away -8-


レッスン室に入るとラザリュスはピアノに向かい、ファリアはヴァイオリンを手にして
傍らに立つ。

ピアノの音に合わせ、奏で始める。


正直、ラザリュスは驚いた。

バイオリン科2年の友人・ティヨルより
やわらかで優美な音色。
演奏技術もティヨルより上に感じた。

お互い弾き終えて、顔を合わせる。

「どうかしら…?? ムッシュウ…??」

少し不安げなファリアの顔を見て、微笑んだ。

「ありがとう。お言葉に甘えていいかな?」

「勿論よ。お役にたてて光栄だわ。」

「じゃ、これからは僕の事、ユーゴって呼んで欲しいな。パートナーだし。」

「それじゃ、私の事もファリアって呼んでね。」

「…いきなり呼び捨ては出来ないよ。
マドモアゼル・ファリア。」

「じゃ、それで。」

音楽家を目指す二人には何か通じるものをお互い感じていた。



その日、二人でレッスン室で練習する様子をピアノ学科の教師たちが目にしていた。

ファリアが帰る時、声をかけたのはピアノ学科のフェーデ教授。
少し小柄な銀髪の初老の紳士。

「マドモアゼル。ちょっといいかね?」

「はい? 何でしょう?」


特別編入した彼女は教師たちから、ちょくちょく声を掛けられていた。

なんせ、アニー=グリフィズの孫娘。

未知数を秘めている彼女に皆、注目していた。



「ユーゴ=ド=ラザリュスのバイオリン伴奏をしていたようだが…
今日だけかね?」

「いえ、学内コンクールのためなんですが、ダメなんでしょうか?」

「あまり前例がないのでね。専攻科以外の楽器の伴奏をすることは。」

「そうなんですね… ムッシュウ・ラザリュスの伴奏者が事故で怪我して
出られなくなったそうで。 彼本人は出場を辞退するなんて言うものですから。
つい、私、伴奏を申し出ましたの?」

ファリアの説明を黙って聞いていた教授。
確かにヴァイオリン科2年ティヨルの事故は聞き及んでいた。

「そうか。そういうことか。
君、ヴァイオリンの腕前もなかなかのようだが…
何処の誰に教えてもらっていたのかね?」

「祖母に…2歳半くらいのころから。おもちゃ代わりみたいなものでしたわ。
ピアノもヴァイオリンもハープも…。」

彼女の返事に微笑む。

「あぁ、そうか。君の祖母はアニー=グリフィズ様。
…確かにあの方なら、教えられるね。」

「えぇ。6歳くらいからはフルートとアリアもです。」

「!? そうなのかね?」

「先の3つは物心つく前でしたけど、
フルートとアリアはプライマリースクール入学で始めました。」

多彩な彼女の片鱗を垣間見た教授は本気で驚いていた。
ピアノと他の楽器1つくらいなら こなせる生徒がいるのは知ってはいたが
これだけの数をこなせる生徒は今まで見た事がない。

「…なるほどな。それなら納得がいく。
解った、君の伴奏の件は他の先生方にも説明しておこう。」

「すみません。お手数おかけして。」

頭を下げる乙女に声をかける。

「いや、期待しているよ。
学内とはいえ、コンクール。審査の眼は厳しいぞ。」

「はい。解りました。頑張ります。」

お辞儀をして去って行った彼女を見送る教授。

フェーデ教授もはっきりと解ってしまった。
あの"アニー=グリフィズの血"だと。

彼女もピアノから入って、ヴァイオリンに。
それからハーピストを目指す道を選んだ。

孫娘の道を作りたくて、いろいろと学ばせたのだと。






******


ファリアは自宅に帰るとピアノ室で3時間のレッスン。
自分のレッスンが今日は出来なかったから。

しかし、コンクールが終わるまではこういう生活になると、覚悟を決めた。



 ―次の日

昨日と同じように午後のレッスンをする二人がいた。

ただ、ファリアは昨日と違うヴァイオリンを手にしている。

昨日より、さらに優美かつ洗練された音。

「あれ? マドモアゼル・ファリア…
昨日と音が違うんじゃないか?」

「やっぱり、解る?
コレ、私のヴァイオリンなの。
やっぱり手になじんでるし、音も好きだから
持ってきちゃった♪」

ヴァイオリンケースを見て驚くラザリュス。

「そ、それって?! ストラディバリウス??」

ヴァイオリンの最高峰と言われる名器。
しかも、骨董としての価値も高いので、めったにお目にかかるものではない。

それが目の前にある。

「これって、おばあさまが親しい音楽家の方から譲り受けたそうなの。
そこから、私に。
ロンドンの家から持って来ておいて、良かったわ♪」

「って、こんなとこ、持ってきて大丈夫?」

「大丈夫でしょ? まさか学生が持ってるなんて誰も思わないし。
現代にヴァイオリンのほうがお手入れ楽で、音もいいのがいっぱいあるもの。
こんな古い型のヴァイオリン、お手入れが大変だし、調律とかも大変なのよ。」

「確かに…」

骨董としての価値は高いが、保管や手入れの事を考えると
現代のヴァイオリンを手にする人の方が多い。




「さ、練習始めましょ。」

昨日と同じようにレッスンを始めるが
やはりさらに音色に透明感が増したように感じるラザリュス。

自分のレベルも上がっていくような気がした。







******


 ―――学内コンクール当日


予選を通過した12名が演奏する。
すでにくじ引きでファリアは7番。ラザリュスは11番となっている。



ファリアはドビュッシー「月の光」をしっとりと優雅に演奏。
その透明感に会場は静まり返り、聴き惚れていた。



そして、ラザリュスの番が来た。

曲目はベートーヴェン「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」Op12 第1楽章

ピアノの前にラザリュスが、そしてその前に7番目に出場したファリアがヴァイオリンを手に舞台に立つと
会場内がざわめいていた。

二人にとって想定内の出来事。

そして演奏が始まる。。。。

みな、その協奏に感嘆のため息。

ピアノとヴァイオリンの奏でる音が、二人の醸し出す空気が
素晴らしすぎたから。


曲が終わると、みな拍手喝采。







***

 そして、結果発表…

金賞はラザリュス。
銀賞はファリアとなった。

双方の演奏がとても素晴らしく甲乙つけがたく
選考に時間がかかってしまった。

ラザリュスもファリアも満足げな顔。

周囲の人たちは二人が交際しているんじゃないかと、思えるほど。


トロフィーの授与が終わり、みなが二人を囲む。

銅賞に入ったエリス=クプルムは置いてけぼり。





「ねぇ、二人は実は付き合ってるんじゃない??」

ファリアにストレートに質問する、クラスメイト。

「私、婚約者がいますし。ムッシュウ・ラザリュスはお友達でライバルだわ。」

笑顔で答えるファリアの横で、同意を示すが、
内心は心惹かれていた。












to -9-

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(2015/04/15+09/07)

あとがき

音楽院でのコンクール。。。
めっちゃ創作ですので、突っ込みはご容赦をm(_ _)m

に、してもコレ…長期連載になるな。。。。。



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