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     frou-frou   -2-





―朝のやわらかな光の中を車が走る。

乗っていたのは夫婦。

夫はピーター、妻はメリル。
少し大きな村に買出しに出た帰りメリルは何かを見つけた。


「止めて!!」

いきなり叫んだ妻の声に驚く。

「何だ!?」


車を降り、駆け寄ってみたメリルの目の前には黒髪の少女が横たわっていた。


「女の子だよ!」

「何だと?」

ピーターも降りてきた。

「なんだ?この子は…?」


足は裸足で、服もボロボロ。
意識はないが怪我をしているわけでもなかった。

「何だっていいよ。連れて帰るよ私は。」

メリルの言葉に驚くピーター。

「お前!?」

「だって… 私たちの息子は殺された。…けど神様が私に娘を下さったんだ!!
いいじゃないの!!」



事実、昨年村がデスキュラに襲撃された際に12歳の息子・ニールが殺された。
メリルは愛おしそうに少女を抱き上げ車に乗り込む。





*****************************



ファリアが目を覚ますと初めてみる天井。


「ここ…天国じゃない…」


身体が手足が痛む。


「まだ…生きてる…」



ぼうと天井を見ているとドアを開けて女の人が入ってくるのが見えた。


「!! 目が覚めたのかい? よかった…」


自分を覗き込む少しふくよかな亜麻色の髪の中年女性。

「だ…れ?」

問いかける少女に微笑を向けて応える。

「私かい? 私はメリル。 あんたは?いくつ?」

「…私、ファリア。12歳。」

小さな声でちょっと聞き取れなかったメリルは聞き返す。

「え?フェアリー?」

「ううん、ファリア…」

「そう…ファリアか。可愛い名前だね。 よく似合ってる。」



メリルの目には黒髪で澄んだ濃いサファイア色の瞳の少女が映っていた。

  (なんとまあ、綺麗な子だ! 神様…ありがとう…)


そおと頬を撫でるメリルの手に少女の涙が零れ落ちた。



「何か知らないけど…辛い目にあったんだね…可哀相に…」


メリルの手に自分の手を重ね、ぬくもりを離したくない様子でぼろぼろと泣き出してしまう。

嗚咽を上げ抱きついてきた小柄な少女を抱きとめる。


「お泣き。 辛いときは泣くんだよ。」


激しく泣き出してしまった少女の背を撫ぜる。
小1時間ほど泣きっ放しだった。

「あぁ、せっかくの可愛い顔が台無しじゃないか。」




額が少々熱っぽいと感じたメリルは水とスープを持ってきた。

「これ食べたら、しばらく寝ておいで…。」


少女は布団を被り横になる。

「ありがとう。おば様…。」

素直に感謝の言葉を口にした。
そういわれ照れ臭くなるメリル。

「おば様だなんて…照れ臭い。
おばさん!  メリルおばさんでいいよ。」

「…うん。メリルおばさん…。」



このあと少女は2日間寝込んだ。

その間に彼女の夫・ピーターも様子を見に来て自己紹介をした。






初めてまともに少女を見たピーターは驚く。

「ありゃ、相当ベッピンになるぞ、メリル。」

「そうだね。嬉しいよ。綺麗な娘でさ。
自分が産んだわけじゃないけど、嬉しいよ。」

「…そうか。」


夫・ピーターは少し違っていたようだがこの時、メリルは気づかなかった。

メリルの愛情と手当てを受けてみるみる少女は元気になる。



     ***


―1週間後

やっと元気になった彼女に村の娘の服を着せたメリル。
その姿に満足していた。

メリルはその日、夫と経営する酒場…バーに連れていった。


「ここが私とだんなの経営する店だよ。」


まだ開店前の薄暗い店内。
カウンターやテーブルにひっくり返された椅子が上げられていた。

「ここ…何のお店?」

「バーだよ。って子供じゃわかんないか…」

「ううん。お父様とお爺様のゲームのお部屋にあったから知ってる。お酒飲むところでしょ?」

「そうだよ。」

少女の言葉に少々驚く。


 (やっぱり、この子、お嬢様育ちなんだね…)




その時、バーの木戸を開けて入ってきた人物が二人。


「おっはよー、メリル。」

「よう…メリル。」

声を掛けてきたのはバーの歌い手兼ウェイトレスのリンダ(27)とピアノ弾きのジェレミー(38)の年の差夫婦。



「おや…ひょっとして…その娘かい? メリルが拾ってきた子って…」

ジェレミーがそういうと横にたっていたリンダが小突く。

「ちょっと!! ごめんね、お嬢ちゃん。」

「ううん、いいの…本当だし。」

「でもあたしは新しく来たメリルの娘って聞いてる。
あたしはリンダ。あなたの名は?」

「…ファリア。」

自分に話しかけてきた少々派手な印象の大人の女性。
なんとなく親友・リズが成長したらこんな感じかもと思うと親近感が湧く。


「お姉さんは…ここで働いているの?」

少女の言葉に喜びを隠せないリンダ。

「お姉さん!! 嬉しいねぇ、この子解ってるよ、あはは…」

「この女はおばさんだよって …痛っってえ!!」

夫のジェレミーは妻にどつかれていた。



少女の前に屈み、質問に答える。

「可愛いね、ファリア。 そうだよ、私はここの歌い手。
で、こっちのオジンが私のダンナでピアノ弾き。」

久々に聞く単語に目を開く。

「ピアノ…弾き?」

「そう…興味あるの?」

「うん。」



前の村ではピアノはなかった。
少女は1年以上触っていない。


「あそこに置いてあるんだよ。」

指差された片隅にアップライトピアノ。


ふらふらと近づく少女を3人は見守っていた。
蓋を開けて鍵盤に触れる。


ぽーん…


少々古ぼけたあまりコンディションの良くなかったピアノの音。
けれど懐かしくて嬉しくてポロンポロンと音を鳴らす。



「弾いてみるかい?」

「うん。」

ジェレミーが椅子を引いて座らせてくれた。




あの時の…少年の喝采を思い出しながら弾くピアノの音は切ない音色。
その才能に気づいたのはジェレミーとリンダ。

    (この娘…!!!?)

思わずジェレミーは曲が終わると声を掛ける。

「…ファリア! 君…俺に指導させてくれないか?」

「え…?」

突然の言葉に驚きを隠せない。

「俺はね、昔に地球の音大でピアノを専攻していたんだ。
中退したんだけどね…。
君ならガニメデ星か地球の音大でやって行けると思うよ。
俺と一緒に頑張ってみないか?」

「でも…」

昔、目指しかけた道。
もうダメだと諦めていた。
ジェレミーを見上げると優しそうに微笑み返された。

「行けるかどうか…解らない。 けどピアノは弾きたい。」

その言葉でぱあっと笑顔になるジェレミーがいた。

「そうか。いいよな、メリル?」

振り返って彼女の母親気取りのメリルに尋ねる。

「…解ったよ。 昼に練習しておくれよ。」



笑顔のジェレミーは少女の黒髪の頭を撫でる。

「じゃあ明日からレッスンしよう。いいよね?」

「…はい。」


     ***


村は鉱山のそばにありそこで働く男たちが多く暮らしていた。
しばらくすると仕事終えた男たちが店に入ってくる。


「あれ…まだ開いてないのか?」

「もうそんな時間かい? すまないね、すぐ開けるよ。」


メリルとリンダたちは慌しく店を開ける。
ファリアはメリルに尋ねる。

「私…見てていい?」

「あぁ、いいよ。」


しばらくすると客で店は一杯になる。

メリルとリンダがオーダーを取り、カウンターのジェレミーが酒を出す。
その傍らでつまみを作るピーター。

「私、手伝うこと出来る? 」

ちょっと一段落したメリルに少女は言い出した。

「!!  いいのかい?ここは…」

育ちのいいこの娘にそれを強要しようとは思っていなかっただけに驚くメリル。

「…ううん。いいの。 ここに置いて貰っているから。」

「そう。じゃあ、お客さんのオーダーを聞いておくれ。
最初は覚えられないだろうからメモを取ってね。」

「うん。」


少女は前の村では教会で働いていた。
というか働かされていた。

貴族の家に生まれ育った彼女にとって初めての労働は辛いものだった。
自分がどれだけ裕福に幸せに育ったか思い知らされていた。
それに自分の立場をよく理解していたからなおさら手伝わなければと感じていた。


その日から少女はバーでウェイトレスの仕事を始めた。




客は初めて見る小さな少女に目が行く。


「あの子…ひょっとしてメリルが拾ってきたって言う 痛ってぇ!」

リンダに小突かれた客。

「あの子はね、メリルの娘で、あたしの妹分!!わかった?」

「なんでぇー!?」

「いいから!!」

小突かれた頭をさすりながら客の男・ボブはリンダに尋ねる。

「名前はなんてえんだ?」

「えっと…ファエリー…じゃなくて、ファリアだよ。」

「へえ。でもフェアリーでいいんじゃねぇの?」

常連客の男たちはせわしなく働く小さな少女を見ていた。


「そうだぜ。この村にやって来た小さな妖精だな。」

「ところでいくつだ?」

常連客・ホセが尋ねた。

「あたしは27だよ。」

「違う。誰がおめえの年を聞いてる?あの子だよ。」

「確か…12だって聞いた。」

「ふーん…あと5年もすればベッピンになりそうだな。」


客達はまだ幼い少女を見守っていた。





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(2005/5/16)




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