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2079年 4月

やっと英国に春の陽光が射す季節になった。

ランスロット城の敷地の一角にある厩舎。

子息リチャードは新しく来たサラブレッドのキング号を馬丁任せにせず
自らすすんで世話をしていた。
キング号のほうも新しい主人の少年に懐きつつあった。




***************




週末のローレン城にはパーシヴァル一家が揃っていた。


パーシヴァル公爵家の跡継ぎでもあるアーサー=パーシヴァル伯爵は仕事のことで週末にもかかわらず、
隣の領地を治めるランスロット公爵こと王室特別情報部部長に会いに行くことになっていた。

その日の朝食の席でアーサーは12歳になる娘に声を掛ける。

「ファリア…今日、午後からランスロット城に行くが一緒に行くかね?」

「…え?! でもお父様。 お仕事なんでしょう?」

目を丸くして驚く娘に父は優しい顔を向ける。

「まぁ、私は仕事だが… お前は別にメアリ夫人やリチャード君に会っていればいいさ。」

「…ありがとうお父様。 同行させていただきます。」

「はは…」

はにかみながら応える娘に声を上げて笑う父。
その光景を母・セーラと弟・アリステアは笑顔で見守っていた。






そして午後、父娘は車で40分ほどかけて隣の領地のランスロット城へと向かう。



執事にリチャードが厩舎にいると聞き、向かう少女の姿があった。

チェックのプリーツスカートをひるがせ、黒髪を揺らして走っていく。



春のうららかな天気の中、頬にかかる風を心地よく感じながら木立の中を歩く。

敷地の端にある厩舎に到着し、覗き込むと白いサラブレッドにブラッシングしてあげている少年がいた。


「…リチャード。」

不意に声を掛けられ振り返ると少し驚く目を向けた。

「あれ、どうしたの?今日は来る予定じゃなかったよね…??」

「うん。そうだったんだけど…お父様に連れてきてもらったの。」

「…そうなんだ。」



リチャードはキング号をよしよしと撫でる。
白い立派なその馬は彼に鼻を摺り寄せていた。

「その子なんだ、新しい馬って…」

「そうだよ。キング号さ。」


嬉しそうに微笑む彼を見て、ときめきを覚える少女がいた。
笑顔で世話をしている彼をずっと見つめている。


でも馬に夢中で全然構ってくれる気配がない。
自分に対してこんな態度をとられたのは初めてだった。
けれど少女は待つ。



30分が経過しても彼は彼女に構うことなく かいがいしく馬に餌をあげたり
藁を整えたりと忙しそうにしていた。


 (私のこと…   眼中にないんだ…)


途端に悲しくなった少女は一言叫んでぷいと走り出した。








汗を流しながら世話をしている少年のところに馬丁のキャボットがやって来る。

「リチャード様。 …お客様がみえられてるそうなので代わります。」

「…いいよ…って、ひょっとしてさっきからそこにいるファリアの事? 」

「いいえ、いらっしゃいませんよ。」

リチャードは先ほどまで彼女がいた場所を見る。
しかし姿はない。

「あれ? さっきまでいた…はずなんだけど?」

「もう40分以上前に到着されてますから…おかしいですね?」

「何処か散歩してるんじゃない?」

「はぁ…」









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(2005/5/10)_
(2007/2/13改稿)



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