Kismet  -4-



次の目的地・カトラス国の国境を越えた。

都まで2日はかかるので、野営となる。

先鋒を務めていた者たちが手早く天幕を張っていく。


あっという間に300名のための食事の準備も始まる。


兵站の者達は手馴れた手つきで用意していく。



王女の天幕には特定の者以外、近づかないように伝令しておく皇太子。


彼は天幕の中のベッドに王女を下ろすと
新たについた女性将校を紹介する。

「我が軍の紅二点のうちのもうひとり…キリー少佐だ。
彼女とチルカについてもらうことにした。」

冷たい感じのする女性将校・キリー。
女性で少佐と言う事もあり、少々気が強いところもある。

「よろしく。ファリア王女様。
キリーと申します。」

「よろしく…」

「じゃ、たのむぞ。ふたりとも…
私は軍議に出るからな。」

「「はい。」」


ふたりが頭を下げる。
彼が行くと少し安堵した顔を見せる王女。




「…私達はあなた様の味方です。
安心なさってください。」

「…ありがとう。」


言葉少ない王女は静かに微笑む。


チルカもキリーも可憐な乙女の表情にどきりとした。
同性から見ても可愛いと感じる。

ふたりとも顔を見合わせた。



「それにしても… ホントにお美しくていらっしゃるのね…」

「え?」

「チルカから聞いていましたけど…
ホントに殿下が一目であなたを気に入られたのか解りますわ。」

「…。」

「いつもあの方の周りに来る女性は野心家ばかり。
おそらくうんざりなさっていたのね。」

「そうなの…??」

キリーを見上げる王女。
上目遣いに見られて、キリーもチルカさえも可愛いと感じた。




「あぁ…
しんみりするのはよしましょうよ。

ね、ファリア姫様は…何がお好きです?
お城にいらした頃は何をなさっていたの?」

チルカは今の空気を払拭しようと、明るい声で問いかける。

まるで親戚の女性に問われた様に感じて、素直に応えていた。。


「えっと…普段は お料理したり、刺繍をしたり、機を織ったり。
あとは…本を読んだりしていたわ。」

「まぁ、女らしくていらっしゃるのね…素敵♪
私達が苦手な事ばかりだけど…」

「ま。
あとはハープを弾いたりしていたわ。」

「本当に乙女ですのね…」


凛々しい女軍人のふたりに"女らしい"と褒められ照れる王女。
チルカが笑顔で提言する。

「じゃ…次の町に入ったら、ハープをって…大きいですわね。」

「竪琴も弾くわ。」

「じゃ、おねだりなさいませ。」

「え?」

「私、姫様の演奏を聴いてみたいですわ♪」

チルカが笑顔で告げるとつられてはにかむ笑顔を見せる王女。
そんな様子を見て微笑むキリーとチルカ。

「失礼します。」と言って、兵が食事を運んできた。

「さ、どうぞ。姫様。
お怪我のほうは大分よくなった様ですけれど…
まだ当分、旅なので体力をお付けくださいませ。

ま、食事がコレじゃ…乙女としては楽しくないでしょうけど。」


出てきたのは干し肉とミルク、それに焼きたてのパン。


「いいえ。これで十分だわ。
確かに野菜と果物が足りないけれど。」

「そうですね。」


キリーとチルカが笑顔を浮かべるのを見て、王女は問いかける。

「あの…おふたりのお食事は?」

「私達は移動中に頂きましたわ。」

「え? 馬の上で?」

「そうです。
交代でそうなっていますから。」

「そうなの…」




この夜はここで1泊して、朝に出発する。




   *


次の日の夕方前に カトラス国の都近くまで来た。
入る手前で 天幕を張る一行。


軍議用天幕の中で今回の手順を決める。


「それではいつも通り、町に調査兵を放て。
今回は15名ほどで良いと思うが、どう思う?」

ドメス将軍が応える。

「それでいいと思いますが。」

「そうだな。
カトラスもアイリスと変わらぬ規模の町だし。」

「うむ。
それではメンバーを各7名ずつ程選出し、早速、仕度させて出発させよ。」


ドメス将軍の命を輝大佐とウィルコックス大佐が受ける。

「「はッ!!」」


「報告は明日の夕方にな。」

「「はい。」」



ふたりに指示を出し、自分も動きを決める。

「私は… 旅人の姿になって少し町を見てくる。
あと私の兵をふたりほど…共に連れて行く。」


「「「はッ!!」」」



3人に指示を出してから、自分は薄汚れたマントを頭から被り、
町へと向かう。



町の様子と…民の様子を見つめる。


   (ふむ…)



一通り目ぼしいところをチェックした後、
商人から女物のドレスを買い付けた。



夜遅く、王女の天幕にドレスを持っていく。

キリーに渡し、自分は進児の天幕へ。


移動の際の馬上では仕方ないが、
王女との距離を置いたほうが良いと感じ、そうしていた。





   *


翌朝、朝食の席で顔をあわせると彼は微笑む。

彼女が着ているドレスは昨夜、自分が届けたもの。

「…何ですの?」

「いや…何でもないよ。
おはよう。ファリア姫。」

「おはようございます。」


皇太子と王女、将軍、大佐が席に着いた朝食の席。


キリーとチルカがそばにいるには違いないが
やはり男ばかりの中にいて、肩身が狭いと感じる。


「…ファリア姫。
今日は少し気晴らしをするといい。」

「何ですの?」

突然話を切り出した彼に問いかける。

「チルカとキリーに町に連れて行ってもらう。」

「…!?」


思いがけない提言に驚く。


「基本的に女性は買い物好きだろう?」

「え…? あ、はい…」


彼は金貨の入った袋を渡し、告げる。

「ドレスでも靴でもアクセサリーでも何でも買うがいい。
キリーとチルカがいれば護衛は十分だ。
但し、あなたが王女と言う身分を隠してもらった上での外出だ。」


「…解りました。」


金貨の入った袋を受け取り、返事した。








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(2006/1/22)

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