Cherish     -1-






ここは木星の衛星カリストの近くにある秘密の衛星デロス。
このデロスにはデスキュラとにって大きな秘密が隠されている。
そのひとつはこの星に住まう人たちのこと。
ここには300人ほどの人が暮らしているが多くはカリオナ人というデスキュラ人たちが
かつて殖民星とした星の住人だったひとたち。

彼らの多くは科学者で母星のカリオナを破壊させられた時に連れ出された。

あとは神殿に仕える者が20名ほど。
それに32人の子供たち。
20名はカリオナ人の子供だがあとはデスキュラ人とのハーフだった。
唯一の例外は地球人の乙女がいること…







秘密衛星の中には武器や植物などの科学的な研究施設があるだけで、他は人が暮らしていくには十分な施設が整っている。

デスキュラ人に支配された彼らには「宇宙船」を作ることを禁じられており、
逃げ出す事は不可能。
ただ、武器を製造し、食料品を開発することを強要されていた。

そんな理由で時折、武官が出来上がったものを取りに来る。

だがこの日、デスキュラ親衛隊のペリオスは違うものを取りに来た。





子供たちの勉強部屋では科学者の一人が教師となり、教えていた。
その部屋にずかずかとペリオスが入っていく。
ひとりの少年はじっと彼を、見据えていた。

ダークブブラウンの髪の13歳くらいの少年。

「何事です?兄上。」

兄上と呼ばれたペリオスは冷徹な瞳で睨む。

「お前に兄と呼ばれる筋合いはない!」

怒鳴りつけられ脅える。

「おい!こいつを連れて行くぞ。」

ぺリオスが腕を掴んで連れて行こうとすると、開いたドアの前に『姫』が現れた。
彼女はこの星に住まうカリオナ人の女神の化身とされている乙女。

「おまちなさい!キャルスをどうするつもりです??」

湖色の美しい瞳でペリオスを見つめる姫。

「ふん!お前に話すことはない!
そこをどかないとこの部屋の子供全員を殺してでも連れて行くぞ!」

銃に手を掛け、冷たい瞳で姫を睨む。

「姫様!僕、行きます。みんなを殺されたくないから。
…兄様。だからみんなを殺すなんて言わないで!」

その言葉に苛立ちを覚えるペリオス。

「お前みたいな軟弱者に兄と呼ばれたくない!」

ぐいと折れそうに細い腕を引っ張ってペリオスは義弟キャルスをデロス星から連れ出した。














****************

ーセレス星 シティ


少年は買い物に夢中になっている壮年の男性の脇をすり抜け、
まんまとスリに成功した。

すぐにすられたことに気付いた男性は少年を追いかける。

「待て〜〜〜〜〜〜っ!」

すばっしっこい少年は逃げおおせたはずだが、逃げた先が悪かった。

目の前に4人の少年少女がいた。

後ろから追いかけてくる男性が叫ぶ。

「そいつを捕まえてくれ!スリだ!」

それを聞いたテンガロンハットをかぶった少年が向かってくる少年の首根っこを捕まえた。

「な…なにするんだ?!」

「うるへ〜。お前、スったんだろ!」

捕まえられた少年の手から財布が落ちる。

「あ、ありがとうございます。」

追いついてきた男性は肩で息をしながらテンガロンハットの少年に礼を言う。
そして犯人の少年の腕を掴む。

「さ、警備隊に連れて行くぞ!」

その様子を見ていた少女は小さな犯人が可哀想になった。

この戦争というご時勢、家族を失った子供が生きて行く術をなくしていることが少なくなかったからだ。

「ねぇ、その子を許してあげてくれませんか?」

「あ?!」

男性は素っ頓狂な声を上げる。

「ねぇ、僕。どうしてこんなことをしたの?」

少女が優しく問いかける。

「僕、…僕。もう3日食べてない。」

その言葉に男性も4人も怒る事は出来なくなった。
確かに少年は見るからにやせ細っていて、顔色が悪かった。

「…わかったよ。でも、今度こんなことやったら承知しないからな。」

男性は言うだけ言って、立ち去った。
少年にわずかのお金を渡して。

残された少年は少女にお礼を言った。

「ありがとう、お姉ちゃん。」

それだけ言うと少年は立ち去ろうとして、ふうっと倒れた。



目の前で倒れた少年を4人は自分たちの宿に連れ帰る。
少年が気付くと目の前に先ほどの少女が覗き込んでいた。

「大丈夫?」

その周りに他の3人が立っていた。

「僕…?」

「あぁ、君が目の前で倒れちゃったんだもん。びっくりしちゃった。」

金髪の美少女はにっこりと微笑みかける。

「もう大丈夫だな、坊主。」

テンガロンハットの少年が悪戯っぽい瞳で微笑む。

「坊主じゃない!キャルスって名前がある。」

坊主という言葉にむっと来た少年は強がって言う。

「君、キャルスっていうの。私はマリアン。
こっちはビルよ。あっちにいるのが進児君とリチャードよ。」

微笑みながら名乗るマリアンにキャルス少年は毒気を抜かれた。

「キャルス。君の家族の事を教えてくれないか?」

進児がストレートに質問する。

「僕の両親はデスキュラに…殺された!」

叫ぶ声には悲しみと怒りが混ざっていた。
その答えに4人は黙ることしか出来なかった。




キャルスはベッドから降りるとすたすたとドアの方へと向かっていく。

「どこへいくの?」

マリアンが声をかける。

「行くところなんてないけど…帰る。」

「帰るって何処へ?」

「あなたたちには関係ない!」

叫ぶだけ叫んで少年は飛び出していった。








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(2005/1/2)
(2015/03/27 加筆改稿)


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