Freeze My Love -3-






リチャードが基地宿舎に戻ったのは夜7時を過ぎ。

自分の部屋に戻ると電話にメッセージがあると告げるランプが点いていた。

何事かと思いすぐに再生する。


≪ピーッ   13:07 軍調査室 コラボル大佐からの伝言です。

   ”本日、デスキュラ基地及び研究施設爆発現場にて、身元不明の少女を保護。  
    貴殿の知り合いと思われるので確認されたし。   至急連絡を乞う。”≫


彼は自分の耳を疑った。

『身元不明の少女?   僕の知り合い?    
 まさか……?!』


彼は慌てて受話器を取る。

「はい、オペレータセンターです。」

「軍調査室のコラボル大佐をお願いします。」

「少々お待ちください…」

彼は逸る心を抑えるので精一杯。

「コラボル大佐のお部屋です。 ただいま繋がります。」

オペレータの声がもどかしく感じる。

ピーという音の後、声が入ってきた。

「軍調査室のコラボルだが…ビスマルクチームのリチャード=ランスロット君?」

渋い男の声が問いかける。

「はい、僕がリチャード=ランスロットです。
僕の知り合いって、一体 誰ですか?」

明らかに焦りの色を隠せない彼にコラボル大佐は言った。

「落ち着いてください。
今朝、未明に郊外の山中で爆発がありました。
調査結果はデスキュラの秘密研究基地。
その中で発見された少女がいたのだが身元確認の結果、
君の元婚約者・ファリア=クリスタ=パーシヴァルという事が判明した。
そこでDNA鑑定をするかどうかで迷っていたのだが…
君が確認してくれれば、鑑定は必要ないだろうということになる。
どうか引き受けていただきたいのだが…」

彼は即答。
上ずりそうになる声を落ち着かせる。

「はい。そのお話、お引き受けします。」

「そうか。   …これから時間はありますか?」

コラボル大佐は彼の気持ちに気付いたのか唐突に話を切り出す。

「はい。」

「それでは30分後に軍病院のロビーで。」

「了解しました。」





    夜 7:43     軍病院・ロビー



彼は少し早く着いた。

しかしコラボル大佐も早めに待ち合わせの場所に来ていた。

「ビスマルクチームのリチャード君だね?」

声を掛けたのはコラボル。

「はい。コラボル大佐で?」

細身だががっしりと筋肉質なのが解る渋い30代前半の男性。
その声はまた男前だった。

右手を出し握手する。

「私がジョージ=コラボルだ。以後、お見知りおきを。」


この間のヘルペリデス破壊作戦を成功させたビスマルクチームは軍内部で大きく評価されていた。


「それではこちらへ。」

彼が連れて行かれた先はマジックミラーの裏の部屋。

まだ本人には逢わせて貰えない。

彼は我が目を疑う。

間違いなく自分の捜し求めていた少女である事に。



「どうかね?」

コラボルが訊ねるまでもない。

変わらない漆黒の髪、白い肌、蒼い瞳。
目許は少し大人びている。
髪は随分長く腰の下まであるようだ。


「はい。間違いなく彼女本人です。  …逢わせては貰えませんか?」


「いいだろう。」


再びコラボルに連れられて部屋を出る。

彼女の部屋のドアをノックし、まずはコラボルだけが入った。

「あら?コラボル大佐。 また来てくださったの?
先ほども警備隊の方が来てくださったわ。
ほら、そこのお花を持ってきてくださったの。」

窓際に大きな花束が二つ、花瓶に飾られていた。

「すまない。折角のレディのお見舞いに花を忘れるとは…失礼した。」

恐縮するコラボルに彼女は慌てて言葉を足す。

「いいえ、そんなつもりで言ったのではないんです。ごめんなさい。」

そんな少女を可愛いと思ったが、一つ咳をして話し出した。

「実は君に会ってもらいたい人物がいてね。連れてきたんだ。」

そうしてやっと部屋に入った彼の前には恋焦がれた少女が病室のベッドの上にいる。

少女は驚く…
あまりの突然の再会に。

背は大きくなっていても、身体は大きくなっていても顔を見れば解る。


「リチャード…」

その名を口にするだけで精一杯だった。


「…ファリア」


彼も同じ想い。

目頭が熱くなる。

自分の前から突然いなくなってしまった少女。

二人の間に流れる空気を察して、コラボルは退室した。

しかし、隣の部屋のマジックミラーの裏から様子を見ている。






「………」

「………」

お互いどう声を掛けていいのか戸惑う。

沈黙を破って口を開いたのはリチャード。

ベッドの彼女に近づく。

「…よかった。生きていてくれて。 
僕はずっと君を探していたんだ。」

彼の思いがけない言葉に驚く。

「え!?」

「5年前、君の身に起こった事件。
僕は運命を呪った。
でもお陰で解ったんだ。…僕にとってどれだけ君が大切な人か。

…だから僕と一緒に地球に帰って欲しい。」

彼女の瞳から涙が溢れる。

「でも、私は…」

躊躇う彼女に言葉を続ける。

「君の母上は亡くなってしまったけれど、父上のパーシヴァル伯も弟のアリステアも無事なんだよ。」

彼女は知らなかった。
父も弟もあの事件で亡くなっていたと思っていたから。

「本当に?」

「あぁ、本当だとも。」

彼女は父に弟に会いたかった。

「私…帰りたい。お父様の下に、家に…」

溢れ出す涙を止められず、両手で顔を覆う彼女を優しく抱き締める。

「帰ろう。 僕と一緒に…」


静かに隣の部屋で様子を伺っていたコラボルは一安心して部屋を出た。

そして大佐の手配で部屋を移る事になる。




*******************



ドアをノックしたのは看護婦。

彼女の涙が落ち着いた頃を見計らったように。


「失礼します。」

おっとりとした雰囲気の看護婦は彼女に新しい病院着を渡して着替えるようにと。

リチャードは部屋の前で待つように言われる。

「さぁ、ファリアさん。部屋を替わることになりました。行きましょうか?」


突然の部屋の移動に戸惑いつつ彼女は部屋を出る。

部屋の前で待っていた彼は何が起こったのか解らなかった。

そんなリチャードの様子に気づいた彼女。

「部屋を替わるんですって。」
そう言って微笑んだ。


移動した先は何とビルの隣の病室。

彼女の身元がはっきりした証拠だといえよう。

此処の病室は一般用でなく軍関係者用の立派な部屋。
怪我はたいしたことはないが、一時的に入院するにはもったいないほどの広い部屋。

部屋を移って間もなく、食事が運ばれてくる。


「それじゃ、また来るよ。」

彼は気を使って退室した。






「ま、彼女の身元が解れば、当然か。」

ひとりごちて廊下で佇んでいたリチャードに声を掛けた人物。

「リチャード?」

振り向くとそこにはビルの婚約者・ジョーンが花瓶を持って立っていた。

1歩近づいて話し出す。

「やぁ、ジョーン。ビルはどうだい?」

「えぇ、もう大丈夫よ。すっかり元気。
今朝はビルの所に来られない用事があったんですって?マリアンから聞いたわ。」

少し怪訝な顔をジョーンは彼に向けた。

バツが悪そうにする彼に言葉を続ける。

「今ね、マリアンと進児君とルヴェール博士がいらしているの。
これは博士からのお見舞い。」

そう言って花を見せた。

「そうだったのか。じゃあ、僕も少し寄らせてもらうよ。」

彼はビルの病室に入った。








________________________

あとがき(2004/8/22)
(2005/7/4改稿)
(2015/02/24 加筆改稿)

ちなみにコラボル大佐のお声のイメージは中田譲治氏。
好きなんです〜♪


BACK/NEXT


B
ismark NOVEL TOP