frou-frou   -5-




しばらくしてバーを出た進児たちは
夜の村の中を見て回るがおかしなところはなかった。

「は〜… ホント美人だったな〜。
リチャードのヤツが見たらどんな反応するんだろうな?」

ビルの呟きに進児も悪戯っぽい顔で応える。

「確かに…あいつの好みって黒髪の女の子だしなぁ…」


二人は笑いながらビスマルクマシンへと戻っていく。




        ***



―その日の深夜


ドアを叩く音に気づき開ける。

「おい!ファリア!!起きてるだろう!!」


ドアを開けると主人のピーター。

「…何ですか?こんな時間に?」

夜着を来た美貌の乙女に目を細めるバーの主人。

「…今日はお前に夜の相手をしてもらう。」

「…そんな!! 以前は断ってくれていたでしょう?」

「そんなはした金じゃねぇ。なんと一晩1万ドルだ。
初物だって言ったら喜んで出した客がいてな…すぐ下に来い!!」


バタンと閉めて階下に行く主人の足音。
ピーターの言葉に驚く。
今までこんなことはなかった。
それにそんなことをすれば村の男たちが怒り狂うことが解っていたから
店じまいをしたあと、その客を呼んだらしい。






酒場で働いていても女のプライドを守りたかったから
ずっと断り続けてきた。
お金で買われるなんて真っ平ごめん。
何より愛してもいない男に純潔を奪われるなんて死んでもイヤだった。


「そんな…そんなの…イヤよ。」


きっと唇を噛む。

夜着から黒いワンピースに着替え,靴を手に2階の窓から逃げ出した。

「ごめんなさい…メリルおばさん…」

ひとりで夜の村へ出るのも正直、怖かったが
身体を売れと言われたほうが数倍ショックだった。








「はぁ…  はぁ…  」

走って逃げてきたから息が上がる。

村の外れまで来ると見慣れない巨大な黒いマシンがあった。


「何…これ…?」


思わず立ち止まり、見上げる。
壁面に米英日の国旗。


「地球のもの…なの?」


しばし見上げていると逃げ出したことに気づいた主人・ピーターと
彼女を買ったという成金風の中年男が走りこんできた。



「見つけたぞ!! 逃げようなんて甘いんだよ!!
所詮は女だ。
さぁ、観念しろ!!」


逃げ出そうとしたが あっけなく掴まる。

髪を振り乱し、泣き叫んでもなお、その美貌は損なわれない。

男は生唾を飲み込む。




ビスマルクマシンの中でレーダーの監視をしていたリチャードが
マシンの真下で騒いでいる人がいることに気づく。


「何だ?!デスキュラか?」

銃を構えビルが言う。

「違うようだ。口論しているみたいだぞ?」

「とりあえず降りてみようぜ。」

進児の言葉によってマシンを降りる。
目の前のその光景に驚く。


美しい乙女が髪を振り乱し、男に腕をつかまれて引っ張られていこうとしていた。


ビルと進児はその女が例の乙女だと気づく。

「おい、進児。あの女の人…バーの歌姫じゃないか?」

そんなことを知らないリチャードが訝しげに問う。

「バー?」

「あぁ、さっき話しただろう?超美人の歌姫。」

「そういえば…」

「どっちにしても止めさせたほうがよさそうだ。」

進児の正義感に同調した二人。



主人達は3人の少年達に気づく。


「何だ?! お前達は? 子供は関係ない!
さっさと消えろ!!」

成金風の男はギラついた目で3人に罵声を浴びせる。


「イヤ!! 絶対にイヤよ!! 離して!!」

その様子にただ事ではないと察した。

「お願い! 他のことなら何でもします…けど… 身体を売られるのだけはいやぁ!!」


「「「!!」」」

乙女の絶叫でどういうことかやっと理解した3人。



「お前…ファリア!! 一体、何年食わせてやった?! 恩をアダで返すつもりか!!」

「!!」

リチャードは心臓をつかまれた気がした。

「その手を離せ!!」

「うるさい!!」

ビルに銃口を向けられても男は怯まない。


一瞬の隙をついて男の手から逃れようとするが失敗に終わる。

「くそ!許さんぞ!! 来い!!」


「イヤ… いやぁ!!」


思わず暴れる乙女の手に触れたのは男が腰に持っていたナイフ。
握り締め引き抜くと刃が男の顔を掠めた。

「!!」


一瞬の出来事に驚くその場にいた全員。

乙女の手は握り締めたナイフの刃を己の白い首元に当てた。


「来ないで!!」

ピーターも男も進児たちも皆、動きが止まる。
つうと赤い血が白い肌に滲む。


「この身が汚されるくらいなら死ぬわ!!」


進児たちは目配せをした。

ビルと進児が銃口を男たちに当て、リチャードがその手を掴み、ナイフを奪う。


「やッ…離して!!」

乙女の両手を上へとひねり上げた。

「痛…」

「その女を返せ!!大事な金づるだ!!」

ピーターの叫びに乙女は驚く。
そんな風に思われていたのが一番ショックで悲しかった。


リチャードはこんな状況の中、乙女の大きく開いた胸元の小さなネックレスを見つめる。

「!! やっぱり…君は…」

「女を返せ!!」

怒鳴るピーターと男に冷静にリチャードが問いかける。

「…彼女を買うといったな。いくらだ?」

「…一晩1万ドルだ。」

「…そうか。金ならいくらでも払ってやる。だから解放しろ。」


リチャードの言葉に皆驚く。


「おい!!リチャード?どういうつもりだ?」

ビルが叫んだ瞬間、乙女の顔色が変わる。
自分を捕らえてる青年の顔を至近距離で見て気づく。

「…まさか…あなた… リ…チャード?」

「そうだ。…ファリア。」

「!!」

ぎゅっと心臓をつかまれる感覚に襲われる。

「さあ、いくら払えば僕に引き渡す?」

「…!!」

ピーターは答えに詰まる。

「おい!!リチャード。 金払うって言うけど…その人に価値はあっても
こいつらに払う義理も何もないだろう。払うこたないぜ。」

ビルの言うことももっともだった。

「そうだ。警備隊に引き渡そうぜ。
こういうヤツらは叩けばいくらでもほこりが出る。」

「!!」

進児のその言葉で主人も男もびくりとする。


「くそっ!! そんな女はくれてやる! 逃げるぞ!!」

男に言われ主人ピーターと二人でさっさと逃げ出した。

ヤツらが去った後、彼女を捕らえていた手をやっと離した。
へたり込む乙女。




「おい!リチャード!! どういうこった?」

ビルがワケが解らないといった様相で問いかける。

「…彼女は僕の許婚…」

「「え?!」」


進児とビルは今まで聞いたことのなかった言葉に戸惑う。

大地にへたり込んだ乙女…ファリアは彼を見上げて問う。

「リチャード…どうして…こんな星に? それにあのマシン…?」

「僕は今、地球連邦のビスマルクチームの一員だ。
君を探したくて…宇宙に出た。 やっと見つけたよ。」

リチャードはやっと見つけ出した恋人の前にひざまづき、そっとその頬に触れた。
サファイアの瞳を覗き込むとボロボロと大粒の涙が溢れ出す。



「どうして…どうして…? もう私のことなんて…忘れて欲しかった。
こんな…落ちぶれた私なんか、見ないで欲しかった…」

「僕は生きてる君に逢いたかった…。」

彼の指先が頬を撫でる。

「イヤ。お願い、忘れて…お願い。 こんな私を見ないで…」



確かに6年前と比べて翳のある大人っぽく美しい乙女になっていた。

「嫌だ。 そんな言葉は聞きたくない。」



進児とビルは二人のやり取りを見守っていた。
戻ってこない3人に気づいたマリアンも降りてきた。




「イヤ… 私…なんてただの酒場の女なのよ。
…お願い…忘れて。 死んだのよ、私。あの日に…」

震えながら泣き出してしまう彼女を抱きしめる。


「死んでない…生きてる。
僕はこの6年1ヶ月ほど…生きてると信じてた   …ファリア。」


その名に聞き覚えがあったマリアンは小さく叫んでいた。

「あ!」

「どうしたマリアン?」

「ちょっと来てよ。」

進児とビルをマシンの中へ引っ張っていく。








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(2005/5/16)



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