frou-frou   -1-






―――2079年7月

宇宙空間をふらふらと漂う緊急脱出用カプセルがあった。
表面のオレンジ色の塗装は剥がれ、おびただしく焼け焦げた痕。

それは事件の凄惨さを物語っていた…


中にいたのは母娘。
二人とも既に意識はなく、死を待つのみ―――







オレンジ色のカプセルが1個だけで漂っていたのを発見したのは
未開の星へと布教の為に向かうキリスト教の神父たちだった。


カプセルを開けるとそこには品のある婦人が娘らしき少女を抱きしめたまま亡くなっていた姿。
何とか少女は一命を取り留めた。
それは母親が自分の酸素を与えたためだと後で解った。





目を開けた少女の前には7人の神父たち。

自分を覗き込む40歳くらいの優しげな神父が尋ねてきた。


「…大丈夫かい?頭は痛む?」

「…はい。ちょっと…」

まだ意識が戻ったばかりのせいなのか少し朦朧としていた。
痛む頭に手を当て身を起こした少女に問いかける。


「お嬢ちゃん、お名前は?」

「…ファリア=パーシヴァル…です。」

くらくらする頭で周りを見渡すと横たわる母の姿を見て、飛び起きる。


「お母様!?」

駆け寄り母にすがるが既に呼吸もなく、亡くなっていた。
ノーブルな美貌の母の顔は微笑んでいた。


「お母様あッ!! いやああっ!!」

泣き叫ぶ少女をただ神父たちは同情の目で見守るしか出来なかった。











それは神父の一人・ロナルド神父というこの7人のリーダーに当たる人物。
神妙な面持ちで涙も枯れ果てた少女に神父は告げる。

「ファリア…  可哀相だが君に選んでもらいたいことがある。
… 君のお母さんを異郷の星の土地かこの宇宙に葬るか…だ。」

「!!」

「辛いだろうが…」

絶望の中にいながらも英国貴族パーシヴァル家の誇りを持ち始めていた少女は…決断する。



「…異郷なんて…ダメ。」

「じゃあ、宇宙だね。」

言葉にしたくなくて こくりとうなずく。

神父3人がかりで入っていたカプセルに戻される母の遺体。



「待って!!」

母の遺体をじっと見つめる。
生前と変わらぬ美しい母の顔。。
死んでいるなんて信じられない。

「お母様…形見を…頂きますね。」

母が身に着けていたネックレスとピアス、リングを外す。
結婚指輪にも触れたが止めた。

「どうした?…それはいいのかい?」

神父に問われ母の手に触れながら応える。

「これは… お父様との絆だから。 娘の私が勝手に外すなんて出来ない…
奪えないわ。だから、いいの…」

「そうか。」



母のカプセルが閉じられ宇宙空間へ放出される。


遠くなる母の入れられたオレンジのそれは小さくなってゆく。
小窓から見えなくなっても… 宇宙空間を見つめる少女は声も出さす泣いていた。






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少女・ファリアはロナルド神父に引き取られた。



―――宇宙船が被弾して、カプセルに乗った。 たぶん父と弟もその爆発で…

そう話した少女の瞳には絶望の光しかなかった。
生けるかばねになってしまった少女は教会の一室でただ生きているだけだった。








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木星周辺の数ある小惑星を開発・開拓を始めた地球人たち。
その中のまだまだ未開の星・フルシーミ。

木星のカッシーニのリングがはっきり見える距離にあった。



地球人が開拓を始めた頃、異星人デスキュラが現れ、人々は殺されていた。
しかし地球連邦軍のおかげでなんとか撤退させることが出来た。


あれから10数年…
またヤツらが暗躍を始めていた…




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教会の一室からやっと出れるようになった少女。
村の人たちはその美しい少女を可愛がってくれた。


彼らの思いやりと優しさでやっと笑顔が出るようになった。



少女が村に来て1年後…

デスキュラが物資を狙って村を襲った。

村人は殺され、物資を奪い、村は焼かれた。


恐怖に怯えながら神父に地下室に押し込められていた少女。


音が止んだ夜中、怯えながら地上に出ると呆然とした。
村は跡形もなくなっていたから。


少女は…また失った。
自分を愛してくれた人たちを―――





ふらふらと幽霊のように歩き出す。



  (私、なんで生きてる…の…??)



赤茶けた乾いた大地に横たわってしまった。





  (…やっと… 父さまと母さまと…弟のところへ…行ける…の?
   さよなら… リチャード… 大好きよ…)


少女の閉じたまぶたの中に幼馴染で許婚の少年の姿が浮かぶ。


明るい金髪を風になびかせて馬を走らせている彼の姿が大好きだった。
自分を抱きしめてくれる優しい腕が大好きだった。

もうその声すらも聞くことが出来ない。



孤独と絶望の中で少女は…恋しい少年の思い出を抱いたまま瞳を閉じた。








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(2005/5/15)



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