Cherish -2- |
夜の公園のブランコに揺られてキャルスはデロス星が恋しくなった。
優しい姫様、異端児の仲間、厳しいけれど本当はやさしい先生や長老。
夜空を見上げる少年の瞳には満天の星空が広がっている。
「帰りたいよ…」
呟くキャルスの前にマリアンがやってきた。
黙ったまま近づいてくる。
「マリアン…」
「どうしてこんなところにいるの?」
マリアンは優しい微笑でキャルスに問いかける。
「だって僕…」
押し黙る少年をマリアンは抱きしめる。
突然の出来事に驚く。
「なんで?僕なんかを…?」
「理由なんてないわ。
ただ、君のような子供が戦争の一番の被害者なのだもの。
…早く戦争が終わって欲しい…」
マリアンにそういわれてキャルスは切なくなった。
姫様と同じ温かい胸に抱かれて。
抱きしめてくれるマリアンに泣きつきたくなる。
そこへ進児が走ってきた。
「マリアン〜、見つけたのなら連絡くれよ。」
「ごめんね、進児君。さ、いこ。」
マリアンは少年の手を引いて公園を後にした。
−翌朝
キャルスは4人の仕事場であるビスマルクマシンに連れて来られた。
そのマシンのシステムに驚く。
「うわ〜、凄い!」
「おい、坊主。ビスマルクって聞いたことあるか?」
ビルが喜んでいる少年に聞く。
「うん、知ってるよ。でも僕は坊主じゃない!キャルスだ!」
「あぁ、すまん。昨日もそう言ってたな。」
ビスマルクマシンを一通り見た後、少年はトイレに行きたいと言い出した。
場所を聞いて少年は走る。
用を足したあと、ダイニングに4人が集まっているのを確認した後、すぐには戻らず
ビスマルクのエンジンルームにペリオスに渡された爆発物を仕掛けようとする。
しかし少年は躊躇う。
昨日と今日、あんなに優しくしてくれたマリアンと仲間たちを苦しめることをすることに。
自分が手にしている爆発物を見つめると、そこに姫様の悲しむ顔が見えたような気がした。
キャルスが戻ってくるのが遅いと感じたリチャードは様子を見に行く。
しかし、いるべきところに姿がない。
インテリジェンスシステムのコンソールを叩き、居場所を探す。
「エンジンルーム?迷い込んだのか?」
彼は迎えに行く。
キャルスの姿を見つけたとき彼は驚く。
手には爆発物らしきものを持っていたからだ。
「何をしている?!」
リチャードが叫ぶとキャルスは慌てて逃げ出した。
普通ではない速さと力にリチャードは弾き飛ばされる。
「くっ!!」
急いで身を起こし、進児たちに知らせる。
「大変だ!あの少年はデスキュラだ!」
「なんだって?!」
マリアンは信じられなかった。
3人はプロテクトギアに身を包み、少年を追いかける。
キャルスは爆発物を手にしたまま、逃げ惑う。
彼の目の前に義兄ペリオスが立ちはだかる。
「何処まで役立たずなんだ、貴様。」
鬼神の如き形相のペリオスの表情に凍りつく。
「兄様…」
「お前に兄などと言われたくはない。
しかし半分とはいえ血がつながっているのは事実。
ならば… せめて私の手で殺してやろう!」
「兄様!」
そこへ進児、ビル、リチャードが追いつく。
固まる義弟にペリオスは叫ぶ。
「弟とは言っても所詮は妾の子。私には関係ない!!!」
ペリオスの言葉になんとなく二人の関係がわかった3人だった。
銃口がキャロスに向けられ、光弾が少年の体を射抜く。
「ペリオス!」
ビルが叫びながらペリオスに向かってゆく。
「無抵抗の子供に!」
進児もビルに続く。
「あのガキは私にとって足手まといに過ぎん!」
進児とビルはペリオスを追い詰める。
形勢が不利と判断したやつはその場を去った。
ビルが追いかけようとしたが進児に止められる。
赤紫の血を流し倒れているキャルスをリチャードが抱き起こす。
地球人かしたデスキュラ人は普通、蒸発する。
しかしそうはならず、デスキュラの緑の血でないことに気付いたリチャードは不思議に思った。
息も絶え絶えのキャルスは涙を流しながら彼らに謝る。
「ごめんなさい…。仲間を…姫様を殺すと脅されて…
あんなに姫様に…言われたのに…」
リチャードが応急処置を施し、
とりあえずビスマルクマシンに運ぶ。
病院に運ばなかったのは、デスキュラ人でも地球人でもない赤紫の血を見たからだった。
一命を取り留めたキャルスはひとり咽び泣く。
「姫様の…みんなのところへ…帰りたい…」
キャルスがシャツの中に忍ばせていたペンダントのスイッチを押すと
その上にホログラフが浮かぶ。
白いロングドレスの黒髪の乙女が浮かび上がる。
キャルスをビスマルクマシンに運び込んだ直後、緊急救難信号をキャッチした。
マリアンが救難信号の発信地を突き止める。
ここから南へ約100キロ先にある宇宙科学研究所からだった。
緊急事態なのでキャルスを降ろすことなく大至急で現地に向かう。
パラス星宇宙科学研究所
「大変です!デスキュラが攻めてきました!」
研究所のレーダー監視員が所長に報告すると同時に爆発音が研究所内に響く。
所長のペッツオ博士はどうすることも出来ないまま、緊急救難信号を発した。
この研究所では様々な研究が行われていて、爆発によって誘発する恐れのある化学物質が地下に保管されていた。
とにかくそれを守るために自分の右腕でもあるパーシヴァル博士と加藤博士を第2コントロールルームへと向かわせる。
自分も向かう。
3人のコードナンバーがないと隔壁は閉まらない。
第2コントロールルームに入った途端、研究所が大きく揺れた。
3人の博士はコードナンバーを冷静に入力し、隔壁を閉じることに成功。
なんとか誘発を起こさせることは阻止できた。
しかしそこにデスキュラ兵が侵入してくる。
室内にいたオペレータに銃を向け、1発打ち込む。
血を撒き散らしながら倒れこむオペレータ。
隊長らしき兵士が3人の博士に銃口を向ける。
「さぁ、我々と来てもらおうか?」
抵抗することが無駄と解っていた3博士は黙って彼らについていくしかなかった。
しかし、パーシヴァル博士は奴らの隙をついて自らに発信機を付け、密かにコンピューターを作動させていた。
3博士を連れ出したあと、デスキュラ兵は研究所を爆破するつもりだった。
しかし突如現れたビスマルクに阻止される。
「ひどいな…」
進児、ビル、リチャード、マリアンは破壊された研究所を見つめる。
建物は半ば爆発によって倒壊しかかっていた。
マリアンをビスマルクマシンに残し、3人は研究所内に生存者がいないか見て回る。
「おおーい!誰かいないか〜?」
呼びかける声に反応はないかに見えた。
何処からかうめき声が聞こえる。
その声に気付いたのはリチャード。
「こちらから声がしたが…?」
見つけたのは崩れた壁に足を挟まれた研究員。
3人がかりで壁をどかせ、救出する。
「早く病院に連れて行こう!」
進児がそう言うが研究員は彼の腕を掴み、首を横に振る。
「私のことはいい…。 しかし、連れ去られた3博士を助けてくれ…。
手がかりはそこのコンピューターに…」
頭からも出血していた研究員はそれだけを告げて息絶えた。
リチャードがコンピュータを調べた結果、発信機が作動していることに気付いた。
「これは…」
発信機は静かに点滅を続けている。
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(2005/1/2)
(2015/03/27 加筆改稿)
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