Detour −2−







ローレン卿に言われた言葉が耳から離れないリチャードはその夜、久々のパーティに出席した。



ロックウェル伯爵家のパーティには国中の貴族が集まっている。

当主マックス=A=ロックウェル伯爵の誕生日パーティであったため
王室からは代表として皇太子・フィリップが出席していた。


亜麻色の髪に凛々しい顔つきの青年…それがこの英国の皇太子。

ファリアの従兄に当たる人物。



「よお!久しぶりだなリチャード。」

皇太子フィリップは気さくに声を掛けた。

グラス片手に彼に近づく。

「ご無沙汰しています。殿下。」

「あぁ、そんな堅苦しいのは止めてくれ、リチャード。」

「し…しかし。」

「俺よりもお前のほうがこの国の英雄だよな?」

取り巻きの青年貴族に問いかける。

「そうですとも。殿下。」

しかしその目は完全な同意を示していなかった。

「…。」

リチャードは何も言えなかった。



「俺の従妹姫より孤児院の娘と結婚だなんて俺には出来ないね。」

皮肉めいた口調でフィリップは笑いながら言う。

さすがのリチャードも頭にきたが相手が皇太子だと思うと耐えることにした。

「いい女なのか?」

その態度に腹を立てていることを隠したかったリチャードは無理に笑顔を作って答える。


「えぇ。」

「そうか、一度俺にも紹介してくれ、はっはっは!」


まだ若い20歳の皇太子はみんなに聞こえるよう笑う。




リチャードは怒りが爆発する前に帰ることに。





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自分のとった道が間違っていたのかとつくづく思い知らされる。

今の状況に彼は耐えられなくなってきた。


週末にシンシアの様子を見に行くと、彼女は勉強がはかどっていないらしく忙しそうにしている。
少し痩せた様に見えた。








あのパーティの日から1週間後

フィリップ皇太子は従妹のファリアを訪ねてローレン城にいた。

彼女が英国に帰ってきた直後に会った時から、皇太子は気になっている。

二人だけで話したのは久しぶりだった。



そして彼はある計画を立てていた。



その日の夕方にある人物をローレン城に呼ぶ。



午後のお茶を楽しんでいる、ファリアとフィリップのもとに客が来たと告げに来た執事。

フィリップは応接間の壁に飾られていた、サーベルを2本持ち出す。

「! フィリップ、何をなさるおつもり?」

「見ていれば解るさ。」

ウィンクして微笑む。



彼は中庭に佇んでいた。


「一体何事ですか?殿下?」

リチャードは突然、呼び出されたことに憤慨していた。

フフと笑ってフィリップはリチャードに剣を投げる。

鮮やかに受けるリチャード。

「俺と一対一の勝負をしよう。」

「!? 何ですって?」

ファリアもリチャードも思わず叫ぶ。

「一体何のために…?」

彼女は疑問をぶつける。


「俺とお前のためさ、リチャード!」

「!?」

「俺が勝ったら彼女のデビューパーティのパートナーを務める。
それに俺の花嫁になってもらう!」

「何ですって?フィリップ。どういうつもり?」

「しかしお前が勝ったら、すべてお前に譲ろう。」

「そんな提案、彼が呑むわけないでしょ?解っているんですか?」

「お前のためでもあるんだ、ファリア。」

「!?」

「こいつがお前をどれだけ想っているか最終チェックだ!」


フィリップはおもむろに剣を構える。


カーン

切っ先がぶつかる。

不本意ではあったがリチャードは相手する事にした。


明らかにフィリップよりリチャードの方が実力は上。

しかし迷う彼には覇気がなかった。

「ほらほらほら!」

突いてくる刃を余裕で避ける。

しかし壁際に追いやられ、避けきれなくなった刃がリチャードの頬に血を滲ませた。

「このままじゃ、ファリアは俺の花嫁だ!」



その瞬間、リチャードから迷いがなくなる。

他の男の物になるなど考えた事はなかった。


リチャードの刃がフィリップの剣を絡めとる。

サーベルが吹っ飛ぶ。

「くっ!」



くるくると空に舞い、緑の中に刺さる。

「フィリップ!」

座り込んだフィリップに駆け寄るファリア。

「大丈夫?」

「俺は大丈夫だ。… ファリア、お前が行く相手は俺じゃない。 あっちだ。
じゃ…な。」

不敵な笑みを浮かべて皇太子フィリップは中庭から立ち去った。



残された二人は見詰め合う。


リチャードはおもむろにひざまづき、彼女に許しを乞う。


「すまない…僕がふがいないばかりに…

僕が間違っていた。

君を諦めるなんて…やっぱり、僕には出来ない。」

ファリアはそんな彼を涙目で見つめる。

「お願い、立って。…あなたがそんなことする必要なんてないの。

あなたはあの方と結婚するんでしょう?」

「いいや、あの娘には… ランスロット公爵家の女当主は務まらない。」

「え…? 」

「生まれた世界が違いすぎるんだ。やっと解った。 …やっぱり僕には君しかいない。」

リチャードは立ち上がり、彼女の瞳をじっと見つめる。


生まれながらの気品。
教養の深さ。


それに努力だけで得られない血筋が彼女にはある。


「リチャード、それじゃ あのひとのことはどうするおつもり?
愛人だなんて冗談は笑えなくてよ。」


「そんなつもりはないさ。 近々、結果を出す。
それまで、待ってくれるかい?」


真剣な眼差しの彼に向かってうなずく。



「…殿下には感謝しなきゃならないようだ。」


「…そうね。」


「それじゃ今日はこれで失礼するよ。」

「えぇ。…ありがとう、リチャード。 」


リチャードは少し名残惜しそうに帰っていった。


その一部始終を塔の窓から見ていたのはローレン卿その人だった。









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あとがき(2004/8/22)

終わるはずがまだまだ書いていますよ〜。。。

ほほほほほ。

ちょっと(?)シリアスな雰囲気になってますね。。


ちなみにコラボル大佐>中田譲治氏に続き
英国皇太子・フィリップの声のイメージは草尾 毅。
何だかな〜(笑)



(2015/03/24 加筆改稿)



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