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Captive -3-
セントラルシティ病院に運び込まれた彼女は何とか一命を取り留めた。

身体中の無数の傷から出血していたが、止血が早かったから助かった。


ただ、いまだに意識を取り戻さない。



首の後ろ…脊髄には損傷がなかったから問題はないはず。


昏々と眠り続ける彼女を弟・アリステアとリチャードが心配そうに見ていた。



「姉さま…  僕の為に…  ごめんね…」

ベッドに横たわる姉に謝る。

12歳の彼はまだ子供の顔をしていた。

ぐすぐすと泣くさまは姉・ファリアの幼い頃と似ているとリチャードは感じていた。



泣き疲れ眠ったアリステアを部屋の簡易ベッドに運ぶ。


姉弟がどんな5年半を過ごしてきたのか、気になったがとても聞きだせる状況ではなかった。


リチャードの目の前には17歳になった婚約者・ファリアが眠っていた。


静かな寝息が聞こえる。

最後に会った時、彼女は12歳。自分は13歳。


お互い大人に近づいたなと感じていた。




ドアをノックする音が聞こえた。


「はい。」

リチャードが出ると、進児、マリアン、ビルの3人。


「どう?彼女の様子は?」

マリアンが心配そうに彼女を覗きこむ。

「まだ、意識が戻らないんだ…」

ふさぎこむリチャードにビルは問いかける。


「なあ、さっきから聞きたかったんだけど…  この娘、お前の何?」

リチャードの過去を知るのは進児だけ。





しばらくしてリチャードが口を開く。

「彼女は…僕の婚約者のファリア=パーシヴァル。」

「こ…婚約者ぁ?!マジで?」


「あぁ。僕が13、彼女が12で婚約した。」


「そうだったのか…」

ビルは半ば申し訳なさそうにしているが
進児とマリアンの様子が自分と違っている事に気付く。


「なぁ、なんで進児とマリアンは驚かないんだよ?婚約者がいたなんて話、初耳だぜ!」


「お…俺は3ヶ月くらい前にたまたまリチャードから聞いたんだ。」

進児はマリアンに顔を向ける。

「あ、私は…ビスマルクチームのメンバー選出の時に。」


「なんだよ!俺だけが知らなかったのかよ!」

「まぁまあ…」

憤慨するビルを落ち着かせる進児。


「こんな状況で大勢いたら迷惑だろうし、俺たちは引き上げようぜ。」

進児がビルの腕を引っ張る。

「そうね。それじゃ、私たちはホテルに戻るわね。」

「あぁ、すまない。みんな。」


リチャードが珍しく3人に頭を下げる。



********************




彼はまじまじと彼女を見詰める。


変わらない黒髪はかなり長く伸びている。

白い肌は幼い時より更に白い気がした。

長いまつげが揺れている。

つんと尖った唇は淡いピンクの薔薇のように。




忘れることのなかったあの幼い日の彼女を。

あのころよりずっと乙女になっていた。




リチャードは彼女の枕元でつい まどろんでしまう。



********************




翌朝


朝陽が病室を照らす頃、フッと彼女は目覚めた。

横を見ると見慣れない青年。


彼…リチャードと気付くのに時間はかからなかった。

向こうのベッドに弟が見える。

ぼんやりと彼女の意識が戻る。

”そう…  私、助かったのね…”

しかし体中が痛い。

ずきずきと疼く。

「う…」

何とか身体を動かそうとするが痛くてどうしようもない。

「…痛。」


呻く彼女の声に気付いたのかリチャードが目覚めた。


「…ファリア?」

見ると彼女は何とか身体を動かそうとしていた。

苦痛に顔を歪ませている。

「ダメだ!急に動いては!」

「あ…  リ…リチャード?」

「そう、僕だ。」

彼は優しく気遣う。

「ダメだよ。全身に傷を負っているんだから動いては。」

「わ…私、助かったのね?」

「あぁ。けど、今 無理をしてはいけない。
さ、横になって。」

背に傷があるため、横を向いて横たわる。




リチャードは傷ついてない彼女の頬にそっと指で触れる。

「帰ってきてくれた…」

「リチャード…私…」

彼女の瞳からぼろぼろと大粒の涙が溢れる。

「大丈夫?痛いのかい?」

「少し痛いわ。でも…  あなたに逢えて嬉しいから…」

「!」

その言葉に彼は鼓動が早くなる。

「僕に逢えて?」

「えぇ。」


少し照れくさそうにファリアは答える。

リチャードはそっと優しく、唇を重ねた。

優しい時間が過ぎていく…








********************


朝8時

弟のアリステアはやっと目覚めた。

姉の意識が戻っている事に気付いた彼は大喜びだ。

「姉さま!  よかった…よかった…僕、僕…」

姉の枕元で歓喜の涙を流す弟の頭をそっと撫でる。

「ありがとう。アリステア。   あなたが走ってくれたから…私は助かったのね?」

「! 姉さま、どうして知っているの?」


「彼から聞いたわ。」

アリステアが振り向くとそこにはリチャードがいた。

「やっと起きたかステア。」

フフと微笑むリチャードに駆け寄る。

「ありがとう、リチャードさん!  僕、感謝しても し足りないよ!」

「僕は自分がしたかった事をしただけだよ。」

「!?」

「アリステアに頼まれなくても、ファリアを助けただろう。」

「リチャードさん…」

「また!男の子のクセに泣かないの!」

また泣き出すのを姉にたしなめられる。

「だって、嬉しいんだもん!」


「仕方ないわね。」

笑いあう3人の所へ看護婦がやってきた。

「どうやら、大丈夫そうね?」

笑顔で看護婦は乙女に言う。

「点滴を追加しなきゃね。…それともうすぐ先生が回診に来られます。」

「はい。」

「その間に朝食をとってきてくださいな。」

看護婦がリチャードとアリステアに告げる。

「そういえば僕おなかペコペコ。」

「行ってらっしゃい。」

乙女は笑顔で二人を見送る。

しかし彼らが出て行くと彼女は苦痛に顔を歪ませる。



「大丈夫ですか?!」

看護婦が驚く。

「大丈夫です。あの二人には心配させたくなくて…。」

「解りました。とりあえず痛み止めを追加します。」

慌てて看護婦は痛み止めを注射し、医師にコールする。

3分も経たないうちに医師が来た。

「痛みを我慢するなんて…  早く言ってくれないと!」

プラグの傷は浅くても1センチ。深いところだと3センチ近かった。

止血は効いているが痛みは取れていなかった。

全身の傷だけに体中に激痛が走る。

「くうっ…」

先生の処置が終わる頃には何とか痛みは治まっていた。

「あまり我慢はしないで下さい。いいですね?」

「…はい。」

「微熱があるから…お薬を処方しておきます。食後に飲んでください。」






医師が帰ると食事が出される。

オートミールとカットされたグレープフルーツ。それにミルク。

余り食欲はなかったけれど それを口に押し込む。
栄養を取らないと治るものも治らないと思ったから。


痛み止めが効いているから今はもう大丈夫。


この後、彼女は完治するまでの3ヶ月間、入院生活を強いられた。






********************




3ヵ月後


何とか傷を完治させたファリアはガニメデ星の研究施設に勤務していた叔父・アランに連れられ
弟アリステアと共に生まれ故郷・英国に帰れることになる。

それは奇しくもビスマルクチームがペルペリデスを破壊した直後の事だった。


真の平和は目の前だった。








fin
_________________________
(2004/8/31)
(2005/7/3加筆改稿)
あとがき

やっと書けました★
弟アリステアの叫びからはじまったこのお話。

いつものパラレルとちょっと違います。

一番の違いは彼女と共に弟・アリステアがいること。

随分泣き虫になっちゃいましたが…



やっぱりこの後二人は婚約します。
LOVELOVEなんですね(笑)



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