in reality -3-




乙女がウィーンに戻っていく…



少年はデビューパーティの時に写した写真を…
乙女の写真を机上に飾り、勉学に励む。


早く大学を出て、立派な男になれば早く結婚できる…
そう思うとさらに、頑張れる気がした。

17歳と半年を過ぎた2083年6月 無事に大学を卒業―

大学2年、大学院1年を寮生活で過ごした。

そのまま軍士官学校への進学が決まる。

この年の夏の休暇は時間がたっぷり合ったということもあって…
ウィーンに向かう少年の姿があった。


乙女はその年の7月のピアノコンクールで史上2番目に若い金賞を受ける。
そのころから"クラシック・ピアノ界のプリンセス"というあだ名が彼女に付けられた。




しかし幼い頃から、祖母から手ほどきを受けたハープも人前で披露するようになると
"クラシック音楽界のプリンセス" 

ピアノにしてもハープにしても その演奏する姿は可憐そのもので
人々から人気を得ていた。

求婚者も多く現れたが 全て断る。
もちろん、すでに婚約者で恋人のリチャードの存在があったから―




彼も少年から青年へと―


軍士官学校を出て、軍情報部訓練所へ。
勉学や訓練の傍ら、馬術とフェンシングの国内外での試合で活躍する。


孫娘・ファリアの婚約者で、ランスロット公爵家の跡取り―
女王陛下の目に留まるのは当然の成り行き。


18歳になる直前、その頭脳と馬術剣術の功績を認められて17歳という若さで
サー(卿)という称号を与えられる。


彼の人物像を見て女王は近い将来、未来の国王である孫・フィリップ皇太子のそばで
働いて欲しいという思惑もあった。

元々、ランスロット公爵家は軍情報部や海軍将軍などを輩出してきた軍人系の家柄。

国の要職にいずれは就いてもらいたいと願っていた。
外孫とはいえ、可愛い孫娘のファリアの婚約者ならなおさら―





   ***


近年、地球への侵略を進める、異星人が現れたということで人々は怯えていた。

英国政府に地球連邦からの依頼でリチャード=ランスロットを
ルヴェール博士が設計完成させるマシンの要員へとの要請が入った。


ガニメデ星において異星人デスキュラの侵攻を食い止め、撃退させるのが目的。

女王は戦地に向かわせることに少々困惑したが、了承した。



指令は女王陛下の名において降りる。

 「地球連邦・ルヴェール博士の結成するビスマルクチームの一員としての
  出向を命ずる。
  武者修行だと思い、指令を全うせよ。」


王室特別情報部に大尉として配属されて、3ヶ月目のこと―




プロデビューを果たし、英国の実家に戻っていた乙女は
王室庁長官でもある父・アーサーから聞かされ、困惑していた。

「おばあさま… 何を考えてこんなこと…」

「…陛下の指令だ。」

「お父様はなんとも思わないの?
わざわざ戦いに行かせるなんて!!」

婚約者の身を案じて乙女は憤慨していた。

「リチャード君を信じてあげなさい。
彼は生きて帰ってくると。」

「…でも…」

「10月7日にガニメデ星に行くことになっている。
それまで1ヶ月ほど… 会いに行ってあげなさい。」

「えぇ。勿論よ。」



隣のランスロット邸に乙女は向かう。

彼はまだ情報部から戻ってきていない。
彼女は戻ってくるのをひとりで待っていた。

彼の母親・メアリ夫人はスコットランドの城にいる。
普段からロンドンの邸は父子家庭。




―夜7時

やっと父子が情報部から帰ってきた。

玄関で彼女がずっと待っていると執事頭から聞いて、応接間に駆けてく。


「ファリア!? 」

「あ、おかえりなさい。」

「どうした?」

今までこんなことはなかったので驚きの目。

「…リチャード…」


彼女の顔を見ていると、少し悲しげな表情。

「…ファリア、ひょっとして、指令のこと、聞いたのか?」

「えぇ。父から。
おばあさま…いいえ、女王陛下からの指令だって。」

「あぁ。行ってくるよ。」


ぽろと乙女の瞳から雫が零れた。

「どうして…あなたなの?! 
どうして… あなたがわざわざ戦争しに行かなければならないの?」

「…ファリア…」

明日に話すつもりだった。
多分、泣かれるとは予想していたけれど やはり辛い。
そっと彼女を抱きしめる。

「行ってくるよ、僕。」

行かないでという言葉を飲み込む乙女のくちびるからは嗚咽が上がる。



「ファリア。君も辛いだろうが…息子を送り出してやってくれ…」

「え…?」

彼の父親・エドワードが告げる。
顔を上げてその顔を見ると悲しげな笑顔。

「私に約束してくれた。
必ず生きて帰ってくると。
ランスロット家の跡継ぎは自分だけだから、
君を幸せにすると誓ったからと…」

「おじ様…」

自分を抱きしめてくれている彼を見上げると、悲痛な表情。

「僕は、武者修行に行ってくる。
君を守る立派な騎士になるために。
死にに行くわけじゃない。
必ず帰ってくる。
…君の花嫁姿を見たい、君が僕の子供を産んでくれる日を楽しみにしてる…
だから。」

ぎゅっと彼に抱きつく。

「リチャード… 
解ったわ。 ご武運を…」

「あぁ、祈っててくれ。
一日でも早く戦争が終わる日を。

「えぇ。」

「出発まで1ヶ月ほど… 準備もあるし、忙しくなるけど君に逢いに行く。」

「はい…」


穏やかな愛情をお互い感じていた。
そばで見守っていたエドワードもそれは感じている…




涙を拭う彼の指先が切なく感じて
再び溢れそうな涙をなんとか こらえる。

優しい笑顔でエドワードは声を掛けた。

「ファリア。よかったら、一緒にサパーをどうかね?」

「え? あ…はい。」

「父上…」

「またしばらく会えなくなる。ふたりの時間を大切にな。」

「はい。」

父の優しい想いを察して、彼は微笑んでいた。





ランスロット邸でサパータイムを3人で過ごす。




「ファリア… 送るよ。」

「えぇ…」

車だと5分もかからない隣の邸をふたりは徒歩で…


彼女の手を握り締めて…






もうすぐパーシヴァル家の門が見える。

「…リチャード…」

「ん?」

「…キスして…」

立ち止まり、抱きしめてくちづける。



くちびるが離れると零れ落ちる涙が光っていた。


「必ず、君のそばに帰ってくる。
だから…泣かないでくれ。」

「リチャード、ごめんなさい。」

切ない表情で震える乙女。
行かせたくないけれど、女王陛下の命令は絶対。
どうしようもないと解っているけれど、身が引きちぎられる様に辛い。



彼はそっとくちびるを奪う。深く長いくちづけ―


やわらかな上くちびるを甘く咬む彼のくちびる。

離れるとふたりを繋ぐ細い銀の糸が現れて消える。



乙女の手は彼の頬を包むように撫でていた。

「リチャード…愛、してる。」

「僕も 愛してる…」


黒髪に頬を摺り寄せ、囁く。



しばらく抱き合っていたが、彼は細い肩を抱いて歩き出す。


門をくぐり、邸の玄関ドアの前まで彼は送り届ける。

「おやすみ… ファリア。」

「…おやすみなさい。リチャード…」


そのぬくもりを離したくなかったけれど、そっと外して帰っていく。





乙女の父・パーシヴァル伯爵は2階の窓からその光景を見つめていた。


「…。」


そしてあることを決意した―







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(2005/11/8+9)
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