Freeze My Love -2- |
「自爆まであと10分」 コンピュータは冷たく残り時間を告げるだけ。 博士は自分が死んでもいいが、少女だけは助けたかった。 少女の眠っている部屋に駆け込む。 ベッドの上で眠っていた少女の肩をゆすって起こす。 「何ですか?」 少女の眼前には蒼白した博士の顔。 「ここは間もまく自爆する。君は逃げるんだ!」 「え!?」 まだ少し寝ぼけている少女を部屋から連れ出し、 コンピュータルームの緊急脱出用カプセルに押し込もうとした。 少女はやっと状況が飲み込めた。 「博士!博士はどうするんです?」 緊急脱出用カプセルは一人用。 二人は乗れない。 「私はデスキュラ人だ。君たち地球人にしてきたことを考えればこれは当然の結果だ。 ただ…君は地球人だ。ここで死ぬ必要はない!」 「は、博士…」 少女の顔に悲愴感が浮かぶ。 「君は私の理想の女性だった… 愛していたよ。 だけどここにいてはいけない。」 博士は躊躇する少女をカプセルに押し込み、発射スイッチを押した。 瞳から涙が溢れる。 「………さよなら。」 博士は異星人の少女を愛してしまった侵略者である自分を憎んでいた。 そして悲しくて切なくてどうしようもないと… 少女をただの実験体にはしたくなかったのだ。 震える拳が壁を叩いた瞬間、基地は閃光に包まれる。 秘密基地が自爆した瞬間、カモフラージュだった山肌が裂けた。 少女が入ったカプセルは爆発のショックで吹き飛ばされ基地から数キロのところに不時着。 博士の突然の告白に驚きながら、少女はこれまでの5年を思い起こしていた。 母は最初の襲撃の時に、自分を守って死んでしまった。 そしてデスキュラ人に囚われ、 母の遺体と共に実験施設に送られて、いつ殺されてもおかしくない状況。 人生を諦めた自分を守ってくれたデスキュラ人のコングラート博士。 そして博士の愛の告白。 絶望と哀しみの中でずっと生きてきた少女にとってその言葉は胸に滲みていた。 「う…うぅん」 不時着のショックで身体を打った少女は身体が軋むのを感じながら、 カプセルの中のドアの開閉ボタンを押すと外へ這い出す。 「は…博士…」 痛む身体を起こし少女は基地に向かって走り出した。 小さな森の中、木の根につまずきながら、木の枝で服が裂かれるのも構わないまま 立ち上る煙に向かって駈けて行く。 そして彼女が見たものは山肌が割け、むき出しになった基地の残骸。 崩れた基地に足を踏み入れるとまだ空気は熱い。 着ていた服の裂けた所に火薬交じりの熱気が肌を包む。 「博士ーー!」 少女は返事はないと解っていても、呼ばずにはいられなかった。 瞳から涙が溢れ、 黒く艶やかな髪がくすぶる煙の中に揺れる。 少女は行き着いた先はかつてのコンピュータルーム。 デスキュラ人は蒸発するため、遺体も残らない。 博士がいたであろう場所で少女は呆然としてしまった。 **************************** 自爆から40分後、近くの警備隊が爆発の残骸を調査しに来た。 20人ほどが来ていて、15人ほどが中の調査に入る。 「うわ、こりゃひどいな。」 基地の内壁は崩れ、そこここで煙がくすぶっていた。 「デスキュラ基地がそこらじゅうで自爆してるって話だからここもそうなんじゃないか?」 ライトを手に周辺の様子を見て回る隊員達。 隊長らしき人物がライトを振る。 「おい。俺とあと4人。奥を調べるぞ!」 「はい!」 そして更に奥を調べに入った5人が見たものは瓦礫の中に呆然と座り込む少女。 最初に気付いたのは隊長。 黒く長い髪の16,7の少女。 「おい!女の子がいるぞ!」 「え!」 瞳に生気がない。 うつろな少女の肩を揺らしてみる。 「大丈夫か?地球人か?デスキュラ人か?」 少女の瞳に光が戻った。 「あ…私…」 「君は地球人か?」 再び隊長は問いかける。 「私は地球人です… 私… デスキュラに捉まって… それで…」 「あぁ、詳しい話は今はいい。」 手足に怪我を負っている少女の様子を見て隊長は担架を持ってこさせ、 少女を乗せて、病院に運ばせた。 隊長…リョウ=キリカワは自分が発見した少女に心を奪われていた… 調査は3時間ほどで切り上げられ、キリカワは少女が搬送された軍病院に足を運ぶ。 怪我は打ち身と軽いやけどでたいしたことはなく、一時的な入院となる。 その病室にキリカワは現れた。 ドアをノックすると可憐な声で「どうぞ」と返ってきた。 「お邪魔します。」 そう言って入ったキリカワの目に飛び込んできたのはとびきりの美しい少女。 事件現場での少女は煙で汚れていたのだ。 「あ、さきほどの…」 少女がしっかりとした口調で話していることにキリカワは安心する。 「大丈夫かい?」 「はい、ありがとうございます。」 さっき事件現場で見た少女は呆然としていて生気がなかったように見えたが、今はしっかりしていた。 「君…名前は?」 キリカワは何気なく訊ねる。 「ファリア。ファリア=パーシヴァルと申します。」 「僕はリョウ=キリカワ。…良かった、元気そうで。」 会話が続かない二人だったが、キリカワが手に持ってきた花束を彼女に渡す。 「まぁ、綺麗ない花。」 嬉しそうに花束を受け取る。 5年ぶりに見た地球の花は少女にとって美しい物。 「良かった。喜んでもらえて。」 「………」 花の香りをすうと嗅ぐ。 「ありがとう、キリカワさん。」 心からの笑みをキリカワに向ける。 その時、軍の調査官がやってきた。 「失礼するよ。……君は?」 身元不明の少女の病室に何故かいるキリカワに質問する。 「はい。自分はリョウ=キリカワ。警備隊の調査隊長であります。」 はっきりと答えるキリカワに好感度を抱いた調査官。 「そうか、君はこの少女の第一発見者か。 ご苦労。 すまないがこの娘の身元を調べる必要があるのだが…」 少し歯切れが悪そうにキリカワに告げる。 「…はい。失礼します。 お大事に。」 少し名残惜しそうなキリカワに少女は微笑んで見送った。 「ありがとうございました。」 その笑顔にときめくキリカワ。 調査官は彼を追い出した形になった。 「さて。」 10分ほどの質疑応答で調査官は手にしていた小型端末で少女のデータを割り出す。 すぐに結果は出た。 ファリア=C=パーシヴァル 国籍・英国(スコットランド) 5年前のアテナU号の行方不明者 生存していれば17歳 顔写真は5年前のものだが面影はある。 そしてこの部屋に来る前に医者に貰った少女の身体的データ。 5年間で成長してはいるが、本人であることに間違いはなさそうだ。 あとは家族のDNA鑑定をしてみるかどうかだった。 そして病室を出た調査官は自分のオフィスのコンピュータ検索でもっと詳しいデータを探していて 意外な事実を知った。 同日 夕方 リチャードはシンシアを乗せて車でドライブして、彼女を孤児院に送った。 その道から見える山に昨日までなかった裂け目を見つける。 「何だろう?」 車から降りてその裂け目に近づくと警備隊がいたのでただ事でないと彼は思った。 「何かあったんですか?」 入り口に立っていた警備隊員は彼のことを知っていたので素直に返答する。 「あ、ビスマルクの… ご苦労様です。 実は今朝方、ここにあったと思われるデスキュラの秘密基地が自爆しまして。 それで調査が終了するまでここに誰も入らないよう警備してます。」 「ほお?ここでそんなことがあったんですか… そういえば秘密基地が次々と自爆していると聞きました。」 彼はまだビスマルクチームとしての情報収集を続けている。 「でもここは他の基地と少し違うみたいなんですよ。 どうやら研究施設で地下に地球人の遺体が保存されていたんです。 それに少女をひとり保護しましたし。」 研究施設と聞いて彼は無性に入りたくなる。 「へえ、珍しい物があったんですね。 ところで僕も入ってみたいんだけどダメかな?」 ふたりの警備隊員はその申し出に戸惑うが、 彼を知っている隊員が答える。 「いいんじゃないか。彼はビスマルクの人だし。」 相方に問いかける。 「そ、そうだな。じゃ、どうぞ。」 そうして彼は二人の警備隊員の許可を得て、かつてのデスキュラ研究施設に入る。 自分で持っていたライトの明かりで周りの様子を見渡す。 「確かに研究用の設備だな。」 ひとり呟き、奥へと進む。 爆発があまりにも激しかったのか原形を留めていないものが多い。 地下へのドアを見つけた。 調査員が調べた痕跡がある。 破損しているものもあったが、夥しい数のカプセルに収められた地球人の遺体。 彼が入りたかった理由はここにあった。 それは5年前、婚約者の少女とその家族を不幸が襲った。 初めての宇宙旅行に喜んでいた彼女。 しかし運命は残酷にも… 宇宙客船はデスキュラに襲撃され、彼女と母親の遺体は見つからず行方不明とされた。 父親と弟は運良くカプセルの中にいて浮遊しているのを軍が発見した。 『万が一、死んでいるのなら ここに遺体があるかもしれない… もし… 見つけてしまったら 僕はどうしよう… シンシアと一緒になるんだろうか?』 凍えそうになる心を抱えつつ、彼はひとつひとつカプセルの中に横たわる遺体を見ていった。 そうして彼は意外な人物の遺体を見つける。 彼女の母親・セーラ=パーシヴァル伯爵夫人。 生前と変わらず美しいままの姿で。 彼は夫人の遺体がここにあるのなら、彼女のもあるだろうと思った。 更にくまなく探すが、彼女らしき遺体はない。 『何故、此処にはいない??』 失望を抱いて彼は基地の外に出た。 『どうして? 僕の手からすり抜ける? まだ…愛してるのに…』 基地を後にした彼は何を思ったのかシンシアのいる孤児院の近くにあるクローバー畑に辿り着く。 ひとり、座り込んで嗚咽に喘ぐ… どれくらい経ったのだろう ふと彼が顔を上げるとそこにはシンシアが座っていた。 声も掛けず、ただそこにいた。 しばらくの沈黙の後、彼が口を開く。 「ありがとう、シンシア。」 自然とそんな言葉が出た。 彼は自分の気持ちを正直に話す。 それと5年前の事件を。 話を聞き終わって、シンシアは彼を優しく抱き締めた。 「可哀想に…辛かったのね」と。 リチャードはその手を暖かく感じる。 その温もりが欲しかった。 ________________________ あとがき(2004/8/22) (2005/7/4改稿) (2015/03/24 加筆改稿) ううむ、まだ続く。 終わらないよう〜(汗) これって暗い話だな。 BACK/NEXT Bismark NOVEL TOP |