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becouse of you -3-
涙を拭くこともしないままファリアは木立の中を駆け抜けていく。
いつの間にか城の敷地から出てしまっていた。
周辺が木立から鬱蒼とした森へと変わっている。
「う…ッ バカ!…知らない! あんなリチャードなんて…嫌いよ…」
スカートの裾を木の枝に引き裂かれながらも走っていた。
思い切り 木の根に足を取られ転倒する。
「う…痛。」
ひざをすりむき、血が滲んでいた。
途端に自分の置かれている状況に気付く。
ランスロット城の白い塔が遠く見える。
「やだ…ここ、どこ?」
見回すと鬱蒼と茂る森の中。
しかも晴れていた空ににわかに広がる暗い雲。
みるみる間に雨粒が落ちてくる。
ごろごろと低く嫌な音が空を走った。
「やッ…怖い。 怖いよ… お父様、お母様…」
さっきまでと違う涙が溢れだす。
降り出した雨のせいでぬかるむ足元。
跳ね上がる泥で靴も靴下もスカートも汚れていた。
しゃくりあげながら仕方なしに歩き出そうとした時、
目の前のひときわ大きな木に稲光が落ちた。
激しい音と衝撃でうずくまる。
「きゃあああーーーッ!! お父様ッ!リチャードッ!!!」
思わず叫んだ彼の名に戸惑いはなかったがそのまま倒れこむ。
容赦なく雨が少女を濡らしていく―
*****************
雷が落ちる少し前
ランスロット城では騒ぎが起きていた。
リチャードのところにもメアリ夫人のところにもパーシヴァル公爵家令嬢の姿がない。
気づいた庭師が報告した時点で城内をくまなく探したが見つからないということで
執事頭アンダーソンが主人ランスロット公爵エドワードと客人であるパーシヴァル伯爵に報告しに行く。
書斎で仕事の打ち合わせをしていたため誰も来ないようにと言っていたにも関らず
アンダーソンが悲痛な面持ちでやってきた。
「旦那様…そしてパーシヴァル伯爵。申し訳ありません。
大至急の報告があります。」
「一体、何だ?! いいつけを破る程の事か?」
少し憤慨していたランスロット公爵は想像もしなかった言葉を聞く。
「それが…ファリアお嬢様のお姿が城内に…おられないのです…」
窓の外では雨が降り出していた。
ランスロット公爵もパーシヴァル伯爵もみるみる顔色が変わる。
「どういうことだ!!」
思わず主人に声を荒げられ、いすくみながらもアンダーソンは応える。
「それが… リチャード様のところにお姿を見せた後、薔薇の温室でおひとりでおられたそうで…
それから行方がわからなくなっておいでです。」
「「!?」」
「今、使用人を総動員して探しておりますが、おそらく城外へ…」
「城外へ?」
「はい。最後にお嬢様を見た庭師のスウィントンによりますとその…」
口ごもるアンダーソンに苛立ちを覚える。
「…言いにくいことなのか?」
「『リチャードなんか大嫌い!!』と叫んでおられたそうで…」
「何だ?ケンカでもしたのか、あの二人は…?で、当のリチャードは?」
「今、使用人たちと一緒にお嬢様を探しておいでです。」
「呼んでこい!!」
「は…はい!」
アンダーソンは書斎を飛び出して行く。
10分ほどしてリチャードが雨に濡れた乗馬服で書斎に現れた。
「お前!一体何をしたッ!!」
いきなり父親に怒鳴られすくむリチャード。
本気で怒っている父親を怖く感じながらも応える。
「僕は…僕は… 何も、していません。」
息子の言葉に少々驚く。
「じゃあ何故、あの娘はお前を”大嫌い”など言うのだ?」
「え…? ファリアがそんなことを?」
「あぁ。庭師が聞いておる。」
少年は握り締めた拳を震わせていた。
ぽたぽたと雨のしずくがカーペットに落ち、シミを作る。
パーシヴァル伯爵はソファから立ち上がり、近づいて少年に視線を合わすためにしゃがむ。
「リチャード君。 今日、私の娘に会った時のことを話してくれないか?」
「そ…その、僕は厩舎にいてキング号の世話をしてました。」
「それで?」
「彼女が来たのは知ってました。
けど、ずっと僕を見ていて… しばらくしたらいなくなっていたんです。
僕は何もしていない…」
伯爵は怒らずに優しく問いかける。
「…「しばらく」ってどれくらいの時間だね?」
「確か…馬丁のキャボットが”40分以上前に到着されています”って言ってた。」
ふうとため息をつく伯爵はまだ問いかける。、
「30分強くらいといったところか…その間、話は?」
「いいえ、全然。」
はあとふたりの父親はため息をつく。
「それは…リチャード、お前が悪い。」
父親にはっきり言われ戸惑う。
「え…?」
「確かにお前にサラブレッドのキング号が来て嬉しいのはよく解る。
しかしだ、この場合、レディが最優先。
つまりファリアを優先すべきだった。
お前のことを”大嫌い”と言わせるほど機嫌を損ねたと言うことだ。」
怒りではなく呆れたような口調で父親は告げる。
「まだ子供…と思っていても女の子のほうが精神的に早く大人になる。
リチャード君を一方的に責めるのは酷だよ。私も気持ちはわかる。」
そんな伯爵に公爵は申し訳なさそうに口にした。
「しかしだな、ウチの息子がちゃんと相手をしていればこんなことには…」
「雨も降ってきたことだし戻ってくるだろう。」
その時、激しい雷鳴が響く。
3人が書斎の窓の外を見ると木に落ちたと言うことが解った。
炎がゆらめき燃え上がるのが見えていた。
少女の姿が見えなくなって一時間が過ぎようとしていた―
使用人のうちの二人が燃え上がる木の様子を見に来て倒れている令嬢を発見した。
すぐに城へ連絡が入る。
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(2005/5/10)
(2007/2/13改稿)
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