Unlimited  -4-




コートを着て二人は連れ立って出かける。

英国であまりこういうことがなかったので妙に照れ臭い。

外で手をつないで歩くなんて状況は今までなかったこと―




   (リチャードの手…大きくなってる…それに、あったかい。
    私、いつもこの手に守ってもらって…
    抱きしめてもらってるのね…  )



ふっと彼の横顔を見ると胸がきゅーんとなる。

   (やっぱり…好き…  )




ぼうと彼を見つめていた。

「どうした?ファリア…」
「え。あ、なんでもない。」

「そう?」

優しいエメラルドの瞳を向けられる。


少年の方もまた、どきどきと鼓動が高鳴っていた。

   (どうしよう… 僕の手、汗ばんでないか…
    それにしても…ファリア… やっぱり女の子だな…
    小柄だし、手も…小さいな…)




しばらく当てもなく歩いていた ふたり。

「リチャード…」

「うん?」

少年を見上げる少女の顔にはちょっと申し訳なさそうな表情。

「私、二ヵ月半、ウィーンで暮らしているけど…あまり外出してなくて、
レストランとか知らないのよ。」

「え?」

「だから…戻らない? やっぱりおば様、おひとりで淋しいだろうし…」

「いいよ。」

少女の優しい想いを察して、微笑を返す。

「…ありがとう。」

二人は来た道を戻っていく。




邸まであと5分ほどの路上で少女は立ち止まる。
前には老舗のケーキ屋。

「あ、ちょっと待って。
…ここの焼き菓子、美味しいのよ。
お土産に買って帰るわ。」

店に入ると40代後半の店主の男がにこやかに迎える。

「いらっしゃい。…おや、ランドール夫人とこのファリアちゃん。
今日はデートかい?」

いつも笑顔の店主が問いかけてくる。

「え、えぇ… 。
お邸に戻るから、いつもの下さいな。」

「はいよ。」

店主が菓子を包んでくれている間、少年は店を見回していた。


「…確かに、女の人が好きそうなお菓子が多いね。」
「でしょう? 私、いっぺんに虜になったの。」
「…そうか。じゃ、僕、帰国の時に買って帰ろうかな…」
「あなたって意外と好きだものね。」
「意外はないだろう? 
やっぱり美味しい紅茶には美味しいお菓子が必要だろう?」
「それも、そうね♪」

「ファリアちゃん、お待たせ。」

包みを出してくる店主。

「あ、ありがとう、おじさん。…なんかいつもより多くない?」

確かにいつもより少し重い気がする。

「あぁ。ウチのファンだって言ってくれたしね、おまけしといたよ。
そっちの彼にしっかり食べてもらってくんな。」

「あ…りがとう。」
「ありがとうございます。いただきます。」


少女が代金を払おうとしたが受け取らない。

「いいよ。いつもランドール夫人にもご贔屓にしてもらってるし。」

にっと笑って少女の出したお金を返す。

「でも…」

「いいから。」

「ありがとう…」

はにかんだ笑顔を店主に見せると、向こうも笑顔で返してくる。


「ファリア、貸して。僕が持つよ。」

「え?  ありがとう。」

少女から買った商品の包みを受け取ると彼女の手を引いて、
店から出て行く。




ふたりが店から出ると店主は少女がいつもと違う笑顔なのに気づく。

「ありゃ〜、相当、彼氏が好きみたいだな。
…ウチの息子の失恋、確定ってとこか。」


実はここの跡継ぎの息子(18歳)がほのかに片思いしていた―





ランドール邸に戻るとメイドが出迎える。

「ただいま。」

「あら…? お嬢様、お戻りに?」

「えぇ。 ランチ、まだだからおば様と一緒に頂くわ。」

「まぁ、外でと聞いておりましたけど…いいのですか?」

「いいの。ねぇ、リチャード?」

小首をかしげて少女は少年に尋ねると笑顔。

「あぁ。」

「…解りました。 まだ少しお時間早いですから、呼びに行きますね。」

「お願いね。」


ふたりが連れ立って少女の部屋に行こうとした時、
再びドアベルがエントランスホールに響く。

「今度は誰かしら?」

メイドが出ると…ホテルのオーナー・メイザー。

「あら、メイザー様。こんにちは。」

「チェックアウトした客人のスーツケースを持ってきたよ。
…夫人は?」

「はい。応接間に。」

まだエントランスホールから出ていなかった少年と少女に気づく。


「…って、やはりリチャード=ランスロット君と言うのは君か…」

「あなたがMr.メイザーだったんですか。
どうりでここの住所を見せて解った訳だ。」

ホテルで夫人の住所を見せて、行き方を教えてくれた人物が実はメイザー。


「はは…そうか。 君がファリア嬢の許婚だったとはね…
スーツケースの持ち主が英国の少年だとは聞いていたが。」

「えぇ… ランドール夫人がお話に?」

「そうだよ。 …どうやら本物の恋人同士のようだね。君たちは。」

笑顔で指摘され照れるふたり。






メイザーは応接間に通され、ふたりはリチャードの客間へと。


彼はメイザーからスーツケースを受け取ると、自分で運んだ。

「…意外と大きなスーツケースだったのね。」

「あぁ、冬物は結構かさばるからね。」

「そうね。」


スーツケースの荷物を少々片付ける。
少女は彼を手伝っていた。




ふたりが荷物を片付け、何気ない会話をしていると
メイドがランチの時間だと知らせに来た。

手をつないで連れ立って食堂へ向かう。


テーブルにはランドール夫人とメイザー氏の姿。

「あら? メイザーさんもなのね。」

少女が呟くと笑顔の夫人が出迎える。

「あらあら…ひとりきりのはずが4人になっちゃったわね。」



少女の椅子を少年が引く。

少年が席に着くと料理が運ばれ始めた。



歓談しながらの楽しい食事の時間が過ぎていく。


食事の終りかけにメイザーが少年達に顔を向けて言う。

「良かったら、観光案内でもしようかね?」

「あら、ふたりの邪魔をしちゃいけないわよ。」

夫人の言葉でふたりは少々照れる。



「そんなこと…」

「あの、僕、ウィーンに来るの初めてなので、お願い出来ますか?
いいだろう?ファリア?」

「えぇ、メイザーさんのご都合がよければ。」

「よし。英国からの客人だ。しっかり英語で案内しましょう。
なんだったら夫人も来てくれないかな?
このふたりに当てられそうだ。」

「ふふ…そうね。」


食事を終えるとメイザー氏は自分の車に3人を乗せ、市内を案内して廻る。
しっかり観光させてもらうふたり。
さすが名門ホテルのオーナーだけあってツボを押さえた場所ばかり。


ランドール夫人とメイザー氏は16歳同士の可愛いふたりを笑顔で見守ってた。

せっかくだからと夕食はメイザー氏のホテルのレストランで。
帰りもしっかり送ってもらう。








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(2005/10/19+20)
(2015/04/22 加筆改稿)


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