そろそろ戻りませんと…」

「そうね。
…ありがとう。それじゃ。」

「!?あ まいど…」



楽器店を出た3人は町の入り口に向かって歩き出す。




約束の場所に戻ると、皇太子達が待っていた。

「ごめんなさい。遅くなって…」

素直に謝る王女に
笑顔を見せる彼。

「構わんさ。
ところで…随分楽しそうだね。
それにあなたの手にしているのは何だ?」


彼女の手の中の包みに目がいく。

「あ、コレ…竪琴なんです。」

「…それに笛?」

彼女の腰にぶら下がっている美しい装飾の横笛に目がいく。

「えぇ… 天幕に戻ったら何か演奏しますわね。」


上機嫌の王女を見て、彼も嬉しくなっていた。

  (良かった…十分気晴らしになったようだ…)



天幕に戻ると王女は皇太子の前で竪琴を弾く。


優しく美しい音色に彼も惜しみない拍手を贈る。


「素晴らしいよ… ファリア王女。
私は…嬉しいよ。
あなたが演奏する姿は実に美しい…」

手放しで褒められ、嬉しくなり微笑む王女がいた。


「ありがとうございます。殿下…」


天幕の外ではキリーとチルカ、それに兵士達が流れてきた音色を聞いて、感動していた。






to -6-


______________________________________________________________
(2006/1/22)

to -4-


to Bismark Novel

to Novel top

to Home