Detour −3−






リチャードはやっと決心がついた。

最初は彼女に押し切られた形にしろ英国に連れてきたのは自分。

責任を感じていた。


けれど自分の本心に気付いた今、彼女との結末を迎える必要があった。




自分の気持ちに気付いた翌日

彼はシンシアのもとを訪ねた。


相変わらず忙しそうに行儀作法や歴史を勉強中。

しかし指導している親戚の叔母に止める様に言う。

シンシアの様子が連れてきた時と違っていることもあった。



「大丈夫かい?」

疲労感を拭う事が出来ないシンシアに優しく声を掛ける。


「…ごめんなさい。」

「どうした?」


「私…頑張ってみたけど…  無理かもしれない。」

「え…?」

「勉強してわかったの。 私、あなたにふさわしくないわ。」

「何で。そう思う?」

「私みたいな孤児院出身が… 身分をわきまえずに…」

「そんな事はないよ。 」

笑顔でリチャードはシンシアの頭を撫でる。


「私、貴婦人にはなれない。 頭、悪いもの…」

どう答えていいか彼にはわからなかった。

「リチャード。私、あなたを好きでよかったと思うけど… 貴族の生活には向いていないわ。」

「……。」

「だからあなたにふさわしい貴婦人を選んでちょうだい。」

「シンシア…!」

震える声で彼女は言う。

「…聞いたの。 あなたに婚約者がいたって話。」

「!」

「私なんかとは違う、生まれながらの上流貴族の方なんですってね?
その人がいなくなったから…  そうなんでしょ?」

「……」


「私、ガニメデ星に帰ります。
…あなたに迷惑を掛けたくないから。」

「シンシア…     すまない。」


「いいのよ、リチャード。」

彼女はにっこりと笑う。

「私がいくら頑張っても  血筋はどうすることも出来ない。
…私、荷物をまとめて出ます。」

「解った。君が辛いというならそのほうがいい。」


リチャードは懐から封筒を差し出し、シンシアに渡す。


中身はお金だった。


「君を嫌いになったわけではない。けれど君がいる場所はここではないと僕も感じていた。
帰るのなら…これを使ってくれ。」

シンシアは両手でそれを受け取る。

「ありがとう。ありがたくいただきます。」


「いつ、帰るつもりだい?」

「え?」

「空港まで送るよ。」


「…明日にでも。」


「わかった。それじゃチケットの手配は僕がしておくよ。」


「ありがとう、リチャード。…今度の事は私の勉強になったわ。」
   …それぞれの世界があるということが良くわかった。」


「…そうか。   叔母には僕から説明しておく。
君はもう何も悩まなくていい。」


「手間を掛けさせてごめんなさい。」

「いいよ、君が気にすることではない。ここに連れてきた僕にも責任がある。」


「…。」

シンシアは瞳を閉じて、静かに泣いていた。








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翌日

シンシアはリチャードの車でヒースロー空港へと向かった。

ガニメデ星までのチケットは彼の手から貰う。


「色々とありがとう。リチャード。
…お世話になったわ。」


「僕のほうこそすまなかったね。 辛い思いをさせたようで。」


シンシアは解っていた。
彼の気持ちが自分にないことを。

だから自分から去ることを選んだ。


「ありがとう。そして… さよなら。」


シンシアは小さな荷物を手に搭乗口へと向かう。


来た時と反対の気持ちで彼女は飛行機に乗り込む。


小さな窓から遠くなる英国の地に向かって言う。


「…さよなら。」









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シンシアが去ったその日


ローレン卿は貴族議会の帰りに宮殿に寄っていた。



卿は皇太子・フィリップに面会を申し出る。


皇太子は突然の卿の来訪に驚いていた。



「何用ですかな?ローレン卿。」

フィリップが応接間に現れて、いきなりそんな言葉をかける。

「いや、この度は礼とお詫びを言いに参りました。」

「何のことだ?」

しらを切るフィリップに卿は告げる。

「殿下の従妹で、私の孫娘のファリアの事です。」


「ますますわからんぞ。」

「あなた様は… パーシヴァル家とランスロット家をお救いになられました。。」

「…」


「あなた様はわざわざリチャード=ランスロットに決闘を申し込まれた。
あの勝負で彼は解った。

自分の気持ちとその立場を。」


「…」


「ですから、あなた様に感謝を示したいのです。
私の孫娘とランスロット公爵家を救った皇太子殿下に。」


「私は …ファリアの悲しい顔を見たくないだけだ。
それにあの勝負、本当に私が勝てば花嫁にしようとまで考えていたんだぞ。」

「殿下…」


フィリップの言葉が切なく響く。

卿はこの時、彼もまた孫娘を愛していたことに気付く。

深々と頭を下げる。


「…ありがとうございました。」


去ろうとするローレン卿に向かってフィリップは告げる。


「あぁ、ファリアのデビューパーティだがな、私も招待しろよ!」


「勿論でございますとも、殿下。」



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フィリップは物心ついた時から、従妹が好きだった。

しかし、母親同士が姉妹だから結婚は無理と諭されてきた。

それに彼女にはリチャードという少年が既に傍にいた。


解っていても恋という感情は止められなかった。


そしてあの事件。


死んでしまったと諦めていたのに彼女は奇跡的に帰ってきた。

5年半ぶりに会った彼女は聡明で美しい乙女に成長して自分の前に現れた。

しかし彼女が…まだ彼を好きでいたことに気付く。

どうあっても自分のものにならないならせめて、幸せになってもらいたい。

自分以上に立派な男のところへ嫁いで貰いたいと。

リチャードはそういった意味でも任せられる男だと思っていたのに、
違う女と結婚しようとしていることに腹が立った。


だからあの決闘を仕掛けた。


どういう結果になっても…










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あとがき(2004/8/23)

今回は二人の周りの人たちが目立ってます。

ローレン卿とフィリップ皇太子とシンシア。

それぞれの思いがあるから二人は幸せになれる。

まあ、こんなこともあるかもと。


ちなみにローレン卿の声のイメージは渡部猛。
声優さんシリーズ化??



(2015/03/24 加筆改稿)

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