becouse  of  you    -16-






翌日―

アーサーは父親の公爵に娘にピアノを買うと報告した。
反対もなくあっさりと了承された。
そして即注文する。

納入は4日後―



朝食の席で父から今週はピアノが使えないと言われた。

「え…?どうして?」

「かなり古いものだしな、調律に出そうと思って。」

「そうですか…」

少し残念そうな娘に告げる。

「すまんが今週は学校でレッスンしてくれ。」

「はい…。」






木曜の夕方ー
レッスンを学校でしているため、帰宅が遅くなっていた。
もう7時前。

玄関ホールで乳母のベアトリス夫人が出迎える。

「お帰りなさいませ。お嬢様。」

「ただいま。」

部屋へ行こうとする少女を呼び止める。

「あぁ、お嬢様。 旦那様がピアノ室へ来るようにと。」

「え、あ。 調律終わったのね。
やっと家でもレッスンできるわ♪
待ってて、着替えてくるから。」

嬉しそうな少女に笑顔を向ける乳母。

「いえ…そのままでいいとのことです。」

「え?」

少々訝しげな顔を向ける。





ピアノ室へと向かう途中、不意に呟く。。

「何なのかしら?変なの?」

そしてその扉を開けて驚く―



父と母―  それに白いグランドピアノ


「こ…これは!? お父様、お母様、一体?」

二人して笑顔を向ける。

「お前、ピアニストになりたいって言っただろう?
そのために新調した。」

「前のは? 私、あの音、好きだったのに…深くて味があって…」

驚く娘の手を取り、ピアノの前に連れて行く。

「まぁ、座って御覧なさい。」

母に勧められ、座り、白鍵に触れる。


ポーン…


とても澄んだ綺麗な音。

それに指になじむようだと感じた。


思わず1曲弾いていた。


驚きの目を両親に向ける。

「ホントにこれ、私に?」

「もちろん。この間のお祝いという意味もあるがな。」

「…お父様、お母様。ありがとう…ホントに。」


涙が溢れる。
両親がここまで自分を愛してくれているということを実感していた。


「頑張って立派なピアニストになって…
素敵なレディになってちょうだい。
それがお母様たちの願いよ。」


娘を抱きしめるセーラ。


「うん…頑張る。 頑張る…」






***************************


土曜―


この日はリチャードのフェンシングの国内大会の予選日。

ファリアは勿論、応援席にいた。
彼女についてリズも来ている。


「ねぇ、リズ、テニス部のほうはいいの?」

「ああ、うん。私の試合は来週なのよ〜」

「本当?じゃ、応援行くね。」

「よろしくって… リチャード君と来るつもりじゃないでしょうね?」

「さぁ…、でもわからないわ。」

「…もう好きにしてちょうだい…」

二人のデートをお膳立てしている気持ちになるリズ。



二人の少女の前で試合は進んでいく。

リチャードは快進撃で翌日の本戦に残っていた。

彼もまたこの大会での最年少選手。



会場を出たところでファリアたちが待っていた。

「あ、やっぱり来てくれたんだ。」

「うん、2階席にいたから…」

「そうだったんだ…」

少々、どぎまぎしていた二人。

「明日…頑張ってね。この調子よ。」

「うん!!」



そこへ彼を呼ぶ声。

「おーい!ランスロット!行くぞ〜!」

「ごめん。先輩が呼んでるから…」

「いいのよ。私たちも帰るし…
それじゃ、また明日。」

「ありがとう、ファリア。それにリズ。」

「うん…」



リチャードは学校のマイクロバスへと走っていく。

それを見送る少女達。

「さ、私たちも引き上げよ。」

リズが手を引いて行こうとする。

「ねぇ、待って。リズ。
ちょっとだけ付き合って欲しいところがあるの。」

「何?」

「あのね… 明日、彼が勝つと思うの。だから…」

「だから…何?」

「何かプレゼントしようと思って…」

そう言ったファリアの頬がピンクになっていた。
心情を察したリズは思わず微笑む。

「はぁーん…そっか。
じゃ、買わなくていいよ。」

その言葉にむっと来た。

「何でよ!! 彼が負けるとでも言いたいの?!」

珍しく声を張る親友に驚く。

「違う!! 男の子が一番喜ぶもの、持ってるから必要ないよ。」

怒っていた顔が和らぐ。

「え…?何?」

真顔でリズは言った。

「Kiss。」

「えっ!?」

一瞬で真っ赤になる。

「やっぱり可愛い! ファリアってば…」

「もう!からかわないでよっ!」

「あぁ、ごめん。でも…本当に男の子が一番喜ぶのってさ、
好きな女の子からのキスだよ、兄貴によると。」

「…そ、そうなの?」

「まぁ、頬にキスでいいんじゃないの?」

ほっとする反面、ちょっとそれだけじゃ淋しい気がした。

「うーん…それだけ?」

そう問われリズも考える。



「あ!! いい事、思いついた!!」

「何?」

「一緒に来てよ!」



タクシーを拾い、ファリアをロンドンのパーシヴァル邸に連れて行く。

「って、ここ、ウチじゃない!?」

「そう。 …可愛いドレス、持ってるでしょ?」

「う、うん。」

「じゃあOK。」

「何で?」


屋敷に入り、リズはパーシヴァル邸の執事にあるものを頼む。

持ってこさせたのはデジタルカメラ。


「何するの?」

「だ・か・ら、写真。」

「え?」

「可愛いドレス着たあなたの写真をあげるの。どうよ?」

まだ戸惑う親友にたたみ掛ける。

「これって相当嬉しいと思うけど?
どう思います?男の人って?」

カメラを持ってきてくれた青年執事に尋ねるリズ。

「え、そうですね。…確かに好きな女性の写真って嬉しいですよ。」

にこやかに応えてくれた。

「でしょう?だから、撮ろうよ!」

「う…うん、わかった。」

ファリアは自室でレースがふんだんにあしらわれたちょっとロリータ風のワンピースとヘッドドレスの姿になった。



「あら?可愛いじゃない。 私も写真、欲しいわ。」

「リズ…(汗)」

妙にハイテンションのリズがカメラを構える。

「なんか物足りない…そっか、花だわ。
ね、花束ない?」

そばにいる青年執事に尋ねる。

「はい。すぐにお持ちします。」




花が来るまでの間にも何枚か撮影してみる。


「お嬢様方、お花をお持ちしました。」

可愛らしい白の花束。

「お、いい感じ〜♪ ほら、持って。そこ座って。」

すっかりカメラマン気取りのリズに乗せられポーズをとる。




その写真数枚から、リズは一番可愛く撮れているのを選ぶ。

「うん、これでOKよね。どう?」

その写真を見て本人も驚く。

「これ…私? なんか…別人みたい。」

ほんの少しソフトフォーカスがかかり、柔らかい印象。

「何言ってるの?写真映りもいいからなんだけど…
本当に可愛いんだから。」

親友に言われくすぐったい。

「そうなの?」

「うん。ほら、あとはフレーム選びに行こう。」

「そうね。」

最高の笑顔をリズに向けていた。


二人の少女はパーシヴァル家の車で繁華街の店へ。
ファリアはアンティーク風で2枚入る二つ折りのフレームを選ぶ。



「いい感じじゃない。 こっちには二人の写真なんてどう?」

「リズ…(汗)」

本気なのかからかっているのかとにかく楽しそうな親友の顔。













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(2005/5/12)
(2013/7/20 加筆改稿)


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