guiltless -3- 思い切ってファリアは懺悔室に入ることにした。 神に打ち明ければ少しは楽になれるかもしれないと思ったからだ。 「一体、何を懺悔したいのか… 迷える子羊よ。」 「私は…犯した罪を…犯そうとしている罪を…懺悔したいのです。」 「ほう、一体何をだね?」 「…私は…ある方に恋してしまったようです。」 格子の向こうの神父が驚く気配を感じる。 「!」 「神に仕える身なれば、この身は神のもの。 なのに私は… ある男性に心惹かれています。」 「相手は誰だね?」 「名前は神に誓って言えません。 けれど相手も神に仕える身。叶わない恋だと解りつつも、心ならず…」 「…。」 「理由はわかっています。 私は幼い頃、許婚がいました。元々は家同士のための政略。 けれど私は…彼を愛していました。いえ… 今も。 もうあの人も18歳。きっと大人になった彼はあの方に似ているでしょう……。」 格子の向こうから問いかけられる。 「彼…とは?」 「隣の家の幼馴染。 同じ年の…リチャード=ランスロット。 あの人はもう私など忘れているでしょう。 最後に逢ってから5年半という歳月が流れました。 恋人か婚約者がいるはずです。」 わっと泣き崩れるシスター。 聞いているだけだったロナルド神父が口を開く。 「お主は…ただの女に戻ればいいのではないか?」 「え?」 意外な答えに驚く。 「お主がこの道を選んだのは両親の弔いと平和の祈願だ。 何も修道女にならなくても出来ること…」 「私は…4年前、ドラドス村である恋を忘れようとしました。 いえ…逃げようとした… 村の少年に好意を… でもまだ彼をリチャードを愛していたから… 自分が許せなかった。自分を罰したかったから…」 「…。それでは今回の恋も…その彼を愛するがゆえ…ということか…」 その指摘の通りだった。 首を縦に振る。 「それならそなたのとる道は…ただの乙女に戻り、愛する男か恋している男かを選ぶのだな。」 思いがけない提案に瞠目する。 「それは…出来ません!」 「何故?」 「愛する人は…きっと私を忘れているはず。 そして恋する人は聖職者。無理です。」 「ならば自分ひとりで地獄をさまようか…?」 「むしろ…その方が…」 言葉を詰まらせ、声を上げずに泣いていた。 「…もう私には、何も言えぬ。…誰もそなたを救えぬ。 もし救えるとすれば…愛する男だけだな。」 「…」 しばらくの沈黙の後、シスターは懺悔室を後にした。 「聞いていただいてありがとうございました。少しすっきりしました。」 ロナルド神父は切なくなっていた。 年頃の乙女でもある彼女の悩みは当然だ。 先ほど本人に言ったように救えるのは愛する男だけなのかもと― ********** 春の夕方の黄昏時― 村は夕飯時だった。 家々から美味しそうな匂いが香っていた。 その時、爆音が響く。 「!」 聞き覚えのある嫌な音にファリアは気付く。 窓の外に見覚えのあるデスキュラマシン。 「大変!」 自室に駆け込み、剣を持ち出す。 聖堂に避難してきた村人が集まり始めていた。 「皆さん、大丈夫?」 現れた清楚な黒服のシスターが剣を持っていることに驚く。 「大丈夫ですが…シスターは…?」 「私は戦います。皆さんは地下聖堂へ避難してください! セバスチャン神父、ロナルド神父、お願いします!」 彼女のその豹変ぶりに驚きながらも避難してきた村人を誘導する神父たち。 黒いスカートを翻し、剣を揮い次々とデスキュラを倒してゆく。 銃口を向けられても怯むことなく懐に飛び込む。 ベールがふわりと舞う様はまさに聖乙女― 教会前のデスキュラは全滅していた。 村の中にまだいるかもしれないと歩き出す。 その時、村の上空に黒い巨大なマシンが現れる。 シスターは敵かと身構えるがマシンの壁面に日米英の国旗を見つけ地球のものだと解り、 安心した。 ―ビスマルクマシンの中ではオペレーションシステムのビルが叫んでいた。 「おい、あそこ…人が…」 インテリジェンスシステムのリチャードが映像を拡大すると黒服の修道女。 手には剣を持っている。 その時、彼女が駆け出す。 子供の声がした。 何処だと思い回りを見渡すと、半壊した家の中で泣く子供。 「リサ!」 この家の4歳の女の子が泣いていた。 両親は子供を庇うように倒れていた。すでに息はない。 「可哀想に…私と同じ運命を…」 そう思うといたたまれなくなる。 泣きじゃくるリサを抱きしめる。 背後に敵の気配。 「死ね、地球人!」 デスキュラ兵が銃口を向けた。 手にしてた剣を投げる。 見事に突き刺さり、絶命するデスキュラ。 その様子に気付いた他の兵が集まってきた。 「リサ、ここでじっとしていて。」 小さくうなずく少女を置いて、家の外に飛び出す。 剣に飛び掛り、掴むとひゅっと一閃する。 一気に倒れるデスキュラ兵。 その様子をビスマルクチームは見ていた。 「あれじゃ、多勢に無勢だ。行くぜ!」 進児が叫ぶと答える間もなくビルとリチャードは飛び出していた。 3人はそれぞれのマシンで飛び出す。 その間にも彼女は剣1本でデスキュラ兵を倒していた。 銃弾がシスターの左腕を掠める。 ストイックな黒の修道服が裂け、鮮血が飛び散る。 ベールを翻し、流れる涙に構わず戦う。 「許さない!…許さないわ! 例え血塗られたソードシスターと呼ばれても構わない!」 剣を一振りしただけでデスキュラ兵の鎧だけが転がる。 「何て女性だ!!」 リチャードは剣を持つ人間として彼女の戦闘能力に驚く。 しかしシスターは生身の女性。いつか力尽きて倒れるだろう。 ドナテルロにまたがった彼はデスキュラに取り囲まれたシスターの元へ飛びこむ。 「僕も手伝います!」 シスターは英国の国旗をヘルメットにつけた男がやってきたことに驚いた。 味方だとわかると安心した。 「お願いします!」 そばで見ていても彼女が只者ではないと彼は感じる。 進児とビルは少し離れたところで戦っていた。 形勢が不利と解ったのか引き上げていくデスキュラ兵。 「おーい!」 進児とビルがリチャードの下に駆け寄ってきた。 「大丈夫か?」 進児が心配げに問いかける。 「あぁ、なんとかな。」 「あれ?あのシスターは?」 ビルに言われ3人が見回すとシスターは半壊した家の中にいた。 薄暗い中、彼女は泣いていた。 流れ弾に当たったらしくリサは事切れていた。 遺体を抱きしめ、むせび泣く。 「あぁ…ごめんなさい。リサ…ごめんなさい…」 泣き崩れるその姿を見て、3人は胸が痛くなる― ふうっと目の前で意識をなくしたシスター。 ベールが外れ、美しい黒髪がこぼれていた。 「こんな…綺麗な女性が…?」 ビルだけでなく進児もリチャードも驚く。 「僕も驚いた。この乙女が…さっきの剣捌きを?」 「とりあえず怪我の治療をしなきゃな。」 リチャードはシスターを抱き上げドナテルロにまたがる。 一行は無事に残っている教会へと向かう。 道中、彼女の剣を見たリチャードはあることに気付く。 (見覚えがある… ! これは確か…ウィルヘルム男爵の紋章… 一体彼女は…?) 自分の腕の中で彼女はうなされていた。 「許して… ごめんなさい…」 涙を流し謝り続けているその顔を見てリチャードは心を締め付けられた。 + BACK + / +NEXT + (2005/3/16) |