Cherish     -5-




ビスマルクチームからの連絡で連邦軍が支援のために艦をよこすことになった。

3博士は迎えが来るまでの時間も惜しんでカリオナ人のテクノロジーを学んでいる。


さきほど神殿前で見た乙女が地球人とは気付かなかった3人だった。
進児、ビル、リチャードはその姫の神々しさから地球人ではないと感じたからだ。
とりあえず地球人だという確認を取るために姫に合わせてもらうはずだったのだが、
居場所がわからないという返事に困った3人は星の中を探すことに。


リチャードはこの星の地表に生える緑を不思議に思っていたので、
外を探すことにする。

地表一面の緑はクローバーみたいな植物で、小さな花を付けていた。
ガニメデに咲くクローバーに似ている。
全て四つ葉なのである。

この星のほとんどの施設は地下に。
地表にあるのは神殿と泉だということだった。



リチャードがしばらく歩くと歌声が聞こえた。
何処か懐かしい響きの歌。
声のするほうへと向かう。

向かった先には泉があった。
その横に長い黒髪の乙女が座って、花を摘んでいた。

乙女の歌声を間近に聞いたリチャードは聞き覚えのある歌とその声に驚く。






誰かが来た気配に気付いた姫は振り向かす、声を掛ける。


「プラナ?  …ひとりにしておいてと言ったはずでしょう?」


その声に彼は確信した。

まっすぐに乙女に向かって歩く。

あと3歩まで近づいたとき、乙女は去らないプラナに振り返った。
するとそこにはプラナではない、黒い鎧に身を固めた見知らぬ青年が立っていた。



立ち尽くすリチャード。
振り向いた乙女は白い肌に黒髪が映える美しい姫だった。

驚く姫は息が止まる思いだった。

見詰め合うふたり。

ようやく口を開いたのは姫。

「あなたは…誰?」




リチャードは思いがけず美しく成長していた彼女に驚きながらも答える。

「僕だよ。…ファリア。」

その懐かしい優しく呼ばれるアクセントに気付く。

青年の顔をじっと見つめる。

最後に逢った時より、凛々しく逞しく成長しているがその瞳の優しさは変わらない。

「…リチャード…?」

少し訝しげにそっと呟く。

「そうだよ。僕だ。リチャードだよ。…ファリア。」

再びそう呼ばれた時、乙女は青年の胸に飛び込んでいた。






お互いを抱きしめる腕が優しくその存在を確かめる。
ふたりは言葉に出さないが相手の想いを感じていた。

優しくそっとくちづける。

幼かった頃と変わらない暖かさに安心した二人だった。






「僕は…君をずっと探していたんだ。」

「え…?!」

「君があの日、死んだなんて信じなかった…
信じたくなかった。
今日、こうして君に再び会えたのも僕と君の絆だと信じたい。」

「…リチャード…」



深い湖色の瞳が潤む。

彼は彼女の手を握り締める。

「僕と一緒に地球に帰って欲しい。」

彼にそう言われたファリアは先ほどのプラナの言葉を思い出す。



「だからこそ…だからこそ、あなたには地球に帰っていただきたいのです!
一人の女性として幸せになっていただきたいのです!」




その言葉の意味がやっと解ったファリアはリチャードの手を握り返した。

「はい。」



リチャードの想いとプラナの思い。

そして自分の恋心に素直になる。

この5年半、彼を忘れた日はなかった。








**************


この”幽閉の星”デロスにたどり着いて5年半。
カリオナ人たちに大切にされた地球の少女はその美しさから彼らの守護女神の化身とされ
皆から愛され敬われていた。

しかし姫には誰にも言えない悲しい想いがあった。
事故のときに失った両親と弟。
そして恋しかった幼い許婚。

恋しくて幾夜も隠れて泣いていた。




雨の匂いや風の香り。
曇天の雲。
晴れた青空。
燃えるような夕日。
何もかもが恋しかった。




幼い恋人を想わない日はなかった。
柔らかな金髪の深い緑の優しい瞳の少年。
たった一度重ねたくちびる。
あの丘の大切な思い出。

ひとりになると思い出して、切なくて涙が溢れた。




その恋しかった彼が今、目の前にいる。
凛々しい青年となって。
そのくちびるで愛を囁く。

恋しくて切なかった想いは行き場を見つけてしまった…




**************


リチャードとその乙女が一緒にいることに気付いた進児はビルを連れて
先にマリアンが待つ部屋へと戻った。

「あら、進児君、ビル。「姫」って人を見つけられなかったの?」

進児がマリアンに答える。

「あぁ。」

「おい、進児!何言ってるんだよ!」

進児の顔を見てビルは激しく突っ込みを入れる。
その様子を見てマリアンは訝しく思う。

「…何かあったの?」

「それがさ…」

言い出そうとするビルを進児は制止した。

「何でだよ!」

進児はビルに向かって言う。

「リチャードが話してくれるまで、詮索するのは止そう。」

何かを知っているような口ぶりの進児をマリアンとビルは見つめる。
沈黙を破ったのはマリアン。

「進児君。何か知っているのなら話して!」

黙秘する進児にビルは詰め寄る。
二人の視線が痛くなった進児は逃げ出そうかと思った矢先、リチャードが彼女を連れて戻ってきた。

「「「リチャード!!!」」」

3人が彼に詰め寄る。

「な…なんだよ!!」





姫の淹れた紅茶を飲みながら、リチャードは3人に事情を話した。

6年ほど前に婚約した相手がいたこと。
相手は野少女は今で言う「アテナ2号事件」の行方不明者で今日まで行方不明だったこと。
そして今も彼女を好きなことを話した。

終始あてられっぱなしだった3人は呆れるしかなかった。

最後にはビルに「へーへーご馳走さん」とまで言わしめたほどであった。




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(2005/1/2)
(2015/03/27 加筆改稿)



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