in reality -4- 乙女が自室に戻り、寝仕度をしてベッドに入ろうとした時、ドアをノックする音。 「はい?」 乙女が出ると父の姿。 「お父様? どうなさったの?こんな時間に…」 「少々お前と話をしたくてな、いいか?」 「…はい。」 乙女は自室のリビングに父を迎える。 ソファに腰を下ろす父に紅茶を淹れようとするが止められた。 「あぁ… 淹れなくていい。 それより、座りなさい。」 「…はい。」 すっかり18歳の母親譲りの美貌を持つ乙女に成長した娘を前に話し出す。 「リチャード君とは…上手くいっている様だな…」 「…はい。」 「彼が今回の指令を全うしたら、結婚を許そうと思っている。」 「えっ!?」 父の突然の言葉に驚く。 「イヤか?」 「いいえ。」 頬を染めるが、その表情は微妙な面持ち。 「彼の出発まで1ヶ月近くある。 お前のスケジュールも今は… 埋まっていない。 …私からランスロット公爵に話はつけるから、 リチャード君のそばにいてあげなさい。」 予想もしなかった言葉に目が見開く。 「…お父様…!?」 「彼は生きて帰ってくると信じてる。 しかし、戦争だ。何年かかるか…解らない。」 「あ…」 「彼も正直、お前と離れるのは辛いだろう。 だから、いてあげなさい。」 「お父様… それでいいの?」 父の言いたいことは理解できる。 「今回の指令は確かに私も驚いたが、陛下の御心の内は… 男として大きくなって欲しいと願ってのことだろう。 孫娘のお前の婿として認められておられるということだ。」 「!!」 「外孫とはいえ、お前にも王室の血が流れている。 私とセーラも、そして両陛下もお前が嫁ぐ先の家は ランスロット家ということを認めている。 そしてリチャード君という青年がお前にふさわしいと判断した。 お前にはパーシヴァル公爵家と王室の血がある。 それを誇りに思ってランスロット公爵家に嫁ってもらいたい。」 「…はい。」 父の想いを察して、瞳を閉じる。 「確かに家同士のつながり…というのもあるが、 お前たちが愛し合っていることも理解している。 だから、行ってあげなさい。」 「…はい。」 「2,3日中に…行ける様になるだろうから、 そういう心づもりでな。」 「えぇ。解りました。」 父は部屋を出て行く。 娘を手放すのは正直、辛い。 しかしいつかは嫁にやらねばならない。 政略結婚の道具にしたくなかった。 遠くに嫁にやるのもイヤだった。 だからこそ、隣の…ランスロット家ならと、リチャード君ならと願っていた。 そして現実にふたりが愛し合うようになった。 嬉しくもあり、淋しくもあった… 寝室に戻ると妻・セーラはまだ起きていた。 神妙な顔した夫・アーサーに声をかける。 「おかえりなさい。あなた。」 「あぁ。」 「どうなさったの?険しい顔。」 「いや… ファリアのことだがね…」 「何か?」 「まだまだ子供だと思っていたのになぁ…」 「リチャード君の指令の件?」 「あぁ。 リチャード君もファリアも相当辛そうだからなぁ… ファリアにランスロット邸に行くように話して来た。」 「え?」 「リチャード君が旅立つまでの間、 ランスロット邸で…暮らすようにしてやろうとな…」 「あなた…」 夫の想いを察して、笑顔を見せる妻(41)。 「今日のファリアの顔を見てると昔の… お前を思い出すよ。 別れ際の切なそうな顔…」 「抱きしめたくなるのかしら?」 微笑みながら問いかける。 「あぁ。 でもそうしてもあの娘は喜ばない。 私はリチャード君じゃないからな。」 「ふふ…そうね。」 「リチャード君が生きて帰ってくると信じているがな…」 ***** 彼の周辺は慌しくなる。 木星の衛星ガニメデをデスキュラ星人から死守すべく結成されるビスマルクチーム。 公式な指令とはいえ、要は戦場に駆り出されていく事――― 彼の周辺の人間は驚く一方。 さらなる知識を深め、宇宙訓練も積んでいくことになった為、 多忙のきわみ― 彼が指令を受けた翌日から特別訓練は始まる。 3日目にしてロンドンの自宅に帰れた。 出迎えたのは―ファリア。 「え?」 「お帰りなさい、リチャード。お疲れ様。」 「何で? わざわざ…来てくれたの?」 彼が当惑していると見て問いかける。 「あの…あなたは聞いてないの?」 「何が?」 「私がしばらくこちらのお邸にいることになったってコト。」 「!? 聞いてないよ。 って何で??」 「あぁ、帰ったか。リチャード。」 エントランスの階段の上に彼の父が姿を現す。 「父上… ファリアがここに当分いるって、何で?」 「…お前が、一番そばにいて欲しい人間は誰だ? …ファリアだろう? パーシヴァル伯爵も私も、そしてファリア自身も…了解の上でここにいることに。」 「!?」 父を見上げていたが、視線を彼女に戻す。 「私、あなたが旅立つ日まで…ここにいるわ。」 「いいの…?」 「えぇ。」 こくりとうなずく彼女。父も視線を戻すと同様。 二人の想いを察して、嬉しくなる。 「ありがとう。父上、ファリア…」 静かに感謝を示す彼。 「ね、リチャード。 お腹すいたでしょ? ディナーの用意出来てるのよ。 それとも先に入浴してくる?」 「え? あ、じゃ…先に風呂入ってくるよ。」 「えぇ。 じゃ、食堂で待ってるわ。」 風呂でさっぱりした彼は服を着て、食堂へと。 テーブルに二人分の用意。 「ファリア…ひょっとして待っててくれたの?」 「え? えぇ。」 「いいよ。待ってなくても。」 もう9時前という夕食にしては遅い時間。 「私が勝手に待っていたのよ さ、頂きましょ。」 「あぁ…」 すっと彼女の椅子を引く。 「ありがと。」 「いいや…」 静かにディナータイムは過ぎていく。 食事を終えるとふたりそろって2階へ。 「え? 泊まり込みなの?」 「そうよ。 父もおじ様もそうしろと。」 「…そう。」 「それじゃ、おやすみなさい。」 「あぁ。おやすみ。」 頬にキスして、ふたりは別れる。 ファリアは同じフロアの客間へと。 同じ屋根の下に愛しい恋人がいる― それだけで若い青年の恋慕は昂ぶっていく― 「はぁ…」 to -5- ________________________________________ (2005/11/9) to -3 - to Bismark Novel to Novel menu to Home |