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becouse of you -13-
ファリアは音楽部で今日もピアノのレッスン。
例のローレンスと共に指導を受けていた。
黒いグランドピアノ2台分の音が響く。
そこへシスター服の女子部副教頭がやってきた。
「ミス・パーシヴァルをお借りしますよ。」
突然のことで驚くローレンスと指導していたピアノ教師。
本人はすぐにあのことだと解る。
連れて行かれた先は中等部校長室。
(え…職員室じゃなくて?!)
驚きを隠せないファリアの前の扉が開かれる。
「来ましたね。ミス・パーシヴァル。」
「…はい。」
60になった老シスターが中等部全体の校長。
厳格な顔をさらに険しくさせていた。
「呼ばれた理由…。 それを知っていますね?」
「…はい。今日の噂の件…です。」
ふうと溜息をつく校長。
「そうです。あの内容はその…事実なのですか?」
きゅっと唇をかみ締め、心を落ち着かせる。
「…違います。 私…そんなことしていません。」
「では、何故、噂に?」
「私、私は…彼に、リチャードに謝罪したんです。
それで許してくれた…嬉しくて思わず抱きついてしまった。
でもそれだけです。
…それ以外は何もありません。
神に誓えます!!」
真剣なその瞳を見てそれが真実だと悟る校長と女子部の教頭。
「解りました。嘘を言っている目ではないことで解ります。」
その言葉で少し安堵する。
「校長先生…」
「ミス・パーシヴァル。 …すまないけど、ちょっとそこの衝立の奥にいてくださいな。」
「…はい。」
校長に言われたとおり衝立の陰に入る。
(ひょっとして… 彼も?)
すぐにドアをノックする音がしてリチャードが男子部の教頭と入ってきた。
(やっぱり…)
「来ましたね。リチャード=ランスロット。」
「はい。」
「ここに連れてこられた理由は解っていますね?」
「はい。」
ぐっと拳を握り締め、真摯な眼差しで校長を見つめる。
「…校内でミス・パーシヴァルを抱きしめてキスしたという噂です。
あなたは何故そんなことをしたのですか?」
「…噂は真実ではありません。」
ゆるぎない瞳で彼は言う。
「確かにあの日、あの時、僕は彼女に謝罪するために図書館のあの場所に連れて行きました。
僕を許してくれた… 彼女を思わず…抱きしめました。
でも噂にあるようなことは一切ありません。事実です。
信じてください!!」
その言葉を聞いて校長達も驚く。
(…謝罪。 あの娘もそう言ってたわね…)
はあと溜息をつき 質問を続ける。
「何を謝罪するためだったのですか?」
「…それは言えません。」
「何故です?」
「彼女の名誉のためです。これ以上は…」
「…それではミス・パーシヴァルの為ならあえて汚名を被っても良いと?」
握り締めた拳に力が入る。
「はい。勿論です。」
衝立の奥でファリアは驚く。
(嘘… そんな。 私のために…汚名を?)
思わず涙が溢れ、衝立から飛び出してしまう。
「それは…それは違います!!校長先生!」
飛び出してきた彼女の姿に驚きを隠せないリチャード。
「!! ファリア…君、いたのか?!」
校長の前に立ち、叫んでしまう。
「先生…私、私のせいです。彼は何も…」
「もういい!何も言うな!!」
リチャードはそんな彼女の腕を掴む。
「でも!でも!!」
「何も言うな!僕は構わない。
けど…パーシヴァル家と君自身。それにランスロット家のことを考えたら…
口にすることじゃない!」
リチャードに指摘され、また軽率な行動をとってしまったことに気づく。
「あ…! 私、また…ごめ、ごめんなさい…」
校長も教頭たちも目をむいて驚く。
13歳と12歳の少年少女が自分たちの家の名誉のためと
少女の名誉のためにあえて口をつぐもうとしている事実に。
「何か…深い訳がありそうですね。ミス・パーシヴァル?」
「…はい。」
落ち着いた少女に問いかける。
「あなたは先週月曜から金曜まで欠席してますね?」
「はい。」
「あなたのお母様のセーラ夫人からの連絡では「事故にあってショックで寝込んでいる」ということでしたが…
これに関ることなのですか?」
さっきまでとは違う優しい瞳で校長は問いかけた。
「はい。」
「そしてそれは…パーシヴァル家だけでなくランスロット家にも関る事件なのですね?」
「…それ以上はお答えできません。」
ふうと溜息をつく校長はしばらく考えた。
沈黙の後、言葉を続ける。
「わかりました。この噂のことは…違うことで打ち消すことです。」
「「はい。」」
「まずは…ミス・パーシヴァル。」
「はい。」
「今週末の校内コンクールで3位以内の入賞。
これが課題です。いいですね?」
「…はい。」
「それじゃ、レッスンに戻りなさい。」
「はい。失礼します。」
少々落ち込んだ顔で静かに退室する。
残されたリチャード。
そんな彼女を見送った少年の顔に浮かぶ不安そうな瞳を校長は見ていた。
「ところでリチャード=ランスロット。」
「はい。」
「あなたは…彼女をどう思っていますか?愛してますか?」
「え…僕は…」
ぐるぐると少年の胸の中で想いがめぐる。
そしてストレートに口にする。
「僕は…彼女が好きです。守りたいと思います。
けど…まだ愛なんて解りません。」
率直なその言葉を聞いて、顔に刻み込まれたシワを寄せて微笑みかけるシスター服の校長。
「それが愛ですよ。」
「え?」
「好きだから守りたい。大切にしたい。
それが愛ですよ。
大切にしてあげなさい。
ただし年齢と場所をわきまえてね。」
「…はい。」
校長の言葉が胸に刻み込まれていた。
「さて、ミス・パーシヴァルにはコンクールがありますが…
あなたへの課題は…」
ふうと溜息をつく校長は資料を見て彼に告げる。
「次のフェンシングの校外での大会… 3位以内入賞。これでいいでしょう。」
校外での大会― 国内のJrチャンピオンを決める大きな試合。
「…わかりました。頑張ります!」
「よろしい。では戻りなさい。」
「…はい、失礼します。」
リチャードが去った後、校長と教頭たちはふと思い出す。
窓の外の空を見上げる校長に教頭は呟く。
「やはり"5年目の伝統"は守られるんですね…」
「そうですね。今回、最年少じゃないですか?」
「中等部の1年同士…ですものね。」
「あれからもう5年…経ってしまっているんですね。
あの子達のことも昨日のことのように思えるのですが…」
遠い目をした校長には可愛い生徒達の姿が浮かんでいた。
校長達が呟いたのは伝統の"公認カップル"
5年に一度の割合でこういう事件がおきたあと、教師や周りの生徒達に認められる少年と少女の恋。
「前回は中等部3年のローザ=ブラッドリーと高等部2年のベネディクト=ソダーバーグでしたね。」
校長にとって遠い想い出ではない二人の生徒。
「えぇ、今年6月に結婚するそうですよ。」
「その前の二人は…高等部1年のリリー=ワトソンと中等部3年のスティーブ=エンセル。
確か5年位前に結婚したと…」
「そうです。」
微笑みあいながら校長たちは懐かしい顔を思い出していた。
「ではやはり今回も…?」
「おそらく。」
「じゃ、楽しみにしましょ。あの子達の結婚式の招待状を。」
「はい。」
窓の外の青空には鳩が飛んでいた―
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(2005/5/11)
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