becouse of you -8-
四日目…木曜
熱が下がったとはいえかなり体力を消耗していたために、丸一日 城にいることに。
この日もリズは学校帰りに寄って、課題と授業の進み具合を伝えていた。
五日目…金曜
顔色も随分良くなって、城の中を歩き回れるほど回復していた。
勉強も遅れを取り戻すためにいつもは週2回の家庭教師も特別に来て貰っていた。
六日目…土曜
授業も半日だけということで久々に学校に行く。
教室に入るとクラスのメンバー(といっても20名いるかいないか)がファリアの元に集まる。
「大丈夫なの?」
口々に問われはにかんだ笑顔で答える。
「もう大丈夫よ。」
クラスメイトのひとり・リリーが言う。
「リズから聞いたの。3日も熱が下がらなかったって…」
「うん…。」
そうなった原因は話されていなかった。
「ねぇ、午後の馬術部の校内試合、見に行くんでしょ?
いつも行ってるもんね。」
クラスメイトのアンに問われる。
「え、あ。行けないわ。ずっと音楽部も休んじゃってたから…
顔出さないといけないし…」
「そっか、残念だね。」
クラスメイトが今日の馬術部の試合のことを話していた。
「前評判ではランスロット君が優勝候補らしいんだけど
何か彼、今週 絶不調らしいよ。」
「ふ〜ん、何かあったのかな?」
ファリアの耳には入っていなかった。
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―午後
校内の敷地の端にある馬術の練習場での中・高等部の校内試合。
下馬評では中等部一年ながらリチャードが優勝候補だった。
「何? どうしちゃったの…?」
観衆の反応は驚きを隠せないものだった。
キレも勢いも覇気もないリチャードの試合内容。
結果は散々だった。
12人のエントリーの中の12位という屈辱。
「どうしちゃったのよ〜?」
その光景をリズは冷ややかに見つめていた。
彼女には原因がわかっていた。
―その少し前
ファリアはピアノ室で中等部3年男子のギルバート=ローレンス子爵子息とレッスンしていた。
「君… 馬術部の試合、見に行かなくていいのかい?」
「えぇ。5日も学校も部も休んじゃったし…取り戻さないと。
来週、校内コンクールですし…。」
「いつも行っているのにいいの?」
「…はい。」
「ふーん…。」
譜面を置き、初見の練習を始めようとする少女がいた。
2台並んだピアノの椅子の上で少し考えてたギルバート。
おもむろに話し出す。
「あのさ、ミス・パーシヴァル?」
「はい?」
指を慣らすために軽く鍵盤を叩いていたファリア。
「ちらっと聞いたんだけど… 1年のランスロット君と付き合ってるってホント?」
バーンと思わず鍵盤を叩いてしまう。
少女の頬は真っ赤に染まっている。
「…え?! あ、あの…その… 付き合ってるってほどじゃないです。
幼馴染で…」
「そうなんだ…。じゃあさ、僕、立候補していい?? ずっと前から君の事、可愛いなって思ってたんだ。
ダメ?」
突然の告白に狼狽する。
「…え、あ…」
腕を引かれ抱きしめられる。
覗き込むオリーブグリーンの熱い瞳。
「やッ… ご、ごめんなさい。私…私…」
泣き出してしまった少女は床に座リ込む。
「やっぱダメか…」
「ごめんなさい。先輩。私…やっぱり… 彼が好き…」
「たぶんそうだろうと思った。
何があったか知らないけどさ、見に行ってあげた方がいいんじゃない?」
「…え?」
思わず顔を上げる。
「男なら…君に好きって言われたら応えないヤツなんていないよ。
パーシヴァル家のご令嬢ということを外してもね。」
戸惑い、床に座り込んだファリアの顔を覗き込み、ギルバートは告げる。
「ちゃんと彼に言った事ある?」
ふるふると首を横に振る。
「いいえ。でもひょっとしたら私のことなんて…」
「何言ってるんだい? 君がこんなに可愛い女の子なのに…
断るヤツがいたら そいつはソドムの男だよ。」
その言葉でやっと笑顔が出る。
「ローレンス先輩…」
「言ってあげなよ。
ちょっと僕からすれば悔しいんだけど。
それとも…彼を忘れさせてあげるから、僕と付き合うかい?」
優しい瞳で微笑まれ、戸惑いを隠せない。
「あ、あの、あの…」
困惑していても可愛いなと思うギルバートだったが言葉を続ける。
「それでもやっぱ、彼(リチャード)が好きなんだろ?」
こくりとうなずく。
「じゃ、立って。」
手を取って立たされる。
「ほら、行っておいでよ。」
ぽんと背を叩かれる。
「ただし、戻ってきたらレッスンには付き合ってもらうよ。」
「…はい。」
やっと少女は吹っ切れた顔で馬場へ向かって走リ出す。
向かう途中で、試合が終わってしまっていることに気づく。
観衆が戻ってきているために少女は逆送していることになる。
「ファリア!?」
「リズ…試合、どうなったの?」
「…ちょっと来て。」
観衆の流れからはずれリズの手に引かれ校舎の外れに連れ出された。
「散々だった…最下位だったよ。リチャード君。」
「え…?」
「前評では優勝候補だったんだけど…練習不足とあれは…気力がなかったっていうか
なんていうか…」
「…最下位?リチャードが? そんな…」
「そう。明らかにコンディション最悪って感じ。ま、しかたないか…」
思わず大粒の涙が少女の瞳から溢れた。
いつも上位。もしくは優勝。
そんな彼が最下位…
きっとプライドがズタズタだろうと思うと辛かった。
「それだけじゃないと思うよ、私。
馬との連携もまるで取れてなかったし。落馬しなかった方が奇跡だよ。」
「そんな…」
リズを放って駆け出す。
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(2005/5/10)
(2007/2/13加筆)
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