Cherish -4- |
姫は半分錯乱状態だったので、医師が薬で眠らせて医務室へと運んでいった。
キャルスはそのまま神殿に運び込まれ祭壇に安置された。
そして長老はビルマルクチームのメンバーを英雄として迎え入れる。
長老は彼らがここへ来た経緯を聞いた。
キャルスとの出会いとパラス星の研究者拉致事件のことを。
長老は4人から話を聞いた後、3博士を帰すと約束。
元々ペリオスが勝手に誘拐してきたのだ。
長老の前で3博士はビスマルクチームに引き渡される。
その中のひとり、パーシヴァル博士はリチャードに声をかけた。
「やぁ。久しぶりだね、5年ぶりかな?」
その声の主の顔を見て彼は驚く。
「! アラン=パーシヴァル?
アランおじさんじゃないですか? ご無沙汰してます。」
「あ?リチャード、知り合いか?」
ビルがリチャードの顔を覗き込む。
「あぁ。」
パーシヴァル博士はリチャードの手を握り、感謝を示す。
「ありがとう。ビスマルクチームの諸君。そしてリチャード。
君たちの活躍に感謝する。」
4人は照れ臭そうにしていた。
「しかしリチャード。私は是非この星に残ってみたい。」
パーシヴァル博士と二人の博士は意外なことを申し出た。
その言葉に目を丸くする4人。
「何故です?」
問いかける進児。
「この星は地球よりはるかに優れたテクノロジーをもったカリオナ人という異星人がいる。」
「そのお話は聞きましたが…」
進児が言葉に詰まる。
「そのカリオナ人の科学力には目を見張るものがある。
我々にとっては100年200年先の科学だよ?
それがここでは研究されているんだ!」
ペッツオ博士が嬉々として言う。
今まで黙っていたカリオナ人の長老が静かに話す。
「あなた方は一度、地球にお帰りになったほうがよろしい。
これから先に地球連邦と話し合い、折り合いがついたら来られるがいい。」
「そんな…」
ペッツオ博士達は残念そうだった。
「戦争が終わり、その時代が来るのは近いはず。そうではないかね?」
ビスマルクチームの4人の顔を見て長老は言う。
その長老の願いがかなうことを願わずにはいられなかった。
「さて、あなた方が帰られる前にお願いしたいことがある。」
長老は人工庭園の緑の中でお茶を彼らに勧めながら言う。
「何です?」
進児が問いかける。
「この星には地球人の方の遺体が安置されている。
その方々を連れて帰っていただきたい。」
「なんだって?」
一同は叫んだ。
「戦争が終わってからでもいいかと思ったのだが、やはりひとときでも早く故郷の星に返してあげたくてな。」
長老は瞳を付してそう言う。
「どれくらいの人数なのです?」
ペッツオ博士が尋ねる。
「そうさな…36人いたはずじゃ。」
「そんなに…?」
マリアンが呟く。
「そうそう、唯一の生存者も連れて帰っていただこうかの。」
「唯一の生存者?」
7人が声をそろえて言う。
「あぁ、ビスマルクチームの方々はもう会ったはずじゃが?」
「え?」
4人が顔をあわせる。
「そんな人いたか?」
ビルが進児に問いかける。
「さあ…?」
リチャードとマリアンも同様だ。
「お分かりにならないか?」
長老の問いかけに答えられない4人だった。
「あなた方が先ほど会った「姫様」じゃよ。」
3人はほぼ同時に叫んだ。
「何だって?!」
医務室で眠らされていた姫が目を覚ますと看護をしてくれていた少女が声をかけた。
「姫様。大丈夫ですか?」
少し頭が痛む。
額に手を当て、瞳を閉じる。
目の前でキャロスが死んだことを思い出す。
「そうだったわ …キャロスが… 」
思い出すだけで涙が溢れる。
その様子に気付いた少女 …エリンはそっと姫の傍に近づく。
「姫様。今こうしていられるのもキャロスのおかげなんです。
落ち込まないでください。
そんなに哀しんでばかりではキャロスも浮かばれませんよ?
大いなる母のルーカーナ様の元にいけませんよ。」
優しくそっと姫を抱きしめエリンは瞳を閉じる。
「…姫様。きっとキャロスも本望だったはずです。
あなたを守りたいとずっと言っていましたから…」
エリンのぬくもりが姫に沁み渡る。
瞳の奥の笑っているキャロスを想い、「ありがとう」と強く瞳を閉じた。
冷静を取り戻した姫はベッドから降りて、医務室を出た。
まっすぐに神殿に向かう。
神殿の前には血痕は残っていなかった。
中に入り、祭壇に眠るように横たわるキャロスの髪に触れる。
柔らかいダークブラウンの髪はまだ艶やかだ。
じっとその顔を見つめ、姫は呟く。
「ありがとう、キャロス。私を守ってくれて…」
跪き、静かにキャロスの冥福を大いなる女神ルーカーナに祈る。
宇宙の創造神とされるルーカーナに姫は願う。
キャロスが平和な星に生まれ変われるように。
姫は静かな気持ちで神殿奥の禊の間に入っていく。
水音だけが室内に響く。
清らかな水に身を浸し、姫は静かに祈りを捧げる。
いつもはこの星に住まう皆のために祈るがこのときはキャロスのために祈った。
姫が禊の間から出るとお婆のプラナが立っていた。
「姫様。”時”が来たようです。」
プラナは悲しみを隠しながら告げる。
その真意に気付いた姫は心臓が止まりそうになる。
「! まさか、私に…」
「えぇ、お帰りになるときが来たのです。」
「い…嫌よ。私、帰らないわ!皆がいるもの。」
「しかし、あなた様には帰れる星があるのですよ?」
「いいえ、私には帰ったって家族はいない!…帰りたくない!」
濡れた髪から雫が落ちる。
瞳からは涙が溢れた。
「私の命はキャルスに救われた。
私は彼のためにもここにいたいの!!」
叫ぶ姫に向かって冷静にプラナは告げる。
「だからこそ…だからこそ、あなたには地球に帰っていただきたいのです!
一人の女性として幸せになっていただきたいのです!」
プラナはまだ濡れそぼったままの姫を抱きしめる。
濡れた薄絹が体に纏いつき、美しいボディラインが浮かぶ。
冷えそうになる身体がプラナの思いで暖かくなっていく気がした。
その言葉を払拭するように姫はプラナに告げる。
「お下がりなさい!」
「ひ …姫様…。 わかりました。」
神殿に仕える少女達が姫の着替えを持って来て、着替えを手伝う。
白いプラチナ繊維のドレスが姫のいつものドレスだった。
「ひとりにしておいて!」
それだけ言うと姫は一人で星に広がる草原に駆けていく。
今日は色々ありすぎて頭の中がぐちゃぐちゃだった姫は緑の中で花を摘み、懐かしい歌を口ずさむ。
色々な感情が想いが胸を締め付ける。
涙を流していても、そうさせる感情がどれなのかわからなかった。
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(2005/1/2)
(2015/03/27 加筆改稿)
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