becouse  of  you    -17-






―日曜
試合会場はすでに満員に近かった。
ファリア達が戸惑い困っていると彼の祖父であるモーティマー卿が
孫と同じ学校の制服の少女2人に気づく。
見覚えのある少女がファリアだと解ったから声を掛ける。



「ファリア…久しぶりだね。」

不意に声を掛けてきた相手の顔を見ると誰か解る。

「あ、リチャードのお爺様の… モーティマー卿。こんにちは。」

60をとっくに過ぎてる老紳士は少女達に微笑を向ける。


「リチャードの応援に来てくれたのかな?」

「はい。」

「そうか。…ところでそちらは君の友達かね?」

「えぇ、そうですモーティマー卿。
こちらは私の親友のエリザベス=マーシャル伯爵令嬢です。

リズ、こちらリチャードのお爺様のモーティマー卿…ハロルド=ランスロット様よ。」

スカートを持ち令嬢らしく挨拶するリズ。

「こんにちは、モーティマー卿。」

「こんにちは、エリザベス。…マーシャル伯爵家というと、銀行家のジャービス=マーシャル伯のお嬢さんかな?」

「はい。下の娘です。」

「そうだったのか…これは失礼した。小さなレディ達。
ここに座りなさい、少し狭いが。」

場所を詰めてくれる卿。

「え?あ、あの…」

戸惑う少女達に優しく言う。


「ほら、せっかく、私の孫の応援に来てくれたんだ。座ってくれたまえ。」


二人は顔をあわせる。
見事にハモる声。

「「ありがとうございます。」」


卿とリズの間に座るファリア。



3人の目の前で次々と勝ち進んでいくリチャード。
最年少ということもあって小柄さを生かし軽快に相手を突いていく。


そんな中、モーティマー卿はぼそりと少女に声を掛ける。

「…ファリア。すまなかったね。」

不意に卿に言われ何のことか解らずにいた。

「半月前のことだよ。 
私の孫が…リチャードがしたこと… 申し訳なかったね。」

勇猛果敢で知られた元軍人のいかつい顔の卿にそう言われ驚く。

「いえ… そんなこと。 私が悪かったんです。 
彼が悪いわけじゃありません。」

「しかし君は3日も寝込んだと聞いている。」

「それは…自分の軽率な行動のせいです。
決して彼のせいじゃありません。
むしろリチャードやランスロット公爵様、それに家族にも迷惑をかけたと深く反省しています。」

「…。」


事件は息子であるランスロット公爵に聞いている。
彼女に落ち度はないと説明を受けていたから、今の言葉に胸を打たれていた。




目の前でリチャードが格上の相手を倒していた。
わあっと歓声があがる。
あと2人―


その光景に3人は息を飲む。


不意に顔を上げたリチャードとファリアの視線が合う。

お互いに笑顔を見せる。

"頑張って!!"

目でエールを送るファリア。




次の相手は…前回の優勝者。


キッと真剣な顔で立ち向かう。
100%以上の力を出さないと勝てない相手。


しかし…一瞬で勝負は決まった。


リチャードの勝ち。
相手が年下だとなめていた結果、前回優勝者は敗退した。

その途端、会場中から歓声が上がった。
ファリアもリズも手を取り合って喜ぶ。




あとひとり―

最後の相手は前回の準優勝者。
さっきは一応勝てたが今回も気が抜けない。


前回覇者を破った試合を見ていただけに今回は簡単に勝たせてくれない。
結局、判定にもつれ込む。



審判の審査結果は―
リチャード=ランスロットの判定勝ち。

優勝が決まった瞬間、彼は客席に走り出す。


「やった!! やったんだ!! ファリア!!」

「リチャード!! 凄かった…立派だった。おめでとう!!」




大会始まって以来、20年ぶり二人目の13歳の優勝だった。




授賞式を終え、リチャードは祖父とファリアたちの元へとやってきた。


思わずリチャードの手を握るファリア。

「おめでとう!! リチャード。 約束、守ってくれたのね。」

「あぁ、君のおかげだ。ありがとう。」


手を握り返してくる彼に言う。

「ちょっとしゃがんで。」

「え?」

「いいから。」

「う、うん…」

ファリアはそっとその頬にキスをする。
ちゅっと小さな音が彼の耳に響く。

「おめでとう。」

「あ…。」

思わずされたキスで顔が真っ赤になるリチャード。
目を丸くしてキスされた頬に触れていた。

傍らで見ていた祖父は笑い出す。

「ははは…やったな。リチャード。勝利の女神のキスだ。」

「お爺様…」

まだボウとしている孫の背を叩く。



『やったわね、ファリア!!』

『でも…ちょっと恥ずかしい…』

『でも…見てみなよ。かなり喜んでるよ。』

『そうみたい…』



そんな光景が繰り広げられているところへフェンシング部の顧問がきた。

少々驚きの目をした顧問が声を掛ける。

「モーティマー卿。いらしてたんですか…」

「あぁ、いつも孫がお世話になっているようで…ありがとう。」

「お爺様?」

リチャードは自分の顧問と祖父が顔見知りだということを知らなかった。

「あぁ、お前のとこの顧問はワシの友人の息子だよ。」

「そうだったんですか…」


顧問は笑顔を彼に向ける。

「…リチャード君。今日はおめでとう。見事だったよ。」

「ありがとうございます。」

「今日はもう帰っていいよ。」

驚くリチャードは戸惑いを隠せない。

「え、でも…ミーティングとか…反省会とか…」

「あぁ、最年少で優勝した君には必要ない。それでは卿、失礼します。」

「すまんな。」

頭を下げた顧問はすたすたと帰っていく。




「…僕、着替えてきます。」

ロッカールームに走っていき、着替えを済ませ制服になった彼は会場前で祖父たちに合流する。



「さあ、祝いのお茶に行くか。」

「はい。」

リズが少々申し訳なさそうに言う。

「あ、あの…私、帰ります。」

「リズ??どうしたの?」

ファリアに問われ、応える。

「うん。…今日ちょっと約束が会って、家族と。」

「…そっか。」

残念そうなファリアとリチャード。

「ちょっと残念だが仕方がないな。」

モーティマー卿は胸元から財布を取り出し札を出す。

「車代だ。持って行きなさい。」

「いえ、いただけません。
それじゃ、ファリア。リチャード。また明日、学校で。」

「う、うん。それじゃ。」




ファリアはタクシーを拾う親友のそばにいた。

『上手くやんなさいよ…』

『え? あ、うん。』




その間、モーティマー卿は携帯電話ですぐにロンドンの王室情報部にいる息子・エドワードに知らせる。
狂喜していたエドワード。
まさか最年少で優勝するとは思っていなかった。







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(2005/5/12)
(2013/7/20 加筆改稿)




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