Abyss -3-








マリアンに慰められ乙女は自分の身の上を話した。

しかし本当の名は告げなかった。


彼女のあまりにも残酷な身の上にマリアンは同情を隠せない。

事故で両親を失い、引き取られた先の義理の両親をも失った。
そして引き取られたスミス家での悲劇。





一方、ビスマルクのコクピットに集まった男性陣は突然 現れた乙女について話していた。

「それにしても…美人〜☆俺のタイプv」

「そんなのんきなこと言ってる場合か?」

「あの乙女をどこかで見た気がする…」
半ば嬉しげにしているのはいつものビョーキのビル。
ちょっと怒り気味な進児。ひとりつぶやいているのはリチャード。


リチャードはふと気付いたことが会ってマリアンの部屋に向かう。

出てきたマリアンに頼む彼。

「彼女に会わせてくれないか?」

「う〜ん…  リチャードひとりくらいなら大丈夫かな?」

「どういうことだ?」

「私たちの前に現れたときの状況、解っている?」

「ん?」

「彼女、複数の男の人に乱暴されかかったみたいなの…だから。」

「そのようだね。」

「だから、3人だったら彼女が怖がると思うけど…ひとりだったら大丈夫かなって…」

「僕もそのことをわきまえるから。」

「…いいわよ。でも私もいていい?」

「あぁ。」





マリアンのベッドに腰掛ける乙女は白いワンピースを着ていた。

先ほどまでとぜんぜん違う雰囲気に彼は驚く。

「大丈夫ですか?」

気遣うリチャードの言葉に安心を覚える。

「えぇ、何とか。」


「実は確かめたいことがあって来ました。」


「え…?」

リチャードはおもむろにクリスタの前にひざまづき、その左手を取った。

突然の出来事にクリスタもマリアンも驚く。

そっと彼女の左手の内側を見る彼の表情がみるみる変わる。

はっと気付いた乙女は手を引く。

「やっぱり…」

「どうしたの?リチャード?」

マリアンが彼をリチャードと呼んだ時、乙女の顔色も変わる。

「やっぱり…君は…ファリア… ファリア=パーシヴァルなんだね?」

その言葉を聴きたくなかった彼女は逃げることも出来なかった。
なによりその証拠があったから。

左手首の小さな小さな痣。
幼い頃からずっとあったその痣を知っているのは家族と彼だけ。

「私…」

そのやり取りに目をぱちくりさせるマリアンはリチャードに説明を求める。

「どういうことなの?」

「彼女は…僕の婚約者のファリア…。
5年半ほど前のアテナU号の行方不明者…。」

「あの…事件の?!」

マリアンはビスマルクチームメンバー選出のとき、3人のデータに目を通した。
その時に、リチャードに関して知ったことが「婚約者が行方不明」といった事実。

「どうして…ファリアを名乗らなかった?」

彼は優しく問いかける。

「私…あの事件の直後、記憶喪失だったの。
ガニメデ星の孤児院に送られて… 1年後、引き取ってくれたウェインライトの両親が殺されたときに思い出した。」

「!」

「でも今更、帰れないと思ったの。両親も弟も死んで、
孤児院にいたなんて解ったらパーシヴァル家に不名誉なことだって思ったから…
だからミドルネームのクリスタで…クリスタ=ウェインライトとして生きるしかないって思っていた…   」

泣き崩れる彼女を彼は優しく抱きしめる。

「僕は…探していた…」

「!」

「あの事件の後、周りの人間は君が死んだというけど僕は信じなかった…。
絶対に生きていると信じていた…。」

「でも…    私は…」





二人を見守っていたマリアンはそっと部屋を出た。
さっきの二人のあの空気は普通の関係ではないと気付いていた。
この先は二人の事だと察して。

コクピットの二人はリチャードの様子が変だったなと話していた。
そこへマリアンがやってくる。

「なあ。マリアン。」

「何?進児君?」

「リチャードのやつさ、何か変じゃなかったか?」

「あ…えっと…」

「何か知ってるのか?」

突っ込んでくるビルと進児にどう答えようか一瞬戸惑う。

「あとできっとリチャードが話してくれるわ。」

「な〜んか怪しいな〜。。」

「様子を見に行くか?」

「やめなさいよ。そんな無粋なこと。」

「なぬ!?」






******************


リチャードは優しく彼女に語り掛ける。

「君に過酷な運命があったのはこれから幸せすぎるくらい幸せになるからだよ。」

「え!?」

「君の父上は生きていっらしゃる。弟のアリステアもだ。」

「本当?」

「君の母上はまだ行方不明だ。」

「母はガニメデの或る教会に葬られているわ。名もないお墓に…」

「!」

「私の記憶がなかったから、だから。」

「そうか…そうだったのか…」

「ファリア。」

「 …はい。」

「心配しないで英国に帰るといい。
君の父上もローレン卿もお喜びになる。」

「お父様とお爺様が?」

「もちろん、僕もだけどね。」

彼の笑顔に安心する。

「私…回り道をしてきたのかしら?」

「そうかもしれないね。再び僕に会うために。」

微笑みあう二人にはもう言葉は要らなかった。











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(2004/10/11)
(2005/7/3加筆改稿)
あとがき)

あれ〜結構プロットの時点では不幸なお話だったのに
気付けばゲロ甘????

どういうことだよ!

このお話のポイントは…引き裂かれたメイド服(おい!)
私ってやっぱり変だ!



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