frou-frou -4-
ファリアが16歳になった直後。
リンダの声に変化が現れた。
代わりにファリアが歌うことになる。
まだ16歳の少女の歌に色気はない。
しかしその可憐な歌声に惹かれる客が通い始める。
評判が評判を呼び、村の男たちは彼女の信奉者となっていく。
日によってはファリアがピアノを弾きながら歌うこともある。
リンダは自分の代わり以上の役目をしてくれている妹分を優しい目で見ていた。
***
常連客の一部のメンバー10人がお金を持ち寄り、彼女にあるものをプレゼントした。
それは中古だけれど黒のグランドピアノ。
学校から帰ってきた少女は驚く。
バーの中に置かれた黒のグランドピアノ。
周りには常連客10人とメリルたち。
リーダー格のボブが言う。
「みんなで買ったんだ。フェアリーの為に。」
「私に?!」
「「「「「「「「「「うん。」」」」」」」」」」
幼い頃、両親から白のグランドピアノをプレゼントされた。
あの時と同じような思いでいっぱいになる。
「ありがとう…」
涙を流し、喜ぶその姿を見て男たちも喜ぶ。
「ねぇ、皆さん。少しかがんでくださる?」
10人は膝を折る。
ファリアはひとりずつ頬にキスしていく。
鉱山で働く無骨な男たちのその頬に。
10人はそれぞれ顔を見合わせて照れ臭くしていた。
この頃、バーの屋号が<P&M>から<Night
of Fairy>と変わった…
すっかり歌姫となった少女に合わせてのことだった。
***
―ある日
教会での祈りを済ませた乙女が村の中を歩く。
最近は彼女への態度が最初の頃とすっかり変わっていた。
なぜなら店に来る村外の男たちのおかげで村は繁栄していた。
それは歌姫・フェアリーがいるからだと理解しているからであった。
女たちも今は親切。
彼女の為にステージ衣装をこしらえてくれたり、髪の手入れや肌の手入れの仕方も教えてくれる。
すっかり村の住人となっていた。
道を歩くと皆が振り返り、人によっては何かをくれる。
自分の笑顔が見たくてみんなが優しくしてくれるということは理解していた。
大きな襟ぐりのブラウスから覗く白い肩にかかる見事な黒髪。
ふわりと風に抱かれると髪が舞う。
優しい風を肌で感じた時、不意に思い出す。
(あの日も…こんな風だった… リチャード…今、あなたはどうしているの?
もうすぐ…誕生日。
18歳… きっと立派な青年になっているんでしょうね?
きっと…私のことなど忘れて…
素敵な恋をしてるんだわ。
さよなら…
遠くても…愛してるわ…)
胸に秘めた想いを抱いたまま歩き出す。
ただ風だけが肌を撫でていく…
*****************************
ファリア18歳― あと1ヶ月で19歳に…
村の男たちは一向に恋をしようとしない彼女を不思議に感じていた。
恋の歌を歌う時のあの甘い切なさは何処から来るのか―――
少々愁いを帯びた美貌の乙女になったフェアリーことファリア。
最近は村内だけでなく遠くの村からも噂を聞きつけやってくる。
***
この頃、地球周辺では不穏な空気。
異星人デスキュラの侵攻が本格化していた。
人工惑星ヘルペリデスが冥王星から移動を始めていた。
デスキュラを撃退するために結成されたビスマルクチームは
フルシーミ星の鉱山に秘密工場があるという情報を得て星に降り立つ。
インテリジェンスシステムのリチャードが走査するがデータが上がってこない。
「どうする?進児?」
彼がリーダーである進児に問いかける。
「うーん…でも確かにあの鉱山、怪しいんだよな…」
「とりあえず村を調べてみたらどうだ?」
ビルの提案が無難かと感じ、3人が同意した。
「じゃあ、俺とビルで村に入る。リチャードは待機していてくれ。」
「了解。」
夕方の村に入った進児とビル。
やけに人気がない様に感じた。
「なんか、人が少なくねぇか?」
「確かに…」
村のメインストリートを歩くと確かに人が少ない。
確かに人口はわずか300名くらいとはいってもあまりの少なさに驚く。
しばらく歩くとやけにたくさんの人の気配。
二人が近づくと村に似合わない美しい歌声が流れてきた。
それはバーからだとすぐに気づく。
「入ってみようぜ。」
「あ、あぁ。」
ビルに言われ店内に入る。
店の中は満席状態。
男たちだけでなく、女たちもその歌声に聞き惚れていた。
二人の視線の先に入ったのはピアノを弾きながら歌う黒髪の乙女。
「うお〜!! すっげぇ美人!!」
ビルがいつものビョーキさながらに叫ぶ。
そんなビルたちに声を掛けてきた男がいた。
「あんたたち…旅の方だね?」
「え、あ、そうだけど?」
ビルは問いかけてきた無骨そうな男に応えていた。
「なんで解るんですか?」
進児が問いかけると目を細めて男は言う。
「ああ、この村でこの星で彼女を知らん男はいないからな。」
「解る気がするぜ。」
「彼女はここの歌姫でな、"フェアリー"と呼ばれている。」
グイとジョッキのビールを口に流し込む男。
「妖精<fairy>?」
進児もビルもじっとステージの彼女を見る。
「ぴったりじゃないか?」
その美貌と歌声聴きたさに夜になると村中だけでなく近隣の村からも男が集まっていた。
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(2005/5/16)
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