guiltless -4-



教会へ着くと神父が飛び出してきた。

「シスター!無事だったか…」

少し安堵する様子を見せる。
心配顔をしている神父にリチャードは言う。

「怪我をしています。手当てを!」

「あぁ。 ドクター!ドクター・サム!」

駆け込んできたのは白衣を着た中年男性。
シスターの様子を見て驚く。

「なんてこった!早く中へ!」

シスターの部屋は無事だったため部屋へと運ばれる。


教会の堂内に招き入れ2人に問いかける神父。

「ところであなた方は…?私はロナルド…神父です。」

リーダーである進児が答える。

「俺たちは地球から来たビスマルクチームです。」

「! 君達が噂の? …そうかありがとう。」

安心する神父と進児とビルの元にリチャードが戻ってきた。

「リチャード、あのシスターは?」

「あぁ、何とか手当てしてもらっている。」

「そうか…よかった。」

3人ともがシスターを心配していることに気付き神父は感謝する。

「ありがとうございます。ビスマルクチームの方々。」





しばらくしてドクターが戻ってきた。

「どうだ、シスターファリアの容態は?」

「あぁ、命に別状はない。気を張りすぎたのだろう…
今は眠っておる。」

ドクターと神父の会話に驚きの表情を隠せないリチャードがいた。
神父に問いかける。

「あの、シスターの名は…ファリアと言うのですか?」

「そうだが…何か?」

「まさかとは思いますが彼女のフルネームは…
ファリア=パーシヴァルではありませんか?」

「はて、どうだったか… ところであなたの名は?」

「リチャード。リチャード=ランスロットと申します。」


その名に聞き覚えがあった。
懺悔室で聞いた彼女の愛する男の名。

「君… 年は18,9かね?」

「え?えぇ、19です。」

しばらく考える神父に訝しさを感じる。

不意に声をかけられる。

「連いて来てください。」






**********

彼女の部屋の前でロナルド神父は問いかける。

「そなたは…今、愛している女性がおありか?」

突然の問いに驚き戸惑う。

「え…?」

「もし、ファリアという名の乙女を探しているなら…
しかし…そうでないなら、ここにいるのは神に身を捧げた修道女しかいない。」

瞳を伏せ、一言一言を選んで告げる。

「僕は… 僕がずっと探し求めているのは幼馴染で許婚のファリアです。
他に愛する女性はいません。」

「そうか… それならここにいるのはあなたの探し人だが…」

少し躊躇うロナルド神父。

「だが? 何なのです?」

「彼女はずっと闇の中で彷徨っている。」

神父の神妙な面持ちでその悲しみの深さを感じる。

「両親や友人恩人を失い、自らを孤独へと追いやった。
あの乙女の魂を救えるのは―― 心から愛する者だけ。
その覚悟があるかね? 中途半端な気持ちではあの乙女を救えないだろう。」

ぎゅっと拳を握り締め、リチャードは神父に告げる。

「…僕は… 5年半前、彼女を失った時、自らを取り巻く世界が暗転してゆくのを感じました。
彼女の存在がどれだけ大きかったか思い知らされました。
ファリアは…僕の全てです。」

「そうか…」

キィと木の扉を開ける神父。

「ヘタをすればその心の扉をこじ開けることになるだろう……」

それだけを告げて神父はその場を離れた―






**********


質素な修道女らしい部屋に入る。
ベッドには手当てを受け、包帯を巻かれた彼女が横たわっていた。
そっと左手を取り、手首の内側を見る。
小さな小さな痣。
間違いなく彼女本人だと確認する。



「う…ゆ…許して…」

夢の中でまた謝っている。
悪夢なのかと思ったリチャードは彼女を起こす。

「…ファリア?」

肩を揺らすが起きない。


夢の中で再び彼女は男に抱かれていた。
金髪の凛々しい―――ジョナサンに。

(「あぁ、やめて! 私もあなたも…神に仕える身… お願い!
  許して! あぁ… 
  神よ… 私の罪を…許して…」)


瞬間、暗闇に裸身のまま放り出される。
ふわふわと浮いている感触。
そしてとてつもない孤独―


不意に何処からか自分を呼ぶ声―


(「神―? いいえ…だれ―?」)


はっと目覚める。
眼前30cmに初めて見る顔。
いやむしろ懐かしさを感じる。

「誰―? あなたは?」

まっすぐに見つめるエメラルドの瞳。

「…僕だよ。ファリア。…リチャードだ。」

「え?」

戸惑うのは当然。
13歳の彼しか覚えていない。
目の前の青年の顔は知らないけれど…懐かしいその響き。
首をかしげ問いかける。
思わずシーツを掴むファリア。

「ほ、本当に…本当に、リチャードなの?」

「あぁ。僕だよ。…ファリア。」

「ど、どうしてここに?」

「僕は今、地球からビスマルクチームという特務でガニメデ星に派遣されている。
デスキュラをここから撃退するためにね。」

穏やかな瞳で話しかける。

「そう…そうだったの…」

はたと自分が置かれている立場を思い出すファリア。

「私はもう…あなたの許婚じゃない。神に身を捧げた―
あなたに愛される資格も、花嫁になることも出来ないわ
あなたは…もう私のことなんて忘れていたのでしょう?」

苦しくて切ない感情が胸を締め付ける。


言葉を詰まらせる彼女の唇を突然、奪う。

思いがけない彼の行動に混乱する。

「あっ…や…っ!」

思わず彼の頬に手を上げそうになる。しかしあっさりと掴まる手。
白くて細いその手を。


力が抜けていくのを感じたリチャードは唇を離す。

「すまなかった… けど僕の話を聞いてくれ。」

「今更…何を…無駄だわ。」

涙でくしゃくしゃの彼女の頬にそっと触れる。


「君の…君の父上は生きていらっしゃる。弟のアリステアもだ。」

想像もしていなかった彼の言葉に息が止まる。

「う…嘘!嘘だわ!」

「何故、そう言えるんだい?」

「だって…あの爆発の中で生きてるはずがない!
私は母と一緒に脱出カプセルに乗っていたけど…母は…死んだわ。」

語尾が震えている。
その彼女をそっと抱きしめリチャードは背をさする。

「そうか…辛い目にあったんだね…
でも真実、君の父上は生きている。
そもそも僕がこのガニメデに来ることになったのは君の父上の口添えがあったからなんだ。」

「何故…父が?」

「5年半前、僕は君が死んだなんて信じなかった。
信じたくなかった…
遺体が発見されてないならきっと何処かで生きてると信じてた。
その僕の思いを知っていた君の父上が
僕をルヴェール博士が結成するというチームのメンバーに推してくれた。
今、君の父上は王室庁長官だ。
地球連邦のルヴェール博士と知り合いだったんだ。

…だから僕はここにいる。」

「父が王室庁長官に…?」

5年半前はまだ父は王室庁次官だった。

「あぁ、それに爵位も継がれたよ。今はパーシヴァル公爵だ。」

「お、お爺様は…亡くなったの?」

「いや、貴族院の議長をしておられる。
今はローレン卿となられた。」

亡くなったのではないと聞いて ほっと安心する。

「…そう。」


その安堵した顔を覗き込み、リチャードは告げた。

「…君は、帰るべきだ。」

「え?」

「聖職者になってしまっても、帰る方法はあるはずだ。」

リチャードの口から出た提案に素直になれない。

「でも…今更、ひょっこり帰れるわけないでしょう?
迷惑をかけるだけだわ!」

大粒の涙が溢れ、思わず叫ぶ。

「誰も迷惑なんてしない!」

「いいえ…あなたも公爵家の跡継ぎなら解っているでしょう?
不名誉な者はいらないってことを…」

「誰が不名誉?
行方不明の間、修道女として修行していた…
何処が不名誉だ!」

思わず憤慨するリチャードに圧される。
髪を振り乱し、きつく目を閉じる。

「私は…どうすれば…いいの?」

「帰るんだ、地球に。英国に…」

優しくそっと抱きしめる―――


「もう君を見失たくない…」

「あ、あぁ…」

流れる涙を止められない…




ドアの向こうでロナルド神父が事の成り行きを見守っていた―





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                                                                (2005/3/16)