becouse  of  you    -14-






ファリアは週末の学内ピアノコンクールに向けて猛練習していた。

校長先生との約束もある。

そして今回のは特にレベルが高い。
しかも自分を含めエントリーしているのは10名。
最年少の彼女にとっては少々厳しい戦いになるのは明白だった。



学校だけでなく城のピアノルームでも練習する。
このところ学校だけで練習してきた彼女にとって久々に家でのレッスン。

こんなに真剣に打ち込むのは初めてかもしれないと自分でも感じていた。




リチャードも馬術部の練習を早々に切り上げ、フェンシング部のほうに顔を出す。




あっという間に週末。

ファリアの学内コンクールは大学部の大講堂にて催される。

学内とはいえ中等部・高等部・大学部から選出されたものたちばかりでハイレベル。


今回の前評判では1位:大学部3年のパーシー=レイン。2位:大学部1年のダニエル=イースト。
3位:高等部3年のエマ=マイナーの常連3人。

初エントリーでもある彼女には注目すらなかった。
学校側は雰囲気に慣れさせるという意味でエントリーさせたのだった。
ただ"パーシヴァル家"の家名が人々の関心を寄せていた。


父兄席で両親と祖父母が見守っていた。
弟・アリステアとリチャードたちは生徒席で。



順番はクジで決まっていた。

ファリアは10人中8番目。
しかし大学部1年のダニエルが怪我による欠場のため順番が早まる。
7番目― ひとり前は1位候補のレイン。




ステージの袖で順番を待つ。


先輩達の素晴らしい演奏を聞いて怖くなる。

「大丈夫。大丈夫よ…」

自分でも気づかないくらい緊張している。
ステージの袖の中で順番を待つ中、リズとリチャードが様子を見に来た。

小柄な彼女が余計小さく見えた気がした。

「…大丈夫?」

「うん。一応初めてじゃないし…」

初等部時代のコンクールは経験している。
ただ大人に近い彼らとの戦いは初めてだった。

そんな様子のファリアをリチャードは察していた。

「ね、ファリア。」

「何?」

「いいよ。入賞しなくて。」

「え?」

「僕にだけ…弾いてくれればいいさ、だから無理しないで。」

そっと肩を抱く。
横でリズがやれやれといった様子で見守っていた。

「…リチャード…。」

思わず笑顔になる。
それに肩から力が抜けた。

「あーもー、こんなとこで、また。
…ほら、そろそろ席に戻らないと。
じゃね、無理しないで。」

「ご…ごめん。またあとで。」

去りがたい様子のリチャードを引っ張ってリズは客席に戻っていく。
そんな二人を見て微笑んでいた。
自分を心配してくれる二人に感謝する。

身体からも力が抜けた気がした。。


次は1位候補のパーシー=レイン。
曲はベートヴェンの「熱情」

激しく正確なタッチ。
でも2音外していたことにファリアも気づく。



( もういいわ…
リチャード、リズ。
お父様、お母様が聞いてくれる、それだけで…
だって私まだ12歳だし… 22歳のレイン先輩に勝とうなんて無茶だわ。
自分にとっていい演奏が出来ればいい。)


不思議と穏やかな気持ちになっていく。




ステージではわぁと喝采が起きていた。

レインが下がってきた。次は自分の番。

”entry No.8  faria=pelceval"


名を呼ばれステージに向かう。

拍手の後の静寂の中、すうと鍵盤に触れる。

白鍵と黒鍵の上を指が滑るようだと感じた。

曲はショパン・夜想曲第2番変ホ長調。

甘く切ない旋律が響く…



その表現力に一番驚いたのは他ならぬパーシー=レイン。

 (自分が12の時にはここまで弾けなかった…!!)



ピアノを弾く少女は…ただ自分を大切にしてくれる人に聴いてもらいたいと願う心だけだった―




誰もが何処かで聞いた事のあるショパンの名曲。

その甘く切ない つむぎ出される音にみな聴き惚れていた。


最後の音の後の静寂。




わぁっとさっきのレイン以上の拍手が起きていた。

「…え?」

戸惑いながらも一礼して上手へと下がる。


ファリアのあとはふたり。
上位の常連、高等部3年のエマ。
曲はショパンのワルツ第10番ロ短調。

しかし数箇所、音を外していた。

実は格下だと思っていた中等部1年の少女の演奏を聴いてショックを受けていたために
最悪の演奏となってしまっていた。

大学部1年のジェシカ=エヴァンス。
曲はドビュッシーの水に映る影。
なかなかいい演奏ではあったが、印象は残らない…





今回、選考に時間がかかっていた。
しばらくすると結果が発表される。

ファリアは既に生徒席のリチャード、エリザベス、エリック。そして弟のアリステアと共にいた。


「良かったわよ、すっごく。」

笑顔で親友に褒められる。

「ありがとう、リズ。」

「僕も…思わず聞き惚れていたよ。」

彼もまた、素晴らしい演奏だと感じていた。

「ありがとう、リチャード…リズ。
あの時二人が来てくれたから…ちゃんと弾けた。
だから二人が喜んでくれるのが嬉しい。」

ふたりの言葉が何よりもうれしいファリアがいた。
そこへ大学部3年のレインがやってくる。

「ちょっと、君。ミス・パーシヴァル。」

「はい?」

名を呼ばれ振り向くと上級生。
しかもパーシー=レイン。
大学生で身長180センチなので見上げなければならない。

「たぶん…君が一位だよ。」

思いがけない上級生の言葉。
しかも前回も前々回も1位のレインに。

「…え?そんなことありえません。
先輩の演奏、素晴らしかったです。私なんて…」

「いや、僕はパワーと気迫だけだ。」

「私なんて…何もありません。」

萎縮する小さな少女に微笑みかける。

「きっと誰もがそう思ってる。大丈夫だよ。それじゃ。」


立ち去るレインを見送る5人だった。


舞台に司会進行役が上がる。

「それでは発表します。
今年度第3回、校内ピアノコンクール第3位は…
高等部2年・アリス=コンフォート。
さ、どうぞステージに。」

今まで上位に来なかった名前が挙がった。
拍手が上がり、笑顔で上がるコンフォート。

「そして第2位。…大学部3年・パーシー=レイン。」

わああと驚く喚声が上がる。
予想を覆す順位にどよめきが起こっていた。

少女もありえない状況に内心驚く。
 
 (え…嘘! なんでレイン先輩が2位?!)

ファリアの心の中でさっきのレインの言葉がよぎる。


「…そして第1位。」

シンと静まり返る場内。

「…中等部1年・ファリア=パーシヴァル!おめでとう!」

胸の奥が熱くなるのを感じる。

「う…うそ…嘘でしょ??」

呆然とするファリアの肩を抱きリチャードは笑顔を向けた。

「やったな!君が一位だ!!」

「おめでとう!!」

「え…」

リチャードとリズに言われてもまだ信じられなかった。


 (ありえない…)

「さ、行っておいでよ。」

リチャードたちに背を押されやっとステージに上がる。




今回の審査員長である校外の音大教授ハギンズが出迎える。

「おめでとう、ミス・パーシヴァル。
…君は最年少の受賞者だよ。」

まだ信じられないという目をしている少女に微笑む


「本当に?私…?」


「まだ信じられないかね?」

戸惑う少女が客席を見ると一斉に割れんばかりの拍手が起こった。

「あ…」

「おめでとう、1位のトロフィーだ。」

両手でしっかりと受け取る。

今まで何度となく受けたことはある。
チェスやビリヤードのJr大会優勝や絵画コンクールでの金賞。
しかし今までこんなに重く嬉しいトロフィーはなかった。


「ありがとうございます…!」

そこへ中等部校長が笑顔で近づいてくる。

「おめでとう。よく頑張ったわね、ミス・パーシヴァル。
…私からの課題はクリアね。」

「校長先生…ありがとうございます。」

「ほら…もうみんなあんな噂を忘れてる…」

「はい…」



客席にいたクラスメイト達が拍手を送ってくれていた―








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(2005/5/11)
(2013/7/20加筆改稿)



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