guiltless -5- しばらくしてドアをノックするロナルド神父。 ベッドの上のファリアが答える。 「はい…。」 「どうだね、ファリア。具合は?」 いつも柔らかい笑顔のロナルド神父。 じわりと涙が溢れる。 「…もう、大丈夫です。 神父様、私…ご相談したいことが…」 「聖籍のことか?」 「…はい。私、どうすれば、普通の娘に戻れますか? 神に逆らうことになりませんか?」 リチャードはその言葉に目を見開く。 しかしロナルド神父は違っていた。 その言葉を待っていたかのように。 「…いつか、そういうことを言うと思っていたよ。」 「え?」 リチャードは静かに話を聴いていた。 「実は…君は籍に入っていない。」 まさに青天の霹靂だった。 自分が聖職者ではないと宣言されたようなもの。 「ど、どうして? 一応、黒服の修道女にあがったではありませんか? それとも剣を持っていたから?」 詰め寄るファリアに静かに神父は話しだす。 「いや、そうではない。 おそらく君を引き取ったレイモンド神父のお考えだったのだろう。 今となっては憶測に過ぎんが…君をわざとガニメデ聖教会の一員に加えていなかった。」 「何故?何故そのような…?」 「君がこの道を選んだとき、まだ13歳だったはずだ。 私は…レイモンド神父が亡くなる2ヶ月前に集会で会っていてね、その時君の話が出た。 ”あの娘は辛さや淋しさから逃れるために修道女になりたいといっていた。 しかし…あの娘は年頃になればおそらく後悔するはずだ。 ファリアは…修道女には向いているが…周りがほおっておくまい。 私には解る。 あの娘はとびきりの美貌を持つだろう。 それゆえに男に狙われることもあろう。 …確かにシスターになれば危険は減る。 だが…本当の恋を知れば…” 私もレイモンド神父と同じ考えだ。 だから… 先日の集会にも君は留守番だっただろう? 私たち3人だけが行った。」 思い当たるふしがいくつか思い出された。 「あ…だから?」 「そうだ。やっとわかったか? 君がしていたのは修行という名の檻に自ら望んで入ったに過ぎない。」 きつい言葉だがその心の底に彼女への思いやりが見えた気がしたリチャード。 泣き崩れるその身を抱きしめる。 「それでは…彼女は…」 「そう、元々、普通の…いや、美しい乙女にすぎない。 どうか生まれた国へ…家族の元へ帰してやってくれ…」 「解りました。」 リチャードは力強く答える。 ********** 村は住人の1/3を失ったが、再建はすぐに始められた。 教会に避難していたほとんどが村の生き残り。 リチャードはとりあえずチームのところに戻る。 「ところでリチャード。 お前さん、1時間ほど何処に行ってたんだ?」 ビルが意地悪く問いかける。 「ちょっと私的な事で。…申し訳ない。」 「ふーん。珍しいこともあるのね〜。」 マリアンがひとりごちていた。 ********** 怪我が大したことではなかったシスターはベッドから出て、 教会の聖堂で祈っていた。 「マリア様… 私のしたことは…回り道だったのでしょうか? 無駄なことだったのですか…?」 彼女の背後にジョナサン神父が立っていた。 不意に呼ばれ振り返る。 「シスターファリア…。 …あなたが今、ここにいることは…意味があります…」 「え?」 「あなたがいたから、頑張ってきた人もいます。 村人も、そして私も…。」 彼は近づきそっと彼女の手を取り、甲にキスした。 「あなたは…私たちのマリアだった。 私の聖乙女だった。 お行きなさい。 私たちと共にいてもあなたは幸せになれない。 ここにいてもあなたは悲しみを苦しみを…背負うだけだ…」 ジョナサン神父の唇から出た言葉に戸惑う。 「どうして…?」 「あなたがここにいれば、私も修行にならない。 だから行ってください。 …いえ、帰ってください。乙女よ…」 リチャードによく似た金髪のエメラルドグリーンの瞳を持つ青年神父は悲しい笑顔で 言葉を繋ぐ。 「私は…ここにいてはいけないの?」 「いけないわけじゃない。 …居場所がないわけでもない。 けれど…ここはあなたのいるべき場所ではない。」 初めてジョナサンの心に気付いた。 彼もまた苦しんでいた。 (私がいたから―?) 「ジョナサン神父… ごめんなさい。 そして、ありがとう。」 ファリアは涙を流す。 別れは辛い。相手が生きていても死んでいても。 聖堂に人が入ってきた。それも4人。 ビスマルクチームの面々だった。 黒いシスター服を纏った彼女に近づくリチャード。 傍らにはジョナサン神父が悲しい面持ちで立っていた。 リチャードに真剣な瞳で神父は告げた。 「彼女を頼みます…」 「あぁ。地球の家族の元へ返しますよ…」 ビスマルクチームの3人はリチャードと雰囲気の似た神父だと感じていた。 その二人の会話を理解できないメンバー。 「どういうことだ?リチャード?」 「シスターは…いや、彼女は僕の許婚。 5年半前に行方不明になっていた…」 「何だって?本当か?」 思わず叫ぶ進児たち。 「あぁ。」 ジョナサン神父は静かにその場を去る。 彼女の幸せを祈って… ビスマルクチームの3人はリチャードの説明を受け、 やっと理解した。 そしてその数日後― ファリアはガニメデ星・セントラルシティに暮らす叔父の科学者の元へ送られた。 半月後、地球から迎えに来た父と弟。 涙の再会を果たし、地球へと帰ってゆく― 戦争終結後、リチャードと婚約したのは言うまでもない――――― The end ********** あとがき(2005/3/16) ははは。久々のリチ×ファです。 今回のテーマ(?)はソードシスター(笑) とある小説で出てきた単語なのですが… 修道女の姿で帯剣しているのってカッコよさげでいいかな〜と思い、 書き出したらこんなんなりました(爆) 本来のファリアとは全く別人的な設定…(汗) 運動神経も反射神経も今までの彼女にはありません。 だからこれはマジでパラレル… (注)ちなみに「聖籍」っていうのは捏造です。 私は完全仏教徒ですのでキリスト教には詳しくありません。 あしからず。 + BACK + + Bismark Novel + (2005/3/16) (2005/3/30改稿) |