becouse  of  you    -11-







―八日目…月曜

ファリアが学校に行くとざわついていることに気付く。
教室に入ると一斉に視線が集まる。
先週、復帰したときとはまるきり違う質の…多少軽蔑の入った眼差し。




「何…!?」

リズが近づいてくる。

「ちょっと…一体どうしたの?」

親友のリズもいつもと様子が違う。
強引に腕を引かれて教室を出される。




「何?どうしたの?リズ?」

ワケが解らずに戸惑う。
奥の廊下の壁に押し付けられて問い詰められる。



「ファリアさ… 土曜の馬術部の試合の後、どうしたの?
何があった? 言ってみてよ。私に言えない?」


「え…あ…」

覗き込む黒曜石の瞳が真剣な光を帯びていることに気付く。
怒っているのではない心配している親友の眼差し。

「ごめんなさい…」

「ごめんなさいじゃ、わかんない。説明してよ。どうしても言えない?」

「リズ…他の誰にも言わないで…くれる?」

「うん。誓って。私たち親友でしょ?」

仕方なしにリズにだけ話すことにする。


「…私…あの、あの土曜、部に出たときに先輩に…
ローレンス先輩に告白された。付き合ってくれって…」

「マジで!! あの…3年の?結構かっこいいじゃない。
で、どうしたの?」」

「断った。
やっぱりリチャードが好きだからって
…嫌われててもいい、彼が好きだからって言ったら…
彼のところに行けってピアノ室から出された。

それで…彼のところに行ったわ。」

「男子部に?あなたが?」

「うん。馬術部の厩舎まで。」

「よく行ったわね…。 今までひとりでなんて行った事なかったじゃないの?」

「そこで…謝ったの先週のこと。」

「そっか…」


リチャードも謝ったのだろうと容易に想像できる。


「そのあと彼の先輩に厩舎を追い出された…っていうか。
それで図書館に連れて行かれた。
真剣に謝ってくれたの。それに…」

「それに…?」


ファリアの顔が途端にぽっとピンクに染まる。

「ひょっとしてあなた…彼に告られた!?」

「あ…そ…そうなるの…かしら?」

「そっか…やっと言ったのか。良かったじゃないの。」

笑顔を見せてくれる親友リズに嬉しくなる。

「ありがとう。リズ。   …で、それが噂になってるの?」

困惑した顔で問いかける。



「それがさ…もっとすごい事になってる。」

「…え?」



ふうと溜息をついてリズは話し出す。

「ファリアたちが図書館の3階でキスしてたてことになってる。」

途端に顔が真っ赤に染まる。

「…あ …えっ… そんな…私、してない!」

「じゃ、告られたけど、キスはまだ?!」

「やだ!  そんなにストレートに言わないで!」

少々悪戯っぽい瞳で覗き込むリズ。

「ごめんごめん。 まぁ、リチャード君が言ってくれただけヨシとするか。」



「それで…噂になってるの?」

「そう、抱き合ってキスしてたって…多分男子部でも大騒ぎよ。
あなたの密かな信奉者がいるからね〜。」

「あ。たぶん、そうね…。女子部でこうなんだもの。
どうしよう私。」

困惑している親友の頭を撫でるリズ。

「こうなったら腹くくるしかないわよ。」

「…え!?」

「この際、公認カップルになっちゃいなさいよ。」

「ええーッ!!」

 ―公認カップル
   5年に一度くらいの割合で片方が大貴族、もう片方はそれなりのカップルで
   しかし周りにその仲を認められた二人のこと。

「先輩方みてみなよ。いるじゃない。それに出るとしたら今年あたりだよ?」

「だけど…彼も私もまだ1年生よ…」

「何言ってるの? 恋愛に年齢は関係ないわ。」

リズに言われると妙に納得出来る。

「リズったら…」

「私なんてさ、自分はこんなんなのに姉貴や兄貴のおかげで恋愛に敏感になっちゃったよ。
13なのに…」

くすっと笑ったファリア。

「あ、笑ったな〜」

「ちょっと羨ましい…  相談できるお姉さん達がいて…」

本気でそう思う親友の眼差しに照れ臭さを覚えた。

「あは…そうか。     

…ファリア、抱え込むんじゃないよ。」

「え?」


「いっつもそう。
一人で悩んで一人で解決しようとしてさ…
悪い癖だよ。
たまには私に甘えてよ。親友なんだからさ。」

思わず涙が溢れる。

「… リズ、ありがとう。
そういうこと言ってくれるのあなただけよ。」


綺麗なしずくが頬を伝っているその顔を見て、同性なのに可愛く感じた。


「ファリア…」

「ん?」

「私が男の子だったら絶対にあなたをお嫁さんにするわ。」

「へ?」

「私にないもの全部持ってる。
…可愛らしさも女らしさも。」

「リズ…私も リズが男の子だったら惚れてたかもね。」

「でっしょ? リチャード君振って、私のとこ来てよ!」

「ふふ。彼に振られたらそうするわ。」


二人して笑いあう。



「…今は大変だけど、頑張って。」

「ありがとう。」

「さ、そろそろ戻ろうか?授業始まっちゃったけどね。」

「そうね。」


笑顔で二人は教室へと戻る。
すでに数学の授業が始まっていた。

しんと静まる帰る教室に教師の声が響いていた。

静かに入る二人に注意する。

「ミス・パーシヴァル、ミス・マーシャル。何処に行っていたのです?」

「…。遅刻して申し訳ありませんでした。」

二人して頭を下げる。

普段から優秀な二人の女生徒だけに追及はなかった。

「まあ、いいでしょう。早く席に着きなさい。」

「「はい。」」






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(2005/5/11)


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