その頃―
乙女は薬で眠らされ、衣服を剥がされていた。
全裸の身体を金属の熔解液に浸される。
電気信号の伝達能力を高めるために。
しばらくすると銀色にコーティングされた美しい乙女像が引き上げられる。
「ほお。」
ぺリオスはその出来に満足していた。
美しい銀色の乙女の彫像。
「コンピュータの中に入れてしまうのはもったいない気がするが、仕方がないな。」
くっくっと小さく笑いながらぺリオスはコンピュータのコンソールキーを叩く。
大型コンピュータの本体の中心が開く。
そこには紅い十字架のようなものがあり、
更にキーを叩くと十字架は前にせり出しきた。
「娘を貼り付けろ。」
兵士は金属化した乙女の身体を十字架に貼り付けた。
ぺリオスのコンソールキーを叩く音が部屋に響く。
すると十字架の背後から鋭く尖った端子が生き物のように出てくる。
蠢く端子は容赦なく銀色の乙女の身体に突き刺さる。
「これで第1段階は終了だな。」
ぺリオスは満足そうに微笑んでいる。
「これからが本番だ。」
再びコンソールキーを叩く。
コンピュータに指令する。
「まずは警戒システムだな。」
しかし指令は拒否される。
ふたたび指令するが弾かれる。
「どういうことだ?」
「ぺリオス様!大変です!」
「どうした!?」
「信号が逆流しています。コアの方からコンピュータに侵食しています!」
「なんだと? …この娘か?」
銀色の乙女を見上げる。
「くそ!」
何とか制御しようとするが、すべての指令が弾かれる。
そこへ兵士が飛び込んでくる。
「ぺリオス様!大変です!」
「今度は何だ?!」
「ビスマルクチームがここを嗅ぎつけたようです。」
「なんだと?! …まさか、あのガキ?!」
ぺリオスは少年が生きて街に辿り着けないと解っていたから解放したのだった。
警報がけたたましく基地内に響く。
ペリオスはモニターを見る。
既にビスマルクチームは基地内に侵入していた。
「くそっ!」
悔しがっているぺリオスのもとにビスマルクチームが駆け込んできた。
「ぺリオス!」
3人は同時に叫ぶ。
「くっくっくっ… 良くここがわかったな、誉めてやろう。」
「お前と一緒にするなよ!」
ビルが叫ぶ。
リチャードは自分の目の前にあるコンピュータに驚愕した。
美しい銀の彫刻のような乙女が無粋なコンピュータに埋め込まれていた。
「な…なんてことを!」
リチャードの様子に気づいた進児とビル。
彼の目線の先にあるものに彼らも驚く。
「ひどいことを…」
いつも冷静なリチャードから激昂のオーラが立ち上がっていた。
「ぺリオス!貴様!」
リチャードがサーベルで飛び掛る。
彼の気持ちを察したビルはフォローに回る。
レイガンが頬を掠め、サーベルが腋に刺さりそうになる。
「くそっ!」
形勢が不利とわかった奴は早々に逃げ出す。
兵士もそれについて慌てて逃げ出した。
「リチャード…」
進児とビルはどう声を掛けていいかわからなかった。
コンピュータのコンソールキーを叩く。
どうにかして彼女を助けたかった。
しかしそれは救助を拒む。
『お願い… 私のことは捨て置いて下さい。』
コンピュータから声がする。
「!」
周りを見渡す3人に声は答える。
『私は… もうダメです。 ここを爆破しますから、あなた達は早く逃げて…』
その声の主がコンピュータのコアとなった乙女のものだとわかるのにそう時間はかからなかった。
「…ファリア。」
『!』
その声に驚く。
ヘルメットを脱ぎ彼は告げる。
「君の弟に… アリステアに約束した。君を連れて帰ると。」
『…あなた …リチャード』
「そうだ。だから帰ろう。」
『なおさら、帰れないわ。』
「どうして?」
『こんな身体になったのを…あなたにだけは知られたくなかった…』
自爆モードが始動する。
『あと5分で爆発します。早く… 逃げて…』
「嫌だ!」
リチャードはコンソールキーを叩く。
自爆を解除するコードを探す。
見つけ出したリチャードはコードを叩き込む。
受け入れられないコード。
進児とビルは見守るしかなかった。
『お願い… 早く…逃げて…』
彼は諦めなかった。
何度目かの入力後、コンピュータに異常な振動がかかる。
「どうしたんだ?」
進児とビルが心配そうに声を掛ける。
「どうやら誤作動を起こしているようだ。」
「なんだと?」
『いやぁああああ。』
彼女の声が尋常でない事を語っていた。
『アノウノ… ソウルルウ コンデルレ …イヤアッサ ゴキルマッルゲナ…』
呪文のような言葉が流れ出てくる。
音声装置がイカれていた。
彼らが見ている前で銀の乙女像に亀裂が入る。
ピシピシと音を立てて細かく割れている。
コンピュータがブゥンと大きく振動したかと思うと、
彼女を覆っていた金属がパーンと音を立てて割れる。
中から白い裸体の乙女が弾き出された。
リチャードは破片に構わず駆け出し、その身体を受け止める。
一瞬、ハッとなる。
白い肌に黒髪。
間違いなく彼女…
誤作動の結果、コアであった彼女を異物としてコンピュータは排出したのだ。
「おい。早く出ようぜ!」
ビルが叫ぶと進児とリチャードもその場を離れる。
「…」
リチャードは感慨深げに彼女を見ている。
「ちょっと…」
「何だ?進児?」
「目のやり場に困るんだけど…」
「お前達は見るんじゃない!」
リチャードは全裸ということより彼女が生きていたという事に衝撃を抱いていた。
ビスマルクマシンに着くとマリアンとアリステアが待っていた。
「姉さま!」
「!」
マリアンは彼女の姿に驚いていた。
「マリアン、すまないが部屋を貸してくれ!」
「えぇ、いいわ。」
マリアンの部屋のベッドに運んだリチャードは彼女を横たえる。
「後は私が見るわ。」
「すまない。」
マリアンは彼女に自分のガウンを着せ、応急キットで彼女の身体の傷を手当てする。
身体中に赤い血が流れて止まらない。
すべて、端子が刺さった痕だ。
手脚と首の後ろに直径1センチほどの傷が無数にある。
まずは血止めをと思っていたが呼吸が弱い。
マリアンが心臓の音を確認すると非常に弱い事がわかった。
『進児君!早く病院に連れて行かないと…大変よ!』
マリアンは自室からブリッジに連絡する。
「わかった。スーパーフライト!GO!」
急いでセントラルシティの病院に向かう。
緊急救護の医師と看護婦がストレッチャーと共に待っていた。
すぐさま手術室へと運ばれる。
傷はそう深くなかったが数が多くて失血状態。
それとショック状態が続いたため心臓に負担がかかっていた。
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(2004/8/31)
(2005/7/3加筆改稿)
(2015/03/24 加筆改稿)
あとがき
一気に盛り上がってます(爆)
どうなるのか?姫?
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