Unlimited -2- 少女は父にふたりのことが解ってしまった3日後に 祖母に連れられウィーンへと旅立つ。 音楽家でピアニストのヨハンナ=ランドール夫人の家に預けられることに。 祖母アニーの若い頃からの友人でもあるヨハンナは 快く親友の孫ファリアを受け入れてくれた。 少し憔悴しているのが気になっていたが。 「しばらく私も滞在していいかしら?」 「え?」 アニーはヨハンナに問いかける。 「この子、英国以外での長期の生活は初めてだし、 いきなりひとりは辛いだろうしね…」 「えぇ。いいわ。」 笑顔でヨハンナはアニーに答える。 祖母の気遣いに気づく。 「おばあさま…」 ここに来ることになった事情を良く解っているだけに、 いきなりの環境の変化が孫娘のストレスになると感じていた。 「ファリア、いいこと? ここで立派なピアニストに…素敵なレディになるの。 いつか、リチャード君が迎えに来てくれる、その日まで…」 「はい…」 少年も同じ頃、祖父に連れられオックスフォードの大学へと… 男子寮での生活が始まる。 * 少年がオックスフォードに行って一ヵ月後。 週末、久々に実家のランスロット城に帰っていた。 父のところにパーシヴァル公爵が来ている事を知っていた彼は ふたりがいる書斎へ向かう。 途中、お茶を運ぶキャスリーン夫人に会う。 「ソレ、父上たちに?」 「はい。ひと段落着いたから、持ってきて欲しいと…」 「そっか… 僕、父上たちに用事があるから一緒に行くよ。」 「はい。」 書斎に入ると父親達は和やかな顔をしていた。 それを見て少し怒りを覚えそうになったが、ぐっとこらえる。 「おや…リチャード、戻ってたのか…」 「えぇ…」 少年の険しい顔を見て表情を固くする父ふたり。 「父上たちに聞きたいことがありまして…」 傍らでキャスリーン夫人は紅茶を入れながら聞いていた。 「たち? 私達になんだ? わざわざ…」 一度呼吸を整えて、少年は切り出す。 「……。 ファリアに、手紙もしてはいけないのですか?」 「「え?」」 突然の問いに父親たちは驚いた。 「そばにいないんです。逢えないんです。向こうで一人なんです。 きっと…淋しがっているはずです。せめて手紙くらい…いいでしょう?」 リチャードの言葉を聞いて、切なさを感じた。 「あ…」 アーサーは娘の性格を良く解っているだけに自分も切なくなる。 最近やっと、自分が厳しすぎたかもと思う時があった。 愛娘の顔を自分も1ヶ月以上見ていない… 「あぁ… 手紙してやってくれ。 住所は…」 自分の手帳を懐から出し、書き出してメモにして渡す。 「今はまだ、母上が一緒にいるが…明日にでも帰国してしまう。 ランドール夫人という、母上の友人のピアニストの邸にいるよ。」 「…そうですか。」 少年は目を細めてメモを受け取る。 「ありがとうございました。 それじゃ、僕、失礼します。」 アーサーにとって確かに怒りを向けるべきなのは少年。 しかし、その彼の顔を見てみると 本当に自分の娘を愛しているのだと解る… 少年は自室に戻ると手紙を書き始めた― ―3日後 ウィーンのランドール邸に少年の手紙が届く。 居間で その手紙の差出人の名を見る夫人。 不審なものは届けないようにと言付かっている。 「奥様… ファリアお嬢様宛にお手紙が…届いてますが?」 「リチャード=ランスロット… 確か、許婚だと聞いているわ。 渡してあげてちょうだい。」 「かしこまりました。」 午後のピアノのレッスンの休憩で少女は与えられた部屋でしばしの休息中。 もともと食が細いのにここに来て2キロも体重が減っていた。 少し顔色も悪い。 カウチでまどろむような様子の彼女に声をかける。 「あの…お嬢様。英国からお手紙です。」 「手紙? そう…ありがとう。」 受け取り、裏を見て息を飲む。 ランスロット家の封蝋。 「!? リチャード!!」 慌てて封を切る。 "My lover faria. 元気かい? ウィーンはもう寒いだろう… 風邪なんてひいてないか? 僕はやっとオックスフォードの男子寮の生活に慣れてきた。 集団での生活というものはなかなか大変だけど、楽しい面もある。 勉強だけでない、色々なことを学んでいるよ。 大学だから99%が年上の人間だけど僕より本当に年上だと信じられない人もいる。 正直、高校とは違う雰囲気と人間関係に考えさせられる。 友人(と言う名の先輩)に恋人がいると言ったら、驚かれた。 どうも僕に想い人がいるのが意外らしい。 でも僕の心の中にいつも君がいる。 例え離れていてもファリアを感じる瞬間がある。 だから…僕は淋しくない。 ウィーンでファリアがピアニストを目指して頑張っていると思うと励みになる。 僕達は愛しすぎて、引き離された。 けれど、僕は今も 君を感じてる… いつか…また逢える。それまで… 君を心から愛するリチャードより" ぽたぽたと涙が溢れた。 「リチャード!! リチャード…ごめんなさい。 私、嘆いてばかりいたわ。 あなたもオックスフォードでひとりで頑張っているのに… ごめんなさい…」 手にしていた手紙に謝る。 レッスンしていてもあまり本気で立ち向かっていなかったことを反省する。 「リチャード…私、頑張るわ。 いつか胸を張ってピアニストになったって報告するために。」 少女はすぐに便箋を手に取った。 "My lover richard. わざわざお手紙ありがとう。 とても嬉しくて、感激したわ。 私、あなたに謝らなければならない。 ウィーンに来て1ヶ月、おばあさまはそばにいてくださったけど、 やっぱりあなたがいないと淋しくて…嘆いてばかりいた。 けど、あなたが私を信じてくれていることがわかって… やっと頑張らなきゃって思えるようになった。 本当にありがとう。 私も時々、あなたのぬくもりを思い出していたり、 声が聞こえたような気がする時もあったのよ… 私は今、ウィーン在住のピアニスト・ヨハンナ=ランドール夫人のお邸に お世話になってます。 おばあさまの古い友人で昔一緒にロンドンの王立音楽院にいらしたそうです。 私はピアノの指導を受けていますが時々、私がハープで ランドール夫人のピアノに合わせて演奏したりもしています。 年内にはウィーン音楽院の入学試験を受けることになりそうです。 私、頑張るわ。 リチャードがオックスフォードで孤軍奮闘しているのですもの。 私も… リチャードも身体には気をつけて、頑張ってください。 あなたを心から愛するファリアより" ペンを置くと少女は愛用しているバラのトワレを軽く拭きかけた。 そしてオックスフォードの大学の寮に手紙を送る― それから3日後― オックスフォードの寮のリチャードの元にファリアからの手紙が届く。 返事がすぐ来たので嬉しい少年。 すぐに寮の自室で開ける。 文章を追っている内に…明るい笑顔になっていく。 「やっぱり…淋しがっていたか…。よかった。喜んでくれて… 元気になってくれたみたいで…」 手紙から香るバラの香りで 少年がひとり幸せに浸っていると同室の先輩が戻ってきた。 「おや…? リチャード、何やってんだ? てか、何?このバラの香り…??」 「あ、すみませんね。僕の彼女からの手紙にバラのトワレが…」 「は? マジ? あの話…てっきり…」 「僕の恋人、今、ウィーンにいるんです。 手紙出したら、すぐ返事が来て…」 「へぇ〜…」 しばらく寮で彼は"バラの香りのする彼女持ち〜"とからかわれていた。 * ―年の瀬も押し迫りだすクリスマス休暇。 少年は先輩達にスイスにスキーに行こうと誘われる。 断る理由もないので行くことにした。 まだ少し父と顔をあわせづらいと思っていたので渡りに船。 4泊5日でスイス・スキーツアーとなる。 先輩5人と共に少年は久々のスキーを楽しむつもりだったが… 実際、ゲレンデへ出ると先輩達は何人もの女性客に声を掛けている。 少年はひとり離れ他人のフリをしていても、呼びつけられナンパを手伝わされてしまう。 呆れている様子の少年に先輩の一人が両脇に女性を抱きしめて言う。 「リチャード…お前、男を楽しめよ。 ホモだったんか??」 「違いますよ!!」 「じゃ、ひとり譲ってやろうか? なぁ、コイツまだ16歳だけど…大学生なんだぜ。どう?」 両脇の女性に尋ねる先輩。 メッシュブラウンの女性が笑顔で答える。 「いいわよ〜♪こんな若くて可愛い男の子で大学生!! エリートなんじゃない!!」 めっちゃ乗り気の女性の笑顔と下心に嫌気が差した。 「結構です!!(怒)」 少年はぷりぷり怒りながらゲレンデを出る。 「全く… 何しに来たんだ?! あの人たちは… 女性と遊ぶためか?? 」 ひとり憤慨して叫んでいた。 「帰ろう…付き合うのも馬鹿馬鹿しい…」 ひとり、すたすたとホテルへと向かって歩く。 (そういえば… ウィーンってスイスの隣の国・オーストリアだ。 …ファリアに会いに行くか…ここまで来てるんだしな。) 少年は速攻、ホテルをチェックアウトして、先輩達に伝言を頼んでおく。 "先に帰ります。 ウィーンに寄って帰りますから、ご心配なく!! By リチャード" スイス・ジュネーブ空港からオーストリア・ウィーン空港行きの便に乗ることにした。 フライト前に英国の父に電話する。 「…先輩達と別行動することになりました。」 「…何故だ?」 父からの問いかけは想定ずみ。 「あの人たち… 女性に声掛けて、遊ぶことしか考えてないんです。 馬鹿馬鹿しくって付き合いきれませんよ。 それで…ウィーンのファリアに一目、逢ってから帰ります。」 「何だと?!」 「ご心配なく。 顔を見に行くだけですから。 何もやましいことはありませんよ。 …その…パーシヴァル公爵にも連絡した方がいいですか?」 殊勝な言葉を聞いて、父は返答する。 「…解った。アーサーには私から話しておく。」 「…ありがとうございます。それじゃ…」 フライトまであと20分― 隣の国…とは言ってもスイスを横断することになる。 1時間30分ほどのフライト。 夜に到着したためすぐにホテルにチェックインして、ひとりで食事をして休む。 「明日には逢えるよ…ファリア…」 ひとり、笑顔で眠りに落ちていく― to -3- ________________________________________ (2005/10/19) (2015/04/21 加筆改稿) to -1- to Love Sick Menu |