becouse of you -10-
七日目…日曜
10日ぶりに米国から帰ってきたファリアの祖父・パーシヴァル公爵と祖母のアニー夫人。
ビリヤードの世界選手権予選の為に渡米していた。
城に帰ってくる直前、孫娘の身の上に起こった事件を聞いていた。
大居間でお茶を前にして初老の祖父は孫娘の黒髪の頭を撫でていた。
「…ファリア。大変な目にあったようだね?」
「え…あ、はい。」
10日ぶりに会う孫娘が子供から少女の顔へと変わっていることに気づく。
それは祖母のアニーにとっても同じだった。
「落雷のあった木のそばにいたんですって?
大事に至らす何よりだけど…怖かったでしょう?」
優しいアンバーの瞳で祖母はその顔を覗き込む。
静かに微笑みを返す。
「はい…。でも、もう大丈夫です。心配かけてごめんなさい。」
手にしていたティーカップをテーブルに置き、孫娘のほおを撫でる。
「でも、3日も寝込んだのでしょう?
あまり無茶してはダメよ。」
「もう平気です。おばあ様。」
「そう?ならいいけど…」
おとなしく紅茶を飲んでいたアリステアが姉に擦り寄る。
「姉さま〜。僕、お願いがあるんだけど…」
「なぁに?」
「お部屋にあるチョコレート。
僕にもちょうだい!!」
7歳の弟は無邪気にねだるが速攻、断る。
今まではあげていたが今回だけは絶対にイヤだった。
「ダメよ。」
「なんで〜? いつもくれるのにッ〜!」
駄々をこねる弟に言い切る。
「ダメったらダメ!」
姉に断られてしまったので泣き出す弟。
そんなに強気になる孫娘を見て祖母は問いかける。
「何でダメなの?ファリア?」
「ダメよ。 だって…アレは… リチャードが私にってお見舞いに頂いたのだもの。
私の、私だけのものなの。
ステアになんかぜーったいあげない。」
珍しく声を上げて弟に言い切る姉・ファリアの様子に祖父も祖母も驚く。
「姉さまのケチ!」
「何ですって!?」
姉弟ケンカに発展しそうになるのを感じてなだめていたアニー夫人は孫娘を見つめたあと、
アリステアに微笑を向ける。
「まあまあ、二人とも。
…ステア。いいこと、姉さまにとってそれはとても大切なものらしいの。
だから私が買ってきてあげる。」
「ホント? ホントに?おばあ様?!」
嬉しそうに目を輝かせる幼い弟。
「えぇ、今度ロンドンに行ったら買ってきてあげますよ。
だからほら、今はこれで我慢してちょうだい。男の子でしょ?」
「…うん。」
そんなやり取りの中、祖父・パーシヴァル公爵は孫娘であるファリアを部屋から連れ出す。
「ちょっと、来なさい。」
「…はい。」
祖父の小書斎で立たされていた。
重厚なデスクに腰かけ、孫娘を見やる祖父の眼は少々険しい。
「大体のことはアーサーとセーラから聞いた。」
溜息混じりに言う。
ごま塩の髪の祖父の視線が痛い。
「…はい。」
「…大変な目にあったのは、お前が少々軽率な行動をとったためではないのか?」
「…はい。」
厳格な祖父に言われるとおりだと思う。
両親は怒らなかっただけに余計に祖父の言葉が重い。
みるみる落ち込む孫娘を見ても言葉を続ける。
「パーシヴァル公爵家の娘としてもうちょっと自覚してもらいたいものだな。」
「…すみませんでした。お爺様。」
頭を下げる孫娘の姿を見て目を細める。
「…解ればいい。まだ12歳とはいえお前は伝統あるパーシヴァル公爵家の娘。
そして現女王陛下の孫娘でもあるんだぞ。
しっかりしなさい、いいね。」
「…はい。」
祖父の言いたいことが理解できるだけに、胸に重い言葉。
ますます萎縮する可愛い孫娘を前に問いかける。
「ところで…ファリア。 ひとつ聞きたいことがある。」
「はい。何ですか?」
「…お前、ランスロット家のリチャード君のことをどう思っとる?」
一瞬、鼓動が止まった気がした。
思いもしなかった問いかけにあわくってしまい言葉にならない。
昨日の今日だけに余計に恥ずかしさを感じていた。。
「えッ…あの…その…」
顔を真っ赤にしている その様子ですぐに解った。
「あぁ。もういい。言わずとも解る。」
ぼっと顔から火が出そうだと感じていた少女がいた。
「…ごめんなさい。お爺様。」
「謝る必要はない。」
椅子から立ち上がり、まだ小さな両手を取るパーシヴァル公爵。
じっと母親譲りのサファイアの瞳を覗き込む。
「…ファリア。」
「はい。」
「お前にはいずれ、貴族の家に嫁いでもらわねばならん。…解るな。」
「…はい。」
「5年後…いや10年後には嫁いでもらうことになるだろう…」
「はい。」
そういわれた少女の心に不安が生まれる。
貴族の家柄…
彼だとは限らないかもしれないと。
「まあ、ランスロット家なら問題ないな。」
「!! お爺様!?」
想像もしなかった祖父の言葉に心臓が止まりそうになる。
「お前が年頃になった時、もし気持ちがあればだがな。」
「あ…」
両手をぐっと握る祖父の手。
「だからパーシヴァル家の令嬢としてしっかり勉強して、立派なレディになってくれんとな…」
「…はい!!お爺様。」
その瞳を見て満足そうな顔を見せる公爵。
「…もう行っていいぞ。」
「はい。失礼します。」
一礼をし、扉を静かに閉めて立ち去る孫娘。
本当なら可愛くてしょうがなくて手放したくない。
しかしそういう訳には行かないことも良く解っている。
椅子に腰を下ろしふうと溜息をつく。
「あとは…リチャード君の気持ち次第だな… まあ あの様子なら大丈夫…か?」
ひとりごちる公爵の目の前の大窓には青い空が広がっていた。
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(2005/5/10&11)
(2007/2/13加筆)
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