becouse  of  you    -18-







リズを見送ったあと、ファリアとリチャードは卿に連れられホテルのティーラウンジへと行く。



「何でも好きなだけ食べていいぞ!」

英国式ティータイムのセットがてんこ盛り状態。
3人で平らげるのは到底無理な量。

「お爺様…こんなに食べれませんよ。な、ファリア。」

「うん。そうね。」


その時、胸ポケットの携帯が鳴る。

「はは…まぁ、いいから。っと…電話だ。ちょっと失礼するよ。」


席を外し、ロビーで電話を取る。




突然、二人きりになる。

「リチャード…。」

「ん?」

潤む瞳で少女が見つめる。

「今日は…本当におめでとう。かっこよかった。
昨日の様子からしてもきっと勝つって信じてたわ。

…それでね、これ、貰って欲しいの。」

少女は横においていた紙袋ごと渡した。
中に入っていたのは綺麗にラッピングされた箱。

「ありがとう… 開けてみていい?」

「え…あ、うん。」

まさか目の前で開けられるなんて思っていなかった。
頬をピンクに染める。



その頃、モーティマー卿は電話を終えたのにもかかわらず
ロビーから遠めに二人を見守っていた。


がさがさと開けるとアンティークな銀のフレーム。
二つ折りなので開けてみた。

「あッ! これ…君じゃないか?」

「うん…。 あのね、リズが撮ってくれたの、昨日。」

「へ?」

「で、こっちの空いているほうに二人の写真入れたらって…言ってた。」

恥ずかしげに照れながら少女は言う。
その様子を見てリチャードは嬉しく感じた。

「…ファリア…」

「写真は…リズが選んでくれたんだけど… フレームは私が選んだの。」




入っている写真の彼女は可愛らしく少女らしいドレスを着てはにかんで微笑んでいる顔。

今、目の前の顔と同じ。

「あ、ありがとう…大事にする。」

「…うん。」


リチャードは大切そうに箱に戻してカバンに入れた。




「ファリア…ありがとう。本当に。」

ティーカップを手にした彼女の微笑みはまるで天使のようだと感じていた。

「ううん、リチャードが頑張ったからよ。」

「違う! 君が、君が頑張ったから、君がコンクールで1位になったから僕も頑張れた。
君が僕にチカラをくれたんだ。」

「え…?」

思わずカップをソーサーに戻す。

「コンクールで1位になった君を見て…僕も頑張らなきゃって…」

思わぬ言葉に反応する少女。

「リチャード、私ね… あの時、ステージの上でね、思ってたの。」

視線を外した彼女に少し戸惑う。

「何…を?」

「…お父様とお母様。それにリチャード、あなたのこと。

…私、あのときのあなたの言葉で1位なんてどうでもいい、
ただ…あなたに聴いて欲しいって。それだけ。

それが1位になるなんて思いもしなかった。認められるなんて信じられなかったわ。
頑張ったわけじゃない…」

申し訳なさそうに告げる彼女の手にそっと触れた。

「でも…僕…嬉しいよ。」

「え?」

予想外の言葉に少女は驚く。

「だって…1位目指して弾いたんじゃなくて…僕に…弾いてくれたんだよね?」

「うん。」

「その方が嬉しいよ。…また聴かせてくれる?」

リチャードのエメラルドの瞳が優しく覗き込む。

「もちろんよ。…あ!」

「どうしたの?」

小さく叫んだ彼女に問いかける。

「うん、あのね、お父様とお母様がね、新しいピアノを買って下さったの。」

「へえ…」

「真っ白のグランドピアノで…凄く音が綺麗なの。」

「近々聴きに行くよ。」



やっと席に戻る卿。


「何を聴きに行くんだね?」

祖父に問われ応える。

「うん、ファリアがねピアノを聴かせてくれるって…」

「そうか。確か先週の校内コンクールで1位になったと聞いているよ。
この子と同じ最年少で。」

「…はい。でもリチャードの方が凄いです。私なんて…」

「そんな事ないだろう。だから1位になったんじゃないか。
私も是非、聴かせてもらいたいね。」

「はい、モーティマー卿。機会があれば。」

はにかむその微笑に目を細める卿。

「そういや、君の祖母…パーシヴァル公爵夫人アニー様は若い頃、素晴らしいハープ奏者だった。
その血を受け継いでいるのかもしれないな。」

無骨な老紳士が懐かしげに呟く。

「私、一応、ハープも弾きます。
4歳くらいの頃から祖母から習っていますから。」

「だからかな? まだ聴いてないが…アニー様と同じ優しい音を奏でられることが出来るのは。」

「…祖母の演奏をお聞きになったことがおありで?」

「あぁ、素晴らしい演奏だったよ。」

その懐かしい音を思い出したのか卿は遠い目をしていた。

「お爺様…初めて聞きました、そのお話。」

「今は引退されているが…若い頃のアニー様は英国社交界の華だった。
みんなの憧れのレディだ。
私も若い頃は…っと、何を言わせる!?」

言葉で怒りながらも笑っていた卿。

少年と少女は小さく笑っていた。

「はははッ…お爺様。本当に元英国軍人なのですが?」

いつもと違い威厳さを欠いた祖父に問いかける。
ごほんと咳払いをして自分を落ち着かせた。

「そうだ。それにしても…パーシヴァル家の女性は美人ぞろいだな。」

「え?」

不意に自分の家族のことを言われ戸惑う少女。

「アニー殿もセーラ様も…そしてファリア、君もな。」


ぽっと照れて顔が赤くなる。

「私…そんな…」

「いや…君のその美貌は、祖母と母親譲りだよ。
…リチャード、しっかりせんと他の男に取られるぞ!!」

「お爺様ッ!!!!」

さっきの仕返しとばかり孫をからかう。

照れる少女を横に叫ぶ少年。

余裕で祖父は笑っていた。





******************************


翌日―

1ヶ月に1回の男子部女子部の合同朝礼。

その時にリチャードの昨日の大会の優勝が伝えられた。

瞬く間に評判になる。
もちろん、女子生徒も男子生徒も一目置くようになる。
それはファリアに対しても同じことだった。
大学部の男子に勝った校内コンクール1位。


そしてどこからか流れ出した噂―


5年に一度の伝統

―学校公認カップル―



前ほどではない静かな噂が二人を取り巻く。








―5月
リチャードのクラスに編入生があった。
米国からの編入生・ジョージィ=プリングルス。
彼より実は1コ年上なのだが1年生に入ってきた。

彼が後に"P・スキャンダル"という事件の発端となるとは
この時、誰も思わなかった。






Fin
_____________________________________________________________
(2005/5/12)

BACK

Bismark Novel Top

-あとがき−

はっはっは〜!!
一気に浮かんで、一気に書いた!!ッて感じです。
もともとがSSの「キ・セ・キ」だけにここまで長くなったのには驚き!!

下書きに24時間かからなかったんだけど
さすがにPC打ち込みは3日かかりました。

つーかこの後が「大人になる前に」なんすね。
ほほほ〜。