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becouse  of  you    -5-





―ランスロット城

部屋に残された少女が身に着けていた服を見て公爵と少年は驚いていた。

木の枝で引っかいて裂けているスカートはボロボロ、
ブラウスの袖口も同様に裂けていた。
靴下も靴も、髪を飾っていたリボンまでが泥と雨で汚れていた。


リボンを握り締め女々しく泣き崩れる少年。

「うッ…ごめん。ごめん…ファリア…」


「リチャード… お前、あの娘を失いたくないだろう?」

まだ子供の息子の肩を抱きしめ父は言う。


「うん…」

「明日、ちゃんと謝ろうな。許してもらえるまで、男らしく。」

「…はい。」


そこへ臥せっていた少年の母・メアリ夫人が部屋に入ってきた。
部屋の中での夫と息子の姿にぎょっとした。

「あなた…執事から聞きました。大変な事になりましたわね。」

「母上…僕が…僕が…」


言葉にならない息子の思いに気づくがきつい一言を告げられる。


「…いつも言っているでしょう?
女の子はデリケートなのよ。
英国紳士らしく優しくしてあげないと。」

言い返さない息子の肩を抱き じっと目を見るメアリ夫人。

「あぁ、メアリ。もう十分反省してるよ、リチャードは。」

「そのようね。 …もう泣かないの、男でしょ?
…明日、謝罪に行くのでしょう?」

こくりとうなずく。

「毅然と立派に謝ってきなさい。」

「…はい。」






***************


深夜になり少女の熱は上がる。
平熱が低いため39度ではかなり辛そうであった。



苦しそうに呻く少女の傍らでベアトリス夫人と母は看病している。
医師が点滴を施しなおし、解熱剤を置いていったがそれでもなかなか下がらない。
全身汗びっしょりになるので朝までに2度ほど着替えさせた。





―早朝

セーラ夫人は自分の秘書を呼んだ。

「3,4日、私の予定をすべてキャンセルして欲しいの。」

「…はい。かしこまりました。理由は…お嬢様の看病でよろしゅうございますか?」

「そうよ。」



セーラの秘書はすぐに動いた。




少女の5歳年下の弟・アリステアも乳母に付き添われ心配そうに姉の様子を見に来た。

ベッドの上で赤い顔をして横たわる姉を見て驚いていた。

「姉さま…大丈夫なの?」

母を見上げて7歳のアリステアは問いかけた。

「ちょっとお熱があって… 学校に行けないの。
ステア、あなたはちゃんと行って来なさい。。」

「…はい。」


姉の様子を見たアリステアは心配そうな顔をしたまま学校へ向かう。






昼前になってやっと少し熱が下がる。


意識もちゃんとあったがまだ熱があるので赤い顔。


「お母様…ずっとそばにいてくれたの? 今日のお仕事は?」

「全部、キャンセルしたわ。」

「本当?」

「だからここにいるでしょう?」


ぐすっと泣き出してしまう娘を抱きしめる。



「…大変だったわね、ファリア。」

「…お母様。」

「ほら泣かないで。体力を消耗しちゃうから…。」

「ごめんなさい。でも…うれしい。」

「え?」

泣きながら笑顔を見せる。

「だってお母様、いつもお忙しくて…朝食のときだけしかお顔を見ないから…」

「あぁ、ごめんなさいね。
でも解って頂戴。 世界中の人たちの為に、困っている人たちの為に
活動しているの知っているでしょう?」

「解ってる。でも…」

母が王室出身で婦人団体と慈善団体で活動しているのを誇りに思う一方、
家にいない淋しさを感じていた。
それは弟も同じこと。

抱きつく娘の背を優しく撫でる。



その光景を見ていたベアトリス夫人の目にも涙が浮かぶ。




「あぁ、ごめんなさい。わかっているつもりでも…淋しい思いをさせていたのね。」

「こうしていてくれるだけで嬉しい…」

「あぁ、ファリア。 だから甘えなさい。そばにいてあげるから。」

「うん…。」

「でも、お薬だけは嫌がらずに飲んでね。いいわね?」

「…はい。」

「もう少し横になってなさい。まだお熱があるんだから。」

「はい。…ねぇ、お母様。ひとつお願いしたいことがあるのだけど…?」

「あら、なぁに?」

少し照れ臭そうに少女は母に言う。

「子守唄歌って…。子供の頃のように。」

「ま!」

「子供っぽいって思ってくれていい。私、お母様の子供だもの。」

驚く顔が微笑みに変わる。

「ふふ…そうね。 12歳でも20歳になってもずっとあなたは私の大事な娘。」

「ありがとう、お母様。」




弟が生まれてから歌ってもらうことのなかった子守唄。
少女は微笑みながら聞いていた―


しばらくして寝入る娘の頬にキスをする。







*****************


3時を過ぎて目覚めた少女の元にオートミールとフルーツが運ばれる。
点滴で丸1日過ごしたため、これくらいしか口にすることが許されなかった。



  (ちょっと苦手… オートミールって…)


そう思いつつ口に運ぶ。
傍らで母が笑顔で見つめていたから。

少し顔色が良くなったので尋ねる母。


「ねぇ、ファリア。…昨日、ランスロット城で何があったかお話しできるかしら?」

「…あ、えぇ。はい。」

少し影が出る娘の顔を覗き込む。


「昨日、お父様と一緒にランスロット城に行って…すぐにリチャードが厩舎にいるって聞いて、行ったわ。
するとリチャードったら私が来たことに気づいているのにずっと馬の世話してて…
話しかけても上の空で…生返事ばかりだった。」

「上の空? リチャード君が?」

娘の言葉に少々驚く。

「うん。『リチャードなんか知らない!! バカッ!』って言ったのに追いかけても来てくれなかった…」

「あらあら…」

「それで気づいたら温室にいたの。綺麗な薔薇のつぼみがあって…
それを見ていたら庭師のスウィントンさんが話しかけてきてくれて…」

「あの薔薇の品種改良で有名な人ね?」

「その人に私、『この薔薇みたいになりたい』って言ったの。」

「『この薔薇?』」

「新しい薔薇だって言ってた。一輪だけで植木鉢にいて…
とても綺麗なピンクの薔薇…。この子みたいに一輪で咲こうとしてる
その花みたいになりたいって…」

「そしたら?」

「それは違うって否定された。 
『薔薇はお陽さまや水、庭師のお手入れで咲くんです』って。
そして私のことも『…両親や家族の愛情で咲けるって…』
その時、『リチャードの気持ち』もって…」

「それがきっかけ?」

「きっかけっていうか… 上手く言えないんだけど…
彼の気持ちが解らない。
少なくとも昨日の彼には私なんか眼中になかった。
だから悲しくて寂しくて辛くて…逃げ出した。気づいたら森の中で…」

「そこで雨に降られて雷が目の前で木に落ちたのね?」

「うん。怖かった。もうダメだと、死んじゃうかと思った…」

身体を震わせ瞳から涙が溢れる。
そばにいたベアトリス夫人も涙を流していた。
セーラは娘を抱きしめる。


「寂しかったからなのね? 悲しかったからなのね? 飛び出したのは?」

「…うん。」

母の腕の中で震えていた。

「解ったわ。何も悪くない。でもひとつだけ言わせて頂戴。」

「なぁに?」

「…男の子はね、他の事に夢中になると女の子の事を忘れてしまうことがあるの。
解るでしょ?  あなたも彼のこと、忘れることあるでしょ?」

「私…そんな事ない。…ずっとリチャードの事、好きなんだもの。」

「だから相手にされないで余計に辛かったのね?」

こくりとうなずく。

「そうだったの…そんなに。」

しばらく口を閉ざす母娘。



「ファリア。あなた、リチャード以外に夢中になれるものを探しなさい。」

「…え?」

「寂しさを紛らわすための手段を探しなさい。」

「お母様…?」


そう言われ やっと少し母のことをわかった気がした。
両親の仲はいいことは解ってる。
けど時々、母が寂しげな顔をしているのを知っていた。

だから外で精力的に活動しているのだと。

「…わかった、お母様…」


黒髪を撫でる母の手がとても温かいと感じていた少女。

「さ、少し休みなさい。疲れたでしょう?」

「…はい。」







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(2005/5/10)
(2007/2/13加筆?)



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