Freeze My Love -1- |
長い異星人たちとの戦争もようやく終結を迎えた。 地球を侵略してきたデスキュラもほぼ壊滅。 デスキュラが強引に落とそうとしていた人工衛星ヘルペリデスの破壊に成功したビスマルクチームは 負傷しているビルの為に急いでガニメデ星に戻った。 セントラルシティの病院に収容されたビルには婚約者のジョーン=クレメンタインが付き添う。 ルヴェール博士もガニメデ星に来ていた。 ビスマルクチームを正式に解散させるためだったがビルの容態が落ち着いてからということになり、 しばらく3人はガニメデ星に滞在する事に。 進児とマリアンは連日のデートとビルのお見舞いをしていた。 リチャードもビルの見舞いに行っていたが、 それ以外のときはガニメデ星の様子を見るためにちょくちょく出掛けている。 そして懐かしい場所に辿り着く。 …あのクローバーが咲き乱れる丘。 この場所で彼はある少女に出会った。 愛馬ドナテルロから降りた彼は遠い目をして空を見上げ、 ポケットから小さなノートを出す。 ふとした時に綴る詩が彼の趣味だ。 四つ葉のクローバーをひとつ摘み、ノートに挿む。 彼は幼い頃から胸に刻まれている少女を思い出す。 少女を失ってから気付いた想い。 恋していた愛しているといってもどうしようもない。 黒髪を風になびかせ微笑む少女しか思い出せなかった― 感傷に浸っていた彼に声を掛ける人物が近づく。 「リチャード!?」 その声の主はシンシア。 少女は以前、この丘で蛇に襲われそうになったのを助けた事のある娘。 その時、彼に一目ぼれしたのだった。 そしてシンシアは彼から詩を綴ったノートを貰っている。 彼女は彼も同じ気持ちだと思って、 迎えに来てくれるのを待っていた。 だから彼を見つけたとき、嬉しくて声を掛けたのだ。 しかし、彼にはそんなつもりはなかった… 確かに出合った時、一瞬、思いを寄せたこともあったが、 むしろセンチメンタルな気分を害されて、少し不機嫌になっていた。 現実に引き戻された彼はシンシアを見て社交辞令的にぎこちない笑顔を見せた。 「久しぶりだね、シンシア。」 「えぇ。」 満面の笑みで彼の隣に座る。 「リチャード、戦争は終わったのでしょう?」 「そうだよ。安心して暮らすといい。」 顔には出さないが、不機嫌なのが言葉に出る。 「………」 少し冷たい言葉にシンシアは表情を硬くした。 「何かあったの?」 「いや、別に。」 その彼らしくないぶっきらぼうさに戸惑うシンシアだった。 「………」 会話が続かない事もあって彼はその場を離れようとした。 「じゃ、僕はこれで。」 「待って! 私を連れに来てくれたのではないの?」 意外なシンシアの言葉に彼は驚く。 まさに脳天直撃であった。 「!? 何でそんな話が出て来るんだ?」 「え! 違うの?」 「何故、そんな話になっているんだい?」 彼は何とか冷静を保とうとした。 「だって…あなたがあのノートをくれたから…」 確かにシンシアにあのノートを渡した時、気持ちがなかったわけではない。 しかしもう半年以上過ぎている。 少し考えたら解りそうな、旅の行きずりに近い恋愛感情に。 彼にしてみれば、そのお陰で大切にしていた少女の面影を再び胸に刻み込めたのだ。 「シンシア。すまないが、今の僕は…」 彼の言葉に納得しないシンシアは抱きついてきた。 突き放そうとしても、彼には出来ない。 心の底では愛している少女がいるのに。 中度半端な彼の優しさが逆に期待感を持たせてしまう結果を招くことになる。 とりあえずシンシアを孤児院に送り届けて、彼は宿舎に帰る。 心にもないことを言ってしまい、自己嫌悪に陥っていた。 自分の部屋のベッドに身を沈め、 今日のことは忘れて眠りにつきたかった。 次の日 彼は進児とマリアンに起こされる。 「めっずらしいよな。リチャードが寝坊だなんて。」 「そうよねぇ。」 3人が泊まっているのはガニメデ星連邦軍の基地の宿舎。 いつも揃ってビルの見舞いに行く。 普段の彼ならこんなことはない。 時間をきっちり守る几帳面な男。 遅刻魔のビルにいつも小言を言っているくらい。 「何かあったのか?体調でも悪いのかよ?」 進児が心配そうに顔を覗く。 「いや、大丈夫さ。」 平静を装うリチャード。 進児とマリアンにはいつもと同じのリチャードに見える。 しかし何か口には出さないで、ひとりで悩んでいる事を進児は薄々感じていた。 彼はいつもみんなに話そうとせず物事をひとりで解決しようとする性格だという事を進児は理解している。 それが彼の優しさなのだと。 彼の性格ゆえにリチャードの過去を知る事はビルとマリアンにはなかった。 彼にも失った大切な人がいたことを― 「さ、ビルの様子を見に行くか!」 3人は同じ敷地内にある病院に行こうとする。 その時、基地の門衛が3人を呼び止めた。 「あの、面会に来ている人がいますよ。」 リチャードの目の前に現れたのはシンシア。 「「「シンシア!?」」」 3人は同時に声を上げた。 「リチャード、会いに来ちゃった。昨日はごめんなさい。」 その言葉にマリアンはピーンと来た。 「なんだ、リチャードの様子が変だと思ったのはシンシアに会ったからなのね?」 マリアンに問われて彼はどう答えるか迷った。 沈黙する彼の横でマリアンが嬉しそうにシンシアと喋り始める。 マリアンはシンシアに今日来た理由を小声で訊ねる。 頬を赤らめ嬉しそうにマリアンの耳元に囁く。 『あのね、リチャードに逢いたくて来たの。 彼と一緒にいたいの。』 『ふ〜ん、そうだったんだ。頑張ってね!』 女同士のこそこそ話はリチャードと進児には聞こえなかった。 「ねぇ、リチャード。折角こうして逢いに来てくれたんだもの。 ビルのお見舞いはいいから、何処か出掛けてきたら?」 マリアンがニコニコと微笑み提案する。 いまだ困惑していたが、とりあえずこの場から離れたったリチャードはつい、 「ああ、そうだね。」と返事してしまう。 彼は車を借りて二人で出掛ける事となっていく。 そしてその頃、事件は遠くから始まっていた。 *********************** ――同日の明け方 デスキュラのヘルペリデスが破壊されて3日目の朝。 ヘルペリデスにあったメインコンピュータが消滅したために各地にあったデスキュラ基地が自爆を始めていた。 その秘密基地の一つでは地球人を捕まえて人体実験をメインにしてきた施設。 ここの責任者であるデスキュラ科学者・コングラート博士はコンピュータの自爆装置が起動した事に気付く。 施設には何人もの地球人の遺体が保存されている。 実験失敗や事故で死んだ人たちの遺体。 その施設でただひとり、生き残っている地球人… 地球人の少女で博士のお気に入りだったため実験に使われることはなかった。 _______________________ あとがき(2004/8/21) (2005/7/4改稿) (2015/03/24 加筆改稿) 立て続けに書いてます(笑) よくもこんだけネタがあるなと思うでしょうが10年以上持ってきたお話とかあったりします。 一気に公開しすぎかな〜 あはは。。。。。 NEXT Bismark NOVEL TOP |