Abyss -2-






その日、悲劇の幕が切って落とされた―



ジョーイはおばであるケリーに毒を盛った。

紅茶に一滴。



夫人は眠るように息を引き取る。

ベッドの傍らで乙女は嘆き悲しむ。

突然の出来事に何も出来ずにいた。

泣きはらした目で1階のリビングで酒をあおる主人に報告に行く。


「旦那様…奥様が、ケリー様がお亡くなりになりました…」


「そうか…」

嘆くことなく落ち着いた様子のその男に乙女は訝しさを感じた。


「旦那様は奥様を愛していらしたのではないですか?」

思わず叫んだ乙女に男は近づく。


「愛していたさ…  その財産をな!」

笑う男に怒りを覚える。

「ひどい…」

まだ涙ぐむ彼女に男は飛び掛る。
あっさりと組敷かれてしまう。

「いやっ…止めて下さい!」

「この日を…この瞬間を待っていたんだ。
わしがお前を養っていたのはこの時のためだ!」

「い…嫌ッ!!」

ストイックな黒のメイド服の胸元を力任せに引き裂かれ
白いふくよかな胸が現れる。


「いやあああっ!」

彼女は股間を蹴り上げ、逃げ出す。

逃げた先には青年が立ちふさがっていた。

「甘いね〜  」

クックッと笑う青年は持っていたナイフで彼女の服を切り裂く。

長いスカートにスリットが入る。

「きゃぁあっ!!」

手首を掴まれ、壁に押しつけられる。

手がスリットから侵入し、太ももに触れた。

おぞましい悪寒が体中をめぐる。


「いやああ!」


彼以外の男に奪われるくらいなら…


彼…幼い頃の婚約者の少年の顔が頭をよぎる。


再び彼女は力一杯の蹴りを放ち、よこしまな男の手から逃げ出した。


屋敷を飛び出すとそこは真っ暗な森。



街の郊外にあるスミスの屋敷は森のそばにあった。




とりあえず森に逃げ込む。




「誰か…助けて…」


よろよろになりながらも乙女は走る。

その頃、屋敷では主人であるスミスがとんでもないことを使用人に言っていた。

「クリスタを見つけたものには一晩、貸してやるぞ!」

屋敷の男たちはみな、隙あらば彼女を…と狙っているものがいた。


大掛かりな捜索が始まる。











遠くで男たちの声が聞こえる。

「クリスタ!逃げても無駄だぞ!」


恐怖でいっぱいの彼女はただ逃げることしか出来なかった。






*******************


その頃。

ビスマルクチームはスミスの屋敷と反対方向の森のはずれで野営をしていた。

最近、デスキュラが近くの山中に潜んでいるとの情報を掴んだからだ。

4人はビスマルクマシンの外で焚き火をしていた。


森の異変に気付いたのは進児。

「なんだか騒がしくないか?」

「そうだな…何かあったのか?」

「様子を見に行った方がいいか?」

ビルとリチャードがそうつぶやいた。






一方、乙女の外に上がる煙に気付く。

     (誰かいる…?)

けれど、男だったらまた怖い思いをするかもしれない…

そう思うと踏み出せないでいた。

そっと火のそばにいる人物を見る。






「ねぇ、なんだか声が近くない?」

マリアンがコーヒーカップを手に進児たちにつぶやく。


茂みの中でクリスタは金髪の少女の存在に気付いた。


そのこともあってやっと安心して踏み出そうとした直後。
背後に男の声が響いた。


「やっと見つけたぜ!」


「は…離して!」

その声がビスマルクチームに聞こえた。


「一体なんだ?」

4人がプロテクトギア姿でその場に向かう。


黒いメイド服を引き裂かれた姿の乙女が見るからに無骨な男に腕を掴まれている。
何が起こっているのか一目瞭然だった。


「なんてこと!」
4人は驚く。

「その手を離せ!」

進児、リチャード、ビルが銃に手を掛ける。

銃口が男に向けられる。

「お願い!助けてください!」

涙ながらに乙女は懇願する。

「その汚い手を離せ!」

リチャードは静かに檄昂しながら叫ぶ。

その気迫に押された男は捨てセリフを吐いて逃げて言った。

「おぼえてろよ!クリスタ!」

解放された乙女は脱力していた。

「大丈夫ですか?」
マリアンが駆け寄る。
見るからに乱暴された痕。

「あ…ありがとうございます。」

ふうっと意識をなくし、倒れる彼女を抱きとめたのはリチャード。

「マリアン。すまないがベッドを貸してくれないか?」

「えぇ。」

二人はビスマルクマシンのマリアンの部屋へと乙女を運ぶ。

進児とビルは周辺を探りに出た。




マリアンとリチャードがベッドに運ぶと乙女は意識を取り戻した。

「あ…私?」

「大丈夫?ひどい目にあったのね?」

金髪の美少女マリアンがその顔を覗き込む。

「あ…   ありがとうございます。私…」

「ああ、気にすることはない。」

リチャードがそういうと彼女は自分の姿に恥ずかしくなる。


「ちょっと…出て行ってくれるかな?」
マリアンの言葉にその空気を読んだ彼は退室した。


「怪我は?」

「たいしたことはありません…」

けれど顔には殴打の痕。
足には切り傷擦り傷。手首には痛々しいほどのうっ血。
裂かれた服を脱ぐと細かい傷が目に入る。
マリアンは応急キットで彼女の怪我を手当てする。


「私の服だけど…これ着て下さいね。」

マリアンが差し出したワンピースに着替える。


「ここまでしていただいて…  ありがとうございます…」


「ねぇ、よかったら事情を話してくれない?」

「私…」

戸惑う乙女にマリアンは優しくける。


「私、マリアン=ルヴェール。あなたは?」


「私はクリスタ=ウェインライト…。」

乙女の瞳にぽろぽろと涙が溢れ出した。


「泣かないで…つらいことかもしれないけれど私でよければ力になりたいと思うの…。」

「私…   私…    」













******************




男性陣3人は森のはずれのスミスの屋敷に気付いたがすでにそこはデスキュラに攻撃されていた。


屋敷の主人らしき男も殺されていた。











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