Unlimited  -11-






涙は止まったが、跡が残っている娘に声をかける。


「ファリア、一度顔を洗ってらっしゃいな。」

「はい。お母様。」


洗面台のあるバスルームへと向かう娘を両親は見つめる。

「ありがとう。すまなかったな、セーラ。
私が悪かったよ。」

「仕方がないわねぇ…あなたって人は。
娘を溺愛しすぎよ。」

「…そうだな。」



若い時のセーラに似ている娘。
あの頃の可憐な王女の子が自分の娘だと思えば
なお可愛くて仕方がない。





機嫌も治った少女は両親の元へと戻る。

「じゃ…大居間に行こうか。 ケーキも待っているぞ。」

「はい。」



1階の大居間に入ると祖父母と弟が笑顔で迎える。

「おかえり、ファリア。」
「おかえりなさい、姉さま。」

「ただいま…」

はにかんだ笑顔を皆に向ける。

弟アリステアは姉に近づき囁くように言う。

「父様さ、姉さまをウィーンに行かせてから溜息ばかりでさ、
お酒ばっかり飲んでたよ。」

「え? ステア、それホント?」

「お母様とおばあさまにお酒のビンを没収されてた。」

「そうなの? お父様?」

父を振り返り問いかける。

「あ、あぁ…」

「そうだったの…」

先ほどの父の言葉と弟の話でかなり父が淋しがっていたことを理解した。
見ると父は少し照れ臭げな顔をしている。
さっき勢いで言った言葉を反省した。


「お父様…大嫌いだなんて言ってごめんなさい。」

「もういいよ。私も悪かった。 
さ、今日のケーキはお前のためのものだ。
思う存分、食べなさい。」

「太って欲しいの?」

「少しな。
ここに肉が少し足りないぞ。
リチャード君もあったほうが喜ぶと思うがな。」

「ま、失礼しちゃう。
彼は巨乳好きじゃないわよ。」

「おやおや…」

父と娘がやっと以前と変わらないように会話をしているのを見て
家族は安心した。

「あら? ファリア、その指輪は?」

祖母が目に付いたので口にした。

「あ、コレ? リチャードからのクリスマスプレゼントよ。
ウィーンに送ってきてくれたの。」

「へぇ…さすがリチャード君。抜かりないってことね。」

祖母と母は笑顔でリングを見つめる。



「お嬢様。どうぞ。」


メレデス夫人がケーキを切り分けて、皿に乗せて置いてくれた。

「ありがとう。メレデス夫人。
…ただいまを言うのを忘れてるわね。ごめんなさい。」

「いえ、いいんですよ。お帰りなさいませ。」

「えぇ、ただいま。」




やっと笑顔がパーシヴァル邸に響く。

令嬢がウィーンに行ってからあまり聞くことのなかった明るい家族の笑顔―





夕食は家族全員 ドレスアップしてホテルリッツのレストランへと。






   *


夜9時過ぎ、リチャードから電話が入る。

「ファリア…家族全員で楽しんでる?」

「えぇ。リチャードもでしょ?」

「あぁ。」

「ねぇ、ウチの父が言ってたのだけれど
1泊2日でパリに旅行って…あなた聞いてる?」

「さっき僕の父から聞いた。
意外な事してくれるね、僕の父と君の父上。」

「そうね、驚いちゃったわ。」

ふたりして笑顔になっていた。
その空気は電話越しでもわかる。

「明日のことなんだけど…昼前に会いに行くよ。」

「えぇ。待ってるわ。」

「ウチの家族も行くことになったんだけど…」

「え?! なんでまた…??」

「僕の両親も祖父母も君の顔を見たいって事なんだけど…
なんか企んでそうなんだ。」

「そうなの? 
明日、逢えるの楽しみにしてるわ。」

「僕もだよ。…それじゃ、おやすみ。」

「えぇ…おやすみなさい。」



電話を切った少女はふと考える。

 (それにしても… リチャードは約束してたから、解るけど… 
  ランスロット公爵一家揃って…? 
  確かに何かありそうね…)











―27日

昼少し前に隣の敷地のランスロット公爵一家5人がやってくる。

「ファリア! 久しぶり。 元気で何よりだ。」

「リチャード! 来てくれてありがとう。」

ふたりは軽く抱き合って頬にキスする。

「コレ…君に。遅れちゃったけど、クリスマス第2弾。」

「なぁに?」

「開けてみてよ。」


中身は知っているけど、ドキドキしながらラッピングを開ける。
もちろん例の乙女のスノーグローブ。

「わぁ…奇麗♪」

「コレ…お揃いなんだ。
僕がユニコーンで、君のが乙女。
結婚したら並べて置こうな。」

「えぇ。」

ふたりの笑顔を見て両親たちも笑顔になる。

ランスロット公爵エドワードは少女に小さな箱を差し出す。

「ファリア…これは私達から。」

「え? おじ様たちから?」

思わぬプレゼントに戸惑い、母に顔を向ける。

「いいのかしら…お母様?」

「いいじゃない。頂いておきなさい。」

「ありがとうございます。おじ様、おば様。」



箱を受け取り、ラッピングを解いてく。

小さな木の箱にはランスロット家の紋章のブローチ。

「え? コレって…!!」

「そう。我がランスロット家の紋章のブローチ。
ホントはリチャードの手から婚約指輪をと思っとったんだが
君はデビューパーティもまだだから。
代わりに…受け取って欲しい。
君は息子の未来の花嫁なんだから…」

「あ…はい。ありがとうございます。」

ブローチを両手で胸に抱きしめる。

彼の両親も優しい笑顔で少女を見つめる。


「実はさ、コレ、僕も同じの父上から貰った。」

「え?」

少女は少年の父の顔を見つめると笑顔で強く うなづかれた。

「ありがとうございます。おじ様、おば様。ホントに…嬉しいです。」

思わず少女は近づき、エドワードの頬にキスする。

「あ…」
「え…ッ!?」

リチャードとアーサーだけでなく、その場にいた全員が少し驚いていた。

「はは… そんなに感激してくれて…嬉しいよ。」

「おい、エドワード…私より幸せものだな。」

「え?」

「娘は帰ってきてから、私に一度もキスしてくれてない。」

「おや…ははは…」

少々むすっとした顔の少女の父がいた。
部屋にいた全員から笑い声が上がる。






パーシヴァル公爵家の当主の顔になったアーサーは言葉を切り出す。

「ところで今日、ランスロット公爵家の方々に揃って来て頂いたのにはワケがある。」

アーサーは真剣な眼差し。

「娘のデビューパーティを来年5月に。
秋10月くらいにふたりの婚約発表をと思ってるのですが…
ご意見を頂きたくて。」


「お父様…」
「アーサーおじさん…」

本人達は驚いた瞳を向ける。

「あぁ。それでいいと思うが…アーサー。」

エドワードが答えるとメアリ夫人もセーラ夫人もふたりの祖父母も笑顔でうなずく。

「それでは全員賛成ということでよろしいですかな?」

拍手がリチャードの祖父・モーティマー卿から起こると全員に広がっていく。


「じゃ、リチャード君、ファリア。
来年5月にデビューパーティ。
それから10月に…正式な婚約披露パーティということで…いいね?」

「「はい。」」





正午にはパーシヴァル家6名とランスロット家5名の計11名でのランチ。


幸せな笑顔に包まれていたふたり―――







   *


―29日と30日はふたりだけでパリ旅行
朝9:30には彼が迎えに来て、ふたりでユーロスターでパリへと向かう…



車中、ふたりは幸せそうな笑顔を浮かべていた。

「ね、リチャード。 私の父、あなたがウィーンに3泊4日もしてたこと…
全く知らなかったの。 正直に言ってないんだけれど、私。」

少々良心が痛むが、リチャードとふたりの時間を過ごせたのが嬉しかった。

「僕さ、前日に父上にスイスからウィーンに行くって連絡したんだ。
僕が自分でパーシヴァル公に連絡するって言ったんだ…
父上が自分で伝えておくって言っていたのに、言ってないって。
パーシヴァル公から今回の旅行の話を聞いた時に、
言い出せなかったって。
僕達の気持ちもパーシヴァル公の気持ちも解るから…
言えなかったんだって。」

「そう… お父様をいじめすぎちゃったかしら?」

「もう気にしないでいようよ。
僕がウィーンにいたこと、知らないなら知らないでさ。
僕も正直に話せないよ。
その上、僕と君を…泊まりで旅行に出してくれた心境を考えたら…」

「そうね。もう気にしないわ。
その代わり、来年から淋しくても頑張るわ。」

昨日の父の顔を見たらロンドンに留まってもいいかと思うけれど
せっかくウィーン音楽院にストレートで合格したのだから
行きたいと思っていた。



「僕も…頑張るよ。
そして早く大学を出て、君を正式に迎えに行く。」

「…えぇ…。」

彼の言葉で嬉しくて笑顔がこぼれる。
もちろん、彼も…




親公認の初めてのふたりだけの旅行。
1泊2日とはいえ ふたりにとって幸せな時間。





パリのホテルにチェックインすると もうお昼。

荷物を置いてふたりは街のレストランへ。


終始、笑顔のふたりがいた。







「あぁ、そうそう…君に渡したいものが。」

「あら?なぁに?」

部屋に戻った途端、彼が荷物から小さな箱を取り出してくる。

「…はい。コレ。」

「ついこの間、クリスマスで貰ったのに? …開けてみていい?」

訝しげに彼の顔を覗き込む。

「いいけどさ… 僕ちょっと…」

「??」

彼の反応にワケが解らない。
とりあえず開けてみる。

箱はかなり軽い。

丁寧にリボンを解き、ラッピングを外していく。
中にはベビーピンクのペーパーボックス。
蓋を開けてみて驚く。
予想外のものが入っていた。

「え…!!?? リチャード、コレって… えッ!!」

中身は… レースフリフリのブラ&ショーツ(勿論、ベビーピンク♪)


「何で…?? ねぇ、コレ可愛いし、嬉しいけど…?」


疑問符で頭いっぱいの彼女の前の少年は頬を染めていた。

「あ、の…さ、 」

珍しく歯切れの悪い彼。

「ウィーンの…最初の夜に…君がその…忘れていったの、
憶えてる?」

「え? あ…」

記憶の糸を辿ると確かにショーツを忘れていったことに気づく。

 (そういや、そうだったわ…)




「僕…正直、どうしようかと思ったんだ。
で、とりあえず、預かってる。 というか持ってる。
その代わり…」

彼の視線は少女の手に持っているものに注がれる。

「え? そうなの…」

「…うん。」


少し恥ずかしそうにしている少年に問いかけた。

「…どうやって買ったの??」

「…ネット通販。」

「それは、そうするしかないわね。
…って、ブラのサイズ、どうして解った訳??

「あ、その… 以前に君のをチラッと見たから…」

「でも、サイズ変わったって事、わかってたんでしょ?」

「そのことも考慮して。」

思わず驚きの顔を見せる。



「リチャードって…予想外の事、してくれる…」

「呆れた?」

「ううん。 嬉しいし楽しいわ。
あなたの新たな一面ね♪」

「はは…」

やっと照れ臭い様子が和らぎ、笑顔を見せる。
彼に抱きつき、頬にキスする。
嬉しそうになる少年。




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(2005/11/21+12/20)
(2015/04/23 加筆改稿)


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