becouse  of  you    -6-




―夕方6時前

ランスロット公爵とリチャードがローレン城に見舞いに来た。



この時間の少し前、ファリアの熱はまた上がっていた。
呼吸が苦しそうなので点滴の処置をされている。



応接間に通されたリチャードと公爵。


「ランスロット公、リチャード君。わざわざお見舞いに来てくださったの?」

対応に出たのは伯爵夫人セーラ。


「昨日は…大切な令嬢を大変な目に合わせてしまったことをお詫びに。
それとお見舞いを…。」

「それはご足労でしたわね。」

「すみませんでした。僕…」

ここまで落ち込んだ少年を初めて見たセーラは少々驚いていた。
もちろん非がないわけではないが責める気持ちは毛頭ない。

「でも、申し訳ないのですけど、今日の娘には会わせることは出来ませんわ。」

「…え?」

「昨夜から熱を出して…寝込んでいます。お昼に少し下がったけど、また…」

苦しんでいる娘と代わってあげたいと思う母心。

「…そうですか…。わかりました。また来ます。」

「ごめんなさいね、リチャード君。お花は娘の部屋に飾りますから…」

「それでは、私たちはこれで失礼します。お大事に…」


「ありがとうございます。」



ランスロット城へと帰っていく公爵と息子。

終始、言葉少なかったリチャードに父は心配になる。

今日は学校でもため息ばかりだった。





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二日目…火曜

今日はひとりで昨日と同じように見舞いに来るリチャード。

学校の授業を終えてロンドン市内で花とお見舞いの品を買って訪れた。
しかし昨日と同じように高熱で会うことは叶わなかった。


「ごめんなさいね、リチャード君。ずっと熱が下がらないの…
とてもじゃないけど…」

セーラは連日来てくれる少年に申し訳なく思うけれど どうしようもなかった。

「いいえ… 僕が悪かったんです。僕が…  すみませんでした…」

「そんなに自分を責めちゃダメよ。私は少し感謝してるのよ。」

「え?」

美貌の伯爵夫人に笑顔を向けられ驚く。

「あの子…ずっと寂しかったみたいなの。」

「…ファリアが?!」

「そうよ。私も…あまりあの娘に構ってあげてなかった…
今は発熱を理由にずっとそばにいてあげられるから。
ちょっと娘には悪いけれど。」

彼女と同じ綺麗なサファイアの瞳の夫人に言われ少しはにかむ。

「僕は…あの日、あんなつもりじゃなかったんです。
早くキング号に慣れて…早く彼女を乗せてあげたいって…」

その言葉を聞いてやっと少年のあの日の行動に納得がいった。


「そうだったの…あの娘が元気になったら、乗せてあげてちょうだいな。」

「はい、もちろんです!」

やっと笑顔を見せる少年にほっとした夫人。

「それじゃ、よろしくね。」

「あ、じゃ、僕はこれで失礼します。 って…これ、ファリアに。」

持ってきた花束とラッピングされた箱を渡す。

「早く元気になって欲しいって… 謝ってたって…もし気がついたら伝えていただけますか?」

「もちろんよ。ちゃんと伝えるわ。」




セーラ夫人は娘とリチャードの間に起こりつつあることに喜びを感じていた。




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三日目…水曜

この日も学校に姿を現さないファリアを心配していたのは親友のエリザベス=マーシャル伯爵令嬢。
親友とは真逆のタイプで少し勝気で男勝りの貴族らしい少女。
一見、ちょっと怖そうに見えるが実は優しいことを誰よりもファリアが理解していた。



昨夜 心配したエリザベスはローレン城に電話をしていた。

日曜の昼前に電話で話したときは元気だったファリア。

本人が電話口に出れる状態ではないことを乳母のベアトリス夫人から聞く。
彼女の身に起こった事を聞いたエリザベスは、
この日の午後の男子部女子部の合同礼拝のあと、リチャードを呼び止めた。

エリザベス…リズは少々驚く。
こんなに気落ちしたリチャード=ランスロットを見たのは初めてだった。



クラスメイトから引き離し、大聖堂の裏手に連れて行く。

「ねぇ、リチャード=ランスロット。ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

「何だい?」

リチャードもリズが彼女の親友だと言うことをよく知ってるから、
その瞳の奥に見える彼女を心配している心情がよく解った。

「…ファリアのことだけど…」

そうくると思っていたのですぐに答えていた。

「僕が悪かったんだ。 彼女をあんな目にあわせた元凶は僕なんだ…」

「……大体の話はあの子の乳母のベアトリス夫人から聞いた。
とーぶん会わないほうがいいんじゃない?」

ファリアとリチャードの同じ年のリズだったが、4歳年上の姉と5歳年上の兄がいるおかげで
男女の仲に関して少々早熟(?)でしっかり者だった。

「あぁ、わかってるさ。けど…ちゃんと謝りたい。」

「ふーん、そう。でも今日は行かない方がいいよ。
私がお見舞いに行くから。」

「あ…そう。」

ここまで覇気のないリチャードに拍子抜けする。
普段の彼なら相手を制し、自分が行くと言い張るだろう。


足早に去っていくリズの後姿を見送るリチャードがいた。


馬術部に一応出るが馬との連携が上手くいかない。
イージーミスを連発する彼を見て先輩に馬場から出ろと怒られていた。







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(2005/5/10)



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