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becouse of you -9-
―その頃、馬術部の厩舎
リチャードは大きな溜息をついていた。
"最下位"
今の自分では仕方ないと納得していた。
彼女を傷つけ、寝込ませてしまった罰だと。
リチャードの両脇の馬屋…
今回優勝した3年のアビゲイル=ハーヴィーと準優勝した2年のクラウス=ラッセルは
リチャードのコンディションの悪さのおかげで得た順位だと言うことをよく理解していた。
だから本気で嬉しくなかった。
彼が本調子なら間違いなく優勝していたのだから。
そこへ駆け込んできたのは…ファリア=パーシヴァル。
ハーヴィーとラッセルはその様子に少し驚く。
明らかに走ってきたため上がっている呼吸、赤く泣き腫らした目。
リチャードとの仲を気づいているため、二人は黙って見守っていた。
馬にブラシをかけながら溜息をつくリチャードの姿。
日曜の時とまるで違う彼に驚く。
小さな声で彼の名を呟く。
「… リチャード …」
不意に名を呼ばれ顔を上げるとそこには泣きはらした目の彼女の姿を認めた。
「…!! ファリア! 君…学校来て大丈夫なの?」
思わず駆け出す少女を抱きとめる。
「うん…。ごめん…ごめんなさい、リチャード…」
かたわらで馬は優しい瞳で見守っていた。
「ごめんなさい。リチャード。ずっと…来てくれてたって…」
「…僕の方も悪かった。ごめん…」
ぐすぐすと泣きじゃくる彼女の背を撫ぜている。
両脇の先輩二人は自分より幼い彼の抱擁を覗き込んで告げる。
「おい!リチャード!!」
ハーヴィーはバツが悪そうな顔。
「は、はい!」
思わず呼ばれた彼はびっくりながらも先輩に応える。
「お前…女の子泣かせてる場合か?
なにやらかしたんだか知らんが、場所考えろ。
厩舎では勘弁してくれ。 なぁ、ラッセル?」
「まぁ~、そうですね、先輩。」
少々悪戯っぽい瞳でラッセルはハーヴィーの横に立つ。
「ほら、さっさと着替えて行けよ。あとは俺たちで片付ける。いいな。」
少年が戸惑う顔を見せるので さらに言葉を続ける。
「…何やってる? 俺たちは英国紳士だぜ。
馬なんかより可愛い女の子だろが。」
「そうですよね~。俺も乗るんだったら馬なんかより…ッて!先輩!!」
ハーヴィーは後輩のアホな発言に頭を小突く。
「ま、こいつの言葉は気にするな。ほら!」
「は、はい。失礼します。」
ハーヴィー先輩に促されやっと少年は少女の手を引いて厩舎を出て行く。
リチャードとファリアが去った後に残された二人は笑い会っていた。
「ったく…乗馬の技術はあってもまだまだ子供だな。」
ハーヴィーはリチャードの馬にも毛布をかけてやっていた。
「でも俺たちもまだ14と15なんですけど?」
「何言ってる? 毛、生えてるだろ?」
下品なネタで笑いあっていた上級生の二人。
***********************
リチャードはすぐに乗馬服から制服に着替える。
やっと涙が落ち着いた彼女を静かな図書館へと連れて行く。
ここだと男子部と女子部の合同施設だけに一緒にいても注意されない。
3階奥の窓際の片隅にリチャードは彼女の手を引いて向かう。
リチャードはファリアの目の前でひざまづく。
「ごめん。ファリア…
君をあんな酷い目に合わせてしまっておいて…寝込ませて…
許してくれなんて言えない。
でも…
やっぱりごめん。
僕がちゃんとあの時、君と一緒にいればそんな目には…」
言葉につまり涙をこらえるリチャードの姿。
いつも自信に溢れている勝気な彼ではない。
彼の前にしゃがみこむ。
「私のほうも…ごめんなさい。 私、短気だったわ。」
「…え?」
思わず伏せていた顔を上げると、綺麗なしずくがつうとほおを流れていた。
「だって…ずっとずっと待っていれば良かった。
あなたが振り向いてくれるまで。
ごめんなさい…大嫌いなんて言って 私、ホントは…」
彼女の唇をひとさし指で押さえる。
「待って…それから先は僕に言わせてくれ。」
「…リチャード…」
「僕は…君が好きだ。大好きだ。 君が僕を嫌っても…僕は…」
「私も…私も…あなたのこと、リチャードの事… 好き…」
お互い初めて、無邪気でない想いをこめた"好き"と言う言葉を口にした。
思わず抱きついてきたファリア。
その背に手を回し抱きしめるリチャード。
今は10センチほどしか変わらない背丈。
少年の制服の肩に少女の涙が染み入る。
「…ファリア。」
「ん?」
「もう少し…こうしてていい?」
「…うん。」
背に回した手に触れる黒髪の柔らかな感触
華奢な体の柔らかさをぬくもりを感じていた―
そこはめったに人が来ない場所。
けれどある人物が抱き合う二人を見つけてしまう。
一瞬驚いたその人は抱き合う二人が誰かすぐに解った―
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(2005/5/10)
(2007/2/13加筆)
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