Freeze My Love -4- |
病室に入るとビルと進児たちが楽しそうにしていた。 リチャードを見つけると声をかけてきた。 「あっれ〜?! リチャードじゃん!」 ビルが元気そうにベッドの上から手をひらひらと振っていた。 「おい。シンシアはちゃんと送ったんだろうな?」 進児が余計な事を言う。 ルヴェール博士が初めて聞く名に首を傾げた。 マリアンがそんな父に教える。 「あのね、お父様。リチャードの彼女よ。」 そのマリアンの言葉を笑顔で聞いた博士。 「ち、違う!」 突然 リチャードが叫ぶけれど、照れ隠しだと思っていた5人。 けれど本当に違う、 彼の本命は彼女・ファリアだけ。 「またまた〜☆」 ビルが笑いながら茶化す。 リチャードは珍しく声を上げた。 「本当だっ! 僕には婚約者がいる!!!」 思いがけない言葉に一同は驚く。 しかし進児は婚約者が行方不明だと言う話を聞いていたため その言葉が真実味を帯びている事に気がついた。 「…まさか、本当か?」 「あぁ。本当だ。 …実はこの病院にいる。」 進児の言葉の意味がリチャード以外、解る者はいなかった。 しばらくの沈黙の後、ビルが呟く。 「おい、マジかよ。」 隣の病室で彼女は食事を終えて、瞳を閉じて5年間の事を思い出していた。 初めての宇宙旅行に出た日の事。 乗った宇宙船が異星人デスキュラに襲撃された事。 拉致されて、研究施設に送られた日の事。 そこで出会ったコングラート博士。 デスキュラ人なのに優しい人。 毎日、自分を守ってくれた。 そうして今朝の出来事。 コングラート博士の突然の愛の告白、そして別離。 愛する彼との再会。 ひとり声も出さずに泣いていた。 悲しいからなのか、切ないからなのか彼女本人にもその涙の意味が解らない― 静かな病室にインターフォンが響く。 ベッドサイドのボタンを押して答える。 「…はい?」 誰だろうと訝しく思いながら、目頭の涙を拭く。 「僕だよ、リチャード。今、入って大丈夫かい?」 彼がまた来てくれたと思った彼女はドアを開けて驚く。 彼以外に何人かの人がいたから。 「また来てすまない。こんな時間に。」 少し申し訳なさそうに彼は言う。 「ううん。嬉しい。 こんなに来て下さって。」 松葉杖を突いたビル、支えるジョーン。 進児とマリアン、そしてルヴェール博士。 部屋に入った一同は唖然と彼女を見ていた。 理知的な蒼の瞳。 白い肌に映える艶やかな長い黒髪。 華奢な身体。 まるで水仙のような可憐な微笑み。 「それにしてもリチャード、たくさんのお友達を連れてきてくれたのね。」 クスクスと微笑を零しながら問いかける。 「あ、あぁ。突然こんな大勢で来てしまってすまない。」 「いいのよ、ありがとう。」 二人の雰囲気に入っていけない5人がいた。 「みんな、紹介するよ。こちらが僕の婚約者のファリア=パーシヴァル。」 「ベッドの上から失礼します。 …皆さん、よろしくお願いします。」 「こちらが連邦軍首席のルヴェール博士。」 ルヴェールは右手を差し出しその少女の手のひらに軽くキスをした。 「あぁ、どうも。私がルヴェールです。 こんな綺麗なお嬢さんがリチャードの婚約者だとは…」 「そんな事ありませんわ。」 そう言いつつも彼女の顔には嬉しそうな笑みが出ていた。 「で、こっちの怪我人がビル。その隣にいるのが婚約者のジョーン。」 二人は照れくさそうに挨拶する。 「ども。」 「初めまして。」 「どうも… あの、お怪我されているのでしたらそちらのソファに掛けて下さいね。」 彼女は優しくビルに言う。 「いえいえ大した怪我じゃないっすから。」 鼻の下を伸ばすビルをジョーンは手を引っ張りソファに連れていた。 「それとルヴェール博士のお嬢さんでマリアン。」 彼女がにっこりと微笑む。 「初めまして。」 「あ、はい。こちらこそ初めまして。よろしく。」 女同士なのにどぎまぎしているマリアンを初めて見た。 「ラストはリーダー・輝 進児。」 彼がそう言うと進児は照れくさそうに1歩前に出た。 「どうも。」 彼女の微笑みは信じもビルもジョーンもマリアンさえも魅了した。 そんな空気の中、マリアンが彼女に質問する。 「あの〜、リチャードの婚約者って 本当なんですか?」 「なに言ってんだ?マリアン。」 「だって〜」 進児とマリアンの可愛い会話に一同は笑っていた。 「多分、今は解消中じゃない?」 質問を彼に振る。 「あ、あぁ。表面的にはそうなっているけれど僕の気持ちはパーシヴァル公爵も解って下さっているよ。 帰ったら今度こそ正式に婚約できると思っている。」 「あれ。正式な婚約じゃなかったのか?」 進児が突っ込む。 「あの頃は二人ともまだ幼かったし、とりあえずの約束だったから…」 「…そうだったわ。 でも私たちは本気だった…」 彼女を振り返ってリチャードはその言葉に強くうなずく。 「あぁ。」 その二人の会話を聞いたマリアンは理解した。 『これは…シンシアの入る余地はないわ』 二人の間に流れる空気は5人を納得させた。 2日後 彼女の退院の日。 ファリアの怪我は大したことなく、健康診断でも異常なしとされたので退院することに。 彼と一緒に地球に帰るため軍の宿舎に泊まることになる。 彼女の父親には連邦軍が連絡。 その直後、リチャードも。 当然、娘が生きていたことに驚いたが何よりも喜びの方が大きかった。 そして病院を出た時、事件は起こる。 リチャードと共に出てきたファリアをシンシアが見ていた。 ビルが入院していることを知ったシンシアが此処に来れば彼に会えると思ってのことだ。 まだ身の回りの物があまりない彼女は小さな荷物だけで退院。 勿論、彼が持って。 二人のあまりに幸せそうな雰囲気が心の中の愛情を憎悪に変えてしまっていた。 ( 許せない… ) つかつかと二人の間に歩み出る。 その気配を察したリチャードは彼女をかばうように立ち止まった。 「何だい?」 ただならない顔をしているシンシアに問いかける。 「あなた… 嘘ついたのね!?」 突然叫ぶ。 「嘘? 嘘って何のことだ?」 本気で困惑している彼にシンシアは迫る。 「あの時、私の気持ちに応えてくれたじゃない!」 「??? あの時? いつのことだ?」 「3日前。 …あの日、昔のことを話してくれたじゃない。」 あぁと彼はうなずいた。 しかし シンシアの気持ちに応えたつもりはない。 「何でそんな話になる?」 彼と見知らぬ女性とのやり取りを聞いていたファリアは二人の間に割って入ろうとした。 しかし彼は彼女を振り返って首を横に振る。 彼女は彼自身の問題だと解ったから、後ろでおとなしくしているつもりだった。 「何なのよ、その人!」 そんな二人を見てシンシアの怒りの矛先が彼女に移ろうとしていた。 「ちょっと綺麗だからって、あとから来て人の恋人を取るなんてどういうつもり?」 さすがに普段怒らないファリアもその言葉でむっとした。 「後からっておっしゃいますけど、私は自分が4歳の頃から彼を知っているわ。 彼とあなたの間に何があったか知りませんけど… 」 その台詞に頭に血が上ったシンシアは彼女に向かって右手を振り上げる。 しかしその手はリチャードに止められた。 「くっ…」 シンシアの手はしっかりと掴まれ、身動きできない。 睨みつけ、強く言い放つ。 「君が僕を傷つけたいのなら構わない。 けれど彼女に何かしたら君を許さない!」 彼のエメラルドグリーンの瞳は激昂に燃えていた。 シンシアは戦慄を覚える。 戦争を生き抜いてきた男の瞳はただの少女には耐えられないほど冷たい光を放っている。 その瞳に耐えられず、手を振り解いて逃げ出す。 リチャードがファリアを振り返ったときには、その瞳は優しい穏やかな光に戻っていた。 「大丈夫だった?」 「えぇ。」 彼女は彼に尋ねたいことがあったが、自分からは言い出すことはしなかった。 いつか彼自身の口から話してくれると信じて…… fin ________________________ あとがき(2004/8/22) (2005/7/4改稿) (2015/03/24 加筆改稿) うう〜ん、シンシア派の方、ごめんなさい! でも私の中ではこんな感じです。 普段おとなしい人がキレると怖いって事。 まあそれはファリア嬢にも言える事なんですが。 これのタイトルは昔好きだった某バンドの名曲。 この曲のPVでハマったんですわ。 とあるシーンにこの曲がBGMとしてはまったからタイトルになりました。 BACK BIsmark NOVEL TOP |