becouse of you -2-
その頃、ファリアは庭園の一角にある薔薇の温室にいた。
ランスロット家の庭師は薔薇の名人と呼ばれ
品種改良のコンクールで何度も入賞するほどの腕前の持ち主。
手入れの行き届いた温室で少女は
植木鉢に一輪だけのつぼみの薔薇を見て、思わず見とれた。
(綺麗…)
可憐なベビーピンクの薔薇のつぼみ。
どんな花が咲くのか想像出来ないほど可愛らしいたたずまい。
ふいに自分みたいだと感じた。
植木鉢にただひとつだけの薔薇。
「ねぇ… ひとりで淋しくない?」
呟く少女の目にうっすらと涙が浮かぶ。
思わず座り込み、薔薇をじっと見つめる。
温室の奥から例の庭師・スウィントンが出てきた。
人の気配を感じた彼の視線の先には、黒髪の幼い少女。
(あ、確か…パーシヴァル家の…)
令嬢がひとりでいることを不思議に思いながら近づき声を掛ける。
「…ファリアお嬢様。珍しいですね、おひとりですか?」
視線を上げた先に40前半のここの庭師が立っていた。
「あ… 庭師の… えっと、スウィントンさん?」
「覚えておいででしたか…嬉しいですよ。」
日に焼けた顔に笑顔を浮かべて庭師は横に立つ。
「ねぇ、この子…新しい薔薇なの?」
「そうですよ。」
「私…この子みたいになりたいな…」
「確かにお嬢様みたいに可憐な薔薇になりそうですよ。」
にっこりと優しい笑顔で庭師は答えていた。
しかし少女は少し悲しげな笑顔を浮かべる。
「違うの…。だって一輪だけでこうして咲こうとしてる。 ひとりで。」
その言葉を聞いて庭師は立っていたのに少女の視線にかがみこむ。
「それは違いますよ、お嬢様。」
「え?」
「この薔薇は… お陽さまの光と水、それに私の手入れでこうしてつぼみをつけたんです。
…お嬢様も同じですよ。
ご両親やご家族の愛情を受けてここまで可愛らしくお育ちになられた。それに…」
「それに…?」
庭師の言葉の続きが気になる。
「リチャード坊ちゃんの気持ちも…」
彼女を喜ばせるつもりで言った言葉だったが、今日は逆効果だった。
「!! …リチャードの気持ちなんてない…」
「え?!」
「大ッ嫌いよ! あんなリチャード!」
大きな瞳から涙を溢れさせ温室から飛び出す。
突然の出来事に驚くスウィントン。
飛び出していった少女を追いかけようとするがすでに姿を見失っていた。
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(2005/5/10)
(2007/2/13改稿)
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