frou-frou -3-
ピアノを弾く様になって落ち着くことが出来た少女。
この頃から夜になると泣いていた。
自分が巻き込まれた事件の数ヶ月前はとても幸せを感じていた。
実はすれ違いが続いていた両親の仲は改善し、
自分は幼い頃から大好きだった幼馴染の少年・リチャードと内々に婚約した。
図書館のあの日――彼に抱きしめられ「大好き」と告げられた瞬間を思い出す。
その声とぬくもりが今も忘れられない。
もう2度と逢えないと思うとなおさら辛かった。
忘れようと思っても、心の底でいつも彼の面影を追っている自分。
切なくて苦しくて… 恋しくて… ひとりベッドで泣いていた。
他の男の子になんて興味はない。
幸せな思い出を胸にしまい、一途な思いだけを抱いて生きるしか許されなかった―
少女には何時しか憂いの影が浮かんでいた―
***
やっと村の中をひとりで歩けるようになった少女は教会へと足を運ぶ。
中に入り、奥にあるマリア像に手を合わせ尋ねる。
(私…生きてる意味…あるのかしら? 何のために?
どうして…父や母の元に行かせてもらえなかったの…??)
奥から神父が出てきた。
マリア像の前にひざまづく少女の存在に気づく。
(あれは…確か、バーのメリルの…?)
しばらくして立ち去ろうとする少女の前に立つ神父。
「大丈夫かね?」
優しく問われうなずく。
「神父様…ひとつ聞いていいですか?」
「うん?なんだね?」
「私…何故、両親と同じように天に召されなかったのですか?
何故、神は…」
少女の悲しみを帯びた言葉を聞いて、そのサファイアの瞳を覗き込む。
細い肩に手を乗せると少女の双眸から溢れ出す涙。
「君には…生きる意味が…価値がある。だから生かされている。
今はわからなくても…いつかは解る。 辛くても悲しくても…」
「私…どうしていいか解らない。」
少女の絶望を感じて神父は目を細める。
「今を生きなさい。くじけそうな時は…神に祈るのです。
…いいね?」
「…はい。」
ファリアはただ異郷の星の大地で歩いていく―
******************************
あれから2年―
やっと村にも慣れ、少々人口の増えた村に小・中・高合同の学校が出来た。
ファリアも14になり学校に通っていた。
朝昼は学校、夕方からジェレミーによるピアノのレッスン、夜はバーで働いていた。
学校では少々浮いていた少女ファリア。
やはりバーで働いているということが同世代の子供達の興味と軽蔑を買っていた。
男の子は下心があり、女の子は軽蔑の眼差し。
もちろん、友達などいなかった。
孤独な少女の唯一の友達は本。
休み時間は本を読んで過ごした。
(昔は城の大書斎に勝手に入ってお爺様に叱られたっけ…)
そんな思い出さえたまらなく懐かしい。
***
ある学校の帰り道。
2コ上のゲーリーに呼び止められる。
学校ではなかなか人気のある男子生徒。
「ねぇ、ちょっといい?」
「私、早く帰らなきゃならないの。ごめんなさい。」
早々に立ち去ろうとする少女の腕を掴む。
「!! 離して!!」
ぐいと腕を引かれ顔を引き寄せられる。
「…なぁ、付き合ってるヤツいないんだろう?な?」
明らかな男の欲望を見せ付けられ嫌悪感が生まれる。
キスしようと迫るゲーリーを何とか振りほどき逃げ出す。
(リチャード!! 私…あなた以外なんて…
考えたくない!! 考えられない!! 例え… 2度と会えなくても!!)
溢れる涙が止まらなかった。
***
―ある夜
バーで酒を運ぶ少女を見て、酔っ払った若い男がその細い腕を引っ張った。
「な? 俺と付き合えよ!」
酔っ払ったその手に容赦はなかった。
「や…離して!!」
周りにいたテーブルの常連客5人がその様子に気付いて男の手から少女を救い出す。
「何してんだてめぇ…」
ボブがすごむと一気に酔いが冷めた男。
「俺たちのフェアリーに何てことするんだ?!」
他の常連客も加わる。
「…え?あ…」
びびる男に鉱山で働く男たちは容赦しなかった。
「表へ出せ!!」
常連客10数人にボコにされ、医者に半死半生で運ばれた。
その日から店に来る客の中にルールが出来た。
『フェアリーに手を出すな!!
手を出したやつは…わかってるな?
あの子が自分で男を選ぶまで。
それまではみんなのフェアリー。 みんなのアイドル!!』
妙な紳士協定が少女を守る事となる。
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(2005/5/16)
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