Cherish -3- |
研究室のコンピュータをインテリジェンスシステムに繋ぎ、その発信地点を割り出すことに成功。
木星方面であることは確かだったが、それ以上は宇宙に出ないと探索出来ない様であった。
4人がとにかく宇宙に出ようと決断したところに傷が癒えたキャルスがやってきた。
リチャードのインテリジェンスシステムのモニターに映し出されるデータに見覚えがあった少年。
覗き込む少年にリチャードは問いかける。
「どうかしたか?」
じっと紅い点滅を見つめながら少年は言った。
「ここ… 僕の、僕たちの星だ…」
「なんだって?!」
進児たちが叫ぶ。
「僕をこの星に連れて行って!!」
哀願するキャルス。
ビルがそんな少年に言う。
「連れて行ってやるさ。だから安心しな。」
木星のアステロイドベルトに向かうビスマルクマシンの中でキャルスはその星のことを4人に話す。
「僕がいた星はデスキュラたちに”幽閉の星”と呼ばれていたんだ。」
「「「「幽閉の星?!」」」」
4人が同時に声を上げる。
うなずくキャルス。
「それは…昔、デスキュラ人たちが殖民星としたカリオナ星の人たち。
つまり僕たちが閉じ込められているんだ。
…デスキュラ人に絶対服従をさせられているから…
武器なんかを造らされているんだ…」
「なんだって?!」
ビルが叫ぶ。
「そして僕や僕の仲間が生まれ育った星。
あそこには僕と同じ仲間がいるんだ。」
「仲間?」
リチャードが訝しく問う。
「そう、僕の仲間。
…僕は純粋なデスキュラ人じゃない。
母親はカリオナ人なんだ。」
その言葉に驚く。
ただでさえカリオナという新たな異星人の存在に驚かされているのに、
さらにそのハーフだということを告白したキャルスに。
「じゃ、仲間って…」
進児の言葉に答える。
「僕みたいなハーフの子供。…異端者さ。
デスキュラ人よりも長い寿命と高度な頭脳を持っているから…
僕たちはやつらから見れば異端者ということ。」
驚愕の言葉に息を飲む。
「だから君の血は赤紫だったのか…?」
リチャードは少年の言葉に驚きながらも納得した。
彼は言葉を続ける。
「君が言っていた「姫様」って一体?」
「姫様のこと? …僕の大切な方さ。
ううん。僕だけじゃない。
あの星にいる人たちはみんな、姫様が大好きなんだ。
僕たちの指導者でもある方なんだ。」
嬉しそうに語る少年に4人は微笑む。
「僕はまだ12歳だけど、いつか姫様のお傍でお仕えするのが夢なんだ。」
キラキラとした笑顔で語る少年の顔で、4人は本当にその星へ帰れることが嬉しいのだとわかったのだった。
その少し前。
パラス星から連れ出された博士たちは”幽閉の星”に連れて来られた。
3博士はその星でここにいる科学者たちと協力して、ビスマルクを倒すメカを造れと命令された。
デスキュラたちはそのために地球人の科学者を拉致したのだった。
宇宙物理工学の権威・ペッツオ博士。
その片腕のパーシヴァル博士。
宇宙生物学の加藤博士。
この3博士に目を付けたデスキュラたちは彼らを誘拐したのだった。
ペリオスはビスマルクを追尾させていた部下からの報告で彼らが”幽閉の星”に向かっていることに気付いた。
本隊からも兵を差し向け、さらに自らも向かう。
ペリオスが星につくと兵たちによって制圧されていた。
闘争心のないカリオナ人たちはおとなしく彼らにされるがままだった。
唯一の抵抗は「姫」と神殿に仕える者たちが立て篭もったことぐらいだった。
ビルマルクチームが”幽閉の星”ことデロス星についた頃にはデスキュラ兵が待ち構えている。
ペリオスは前々から姫が気に入らない。
カリオナ人の癖にいちいち逆らう彼女が気に食わない。
ただカリオナ人には珍しい美しい黒髪の持ち主で、その美しさはペリオスも認めざるを得なかった。
いつか屈服させてやりたいと願っている。
神殿の扉は特殊な合金で出来ていて普通の火器では破壊できない。
そこに立て篭もっている姫を引きずり出したいペリオスはビスマルクチームとともにやってくるだろう義弟を待っていた。
案の定、ビスマルクチームは星の中に突入してきた。
キャルスがその先頭にいた。
「姫様ーーーーーー!!」
プロテクトギアの3人よりも速く駆けるキャルス。
施設のはずれにある緑の中の神殿を目指す。
神殿の前でペリオスは待っていた。
「ふっ。やっと来たか。」
嬉しそうに微笑む。
「姫様たちをどうするつもりだ!兄上!」
キャルスを一瞥し吐き捨てるように言う。
「前にも言ったがお前なんざ俺の弟じゃない!!!」
銃光がキャルスの足元を掠める。
「次は殺す!」
ペリオスが叫ぶと同時に神殿の扉が開く。
中から黒髪の乙女が現れる。
「お止めなさい!ペリオス!目的は私でしょう?」
彼女の後ろで扉は再び閉じられる。
重厚な扉の鈍い光は彼女の美貌を引き立てていた。一層神々しく見える。
「あなたはまだわからないの?」
同情するような瞳で見つめる。
「ふん。なんのことだ?
俺はお前が手に入れば こんな星は破壊してしまえばいいとさえ思っているんだぞ。」
「な…なんてことを!」
銃を乱射させるペリオス。
そこへやっと追いついたビスマルクチーム。
「ペリオス!貴様!」
ビルがやつに戦いを挑む。
「…ビスマルクチーム。 やっときたか!」
うす笑いを浮かべ部下にも攻撃をさせる。
応戦する3人。
神殿前は混戦状態。
そんな中、ペリオスは姫を狙って動く。
敵味方をすり抜け姫の腕を掴む。
しかし彼女を守っていたキャルスに阻まれる。
武器はナイフしか持たないキャルスは無謀にも義兄ペリオスに向かっていく。
掴んだ姫の腕を離さないペリオスは飛び掛ってきたキャルスに銃を向ける。
「だめぇ!」
銃光は姫の体当たりでキャルスからそれる。
「貴様!」
ペリオスは怒りのあまり、姫にまで銃口を突きつける。
「姫様!」
「キャルス、来てはダメ!」
姫が叫ぶと同時にペリオスは銃をキャルスに向けていた。
放たれた銃光に射抜かれ倒れる少年の体。
ワイン色の鮮血が飛沫となって飛ぶ。
「いやぁああああああっ!」
姫の絶叫が回りに響く。
その声が耳に届いた3人はこみ上げる怒りを抑えられなかった。
手勢の半分以上を失ったペリオスは3人の隙をついてデロス星から脱出。
赤紫の血を流し倒れるキャルスを抱く姫の白いドレスはワイン色に染まっていた。
「キャルス!死んではダメ!」
震える手で少年は姫の手を握る。
「よかった… こんな僕でも姫様を守れたんだ。
…これで僕の罪も贖えますか?」
「何を言っているの?」
キャルスの言葉の意味のわからない姫は戸惑う。
「僕は… 恩ある人を殺そうとしました…
兄様に命令されたとはいえ、僕の…罪。
ごめんなさい、姫様。」
キャルスの手を優しく握る。
「いいの、いいのよ。」
溢れる涙でキャルスには姫がはっきり見えなくなっていた。
声だけが優しく響く。
「ごめんなさい、姫様。ごめんなさい…」
謝り続けるキャルスの声が消え入る。
姫の手からぱたと手がすり落ちる。
「キャルス?」
姫がそっと呼びかける。
後ろの神殿の扉が開く。
そこには長い顎鬚の長老と周りに立っている子供たちが滂沱していた。
「キャルスーーーーー!」
泣き叫ぶ姫を誰にも止めることは出来なかった。
ビルマルクチームの3人も見つめることしか出来なかった。
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(2005/1/2)
(2015/03/27 加筆改稿)
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