becouse of you -15-
会場だった大講堂の周辺で父兄と会う出場者達。
その中にパーシヴァル一家とリチャード達がいた。
「ファリア…よく頑張ったわ。おめでとう。」
「ありがとう、お母様。」
セーラ夫人は娘の頬にキスをする。
「あなた、随分遅くまでレッスンしてたものね。努力の結果だわ。」
「そうだ。私は凄く嬉しいぞ。お前の父親として。
最年少の受賞を誇りに思うぞ!!」
両親に褒められ嬉し涙を流す。
祖父もこの間、言った言葉を返上できるくらいのことを成し遂げた孫娘を抱き上げてキスしたいくらいだった。
「リチャード君。それにリズもありがとう。
娘を応援してくれて…」
美しいその顔に涙を浮かべて微笑むセーラ夫人。
「いえ、僕は何も…」
「私も…。友達だもの。ね?」
ファリアは思わず二人いっぺんに抱きしめる。
「ありがとう。…リズ。リチャード。」
「あぁ、リチャード君。リズ。
このあと予定がなかったら一緒にどうだね?」
父・パーシヴァル伯爵は二人に声を掛ける。
「せっかくだから、みんなでお祝いしよう。なぁ、セーラ?」
「えぇ、もちろん。」
「ねぇ、リチャードさんもリズさんも!!」
アリステアにまで二人にすがりつく。
「無理言わないの、ステア。 ごめんね、二人とも…」
「ううん、行く。せっかくだもの!」
「僕も行くよ…」
リズもリチャードも笑顔を向ける。
「ホントに?」
「「うん!!」」
「さ、行きましょ。」
セーラ夫人に促され車2台に分乗してローレン城へと向かう。
公爵の車には公爵と夫人。アリステアと母親。
伯爵の車には伯爵とファリア、リチャード、リズが。
車中、リチャードとファリアの様子を見て、何かが今までと違うことに気づいていたのは父親の伯爵。
連絡を聞いてケーキを用意してくれていたベアトリス夫人。
大応接間でお祝いする。
「おめでとうございます、お嬢様。」
「ありがとう、ベアトリス夫人…みんなも。」
その日、ローレン城は笑顔に包まれていた。
結局、夜まで残っていたリチャード。
夕食までよばれ、そのあと二人で庭園に出た。
空には星が広がっていた。
「次は僕の番だね…」
「え、あ…そうね。約束したものね、校長先生と。」
「一応そういうことだけどさ… 僕は君に約束する。」
その言葉で彼の顔を覗き込む。
「リチャード?」
「僕は絶対に優勝する。
君の為に…そして僕自身の為に…」
真剣な眼差しで彼は見つめ返す。
「…頑張って。応援に行くから…。」
「あぁ。見ててくれ…」
(そうさ…強い男になって、守ってみせる、約束を。 …君を)
ローレン城の庭園で二人は約束していた。
試合は次の週末―
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次の日・日曜の午後
ファリアは両親と弟と4人でロンドンにショッピングに出掛けた。
運転手付きのリムジンの中、父は横に座る娘に満面の笑みで言う。
「さ、ファリア。欲しいものがあれば言いなさい。何でも買ってあげるよ」
「私、特に要らない…」
意外な娘の言葉に驚く両親は戸惑う。
「え…?」
「だっておばあ様ったらたくさん…プレゼントしてくださったもの。」
「困った人だな…母上の買い物好きも。」
父・アーサーは苦笑いする。
昨日、コンクールを見た後、ロンドンに行く夫について行ったのだが
その夫を放りだして孫娘に服だの靴だのバッグだのと大量に買ってきた。
「せっかく出てきたのに…」
残念そうに母は呟く。
「あ、じゃ、アリステアにチョコレートを買ってあげて。」
「それでいいの?」
驚く母と父。
「うん。」
「何で?」
アリステアが口を挟む。
「僕が…リチャードさんから貰ったって言うチョコを欲しがったからでしょ、姉さま。」
「そうよ。」
娘と息子の話を聞いてやっと納得した。
「そうか、わかった。じゃあ、お前にも買ってあげような。」
笑顔を見せる父にきっぱりと言う。
「いらない。」
「何で?! あそこの…好きだろう?よく お土産に買ってあげたじゃないか?」
今まで娘に買ってきていたチョコレートをいらないと言われたことがなかったのでさらに驚く。
そしてまた驚くべき言葉を口にした。
「…もうリチャードからしか受け取らない。だから。」
「ありゃ、じゃあ、違うのを買ってあげよう。」
「そういうことなら…」
ファリアとアリステアは大きなボックスのチョコを一箱ずつ買ってもらってご満悦だった。
夕食をロンドンのリッツホテルで済ませ、ローレン城へと戻る車中、
アリステアははしゃぎ疲れて母の膝枕で眠っていた。
「お父様。聞きたいことがあるんですけど…」
珍しく真剣な眼差しで尋ねてきた娘の顔を見る父。
「何だい?」
「ピアニストになるって大変?」
思いもしなかった言葉が出てきた。
「え…ピアニスト…か?」
「うん。
…昨日… ステージで弾いてて、なんて言うか…心が穏やかだった。
指が勝手に動いていた。
私…勝ち負けなんてもうどうでもいいって思ったの。
それに私が人を感動させられるなんて思いもしなかった。
昨日まで。だから…」
娘の言葉に両親は耳を傾ける。
「そうか…ピアニストになりたいか?」
「はい。」
「そうだな…高校から音楽学校に行くか?」
「え…?」
「大学からでも構わんと思うが…早く行ったほうがいいかな?」
父親に問われ戸惑う。
「私…リチャードと同じ学校にいたい。 だから…大学…かな?」
「そうか。そうだな。 彼はイートン校に行って、オックスフォードに行きそうだしな。
お前は王立音楽院にでも行けばいいさ。」
「うん…じゃ、そうする。」
娘の黒髪の頭を撫でて父は優しく言う。
「まぁ、今は勉強を頑張って…いいピアノの先生についてもらおうな。」
「はい。お父様。」
父と娘の笑顔を見て母は嬉しさでいっぱいになっていた。
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城へ着くともう9時を回っている。
「おやすみなさい。お父様、お母様。」
「あぁ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
両親にキスして部屋へと下がる娘を見送る。
熟睡しているアリステアを使用人に渡し、寝室へ運ばせた。
「あなた…」
夫婦の寝室へと向かう途中、セーラが呟く。
「うん?」
「あの娘が…ファリアがピアニストになりたいって言って、嬉しいのでしょう?」
「まぁな。」
はにかむ笑顔を妻に見せる。
「…私も賛成ですわ。
もし、あの娘が成功すれば…パーシヴァル家にとってはプラスですものね?」
ふうと溜息をつく夫。
「まぁ…それもあるがな。
あの娘が自分の道を見つけたようで嬉しいよ。
まだまだ子供だと思ってたんだが…」
嬉しさと切なさを感じていた。
「そうね…まだ12歳。けど…もう12歳。これから急に大人になるわ。あの娘…
目標を見つけて…傍らにはリチャード君がいて…」
遠い目をして夫は呟く。
「あぁ…そうだ。 あの子は娘の"騎士様"だからな。昔から…」
「えぇ。」
不意に黙り込んだ夫。
寝室の前でいつも別れていた。
しかし手を取って扉を開けた。
部屋に入ると妻の前に立つ。
「…セーラ。ひとつ相談があるんだがね?」
「何ですの?」
「何もいらないと言っておったあの娘にピアノを買ってやろうと思うんだ。
どうだろう?
城のはもう100年近くたっている古いものだしな。」
夫の提案に喜ぶ。
「まぁ、それはいいことですわ。
それじゃ…白いピアノなんてどうかしら?」
「白…か。 いいかもな。
あの娘に良く似合う…」
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(2005/5/12)
(2013/7/20 加筆改稿)
(2017/03/21加筆改稿)
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